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勇者と馬車旅

「よし、オックス山脈を目指して出発だな!」

「まずは、馬車に乗らないとですねっ」


 今回のクエストは、商会からの依頼であるため、そのまま目的地に向かうことになっている。

 オックス山脈自体は、ハウラスの東側に位置しているが、今回の目的地を目指すには町を迂回したルートを通らなければならず、馬車で向かうのがセオリーとなっている。

 そのオックス山脈の麓に、今回のターゲット、アイスクラブが生息している。

 そんなこんなでまずは馬車乗り場へ向かっていた。


「うわぁ!レイジさま、ここが馬車乗り場なんですか!!」


 馬車乗り場に到着して、すぐにリリスが感嘆の声を上げた。

 ハウラスは、交易の中心地点にもなっているため運搬用の馬車が特に多く、たくさんの馬車が停留していた。


「向こう側に大きな倉庫のような建物もありますよっ」


 続いて、声を上げたのはロアだった。

 ロアが言うように、馬車が並ぶ停留場の奥側には巨大な倉庫が並立していた。


「あのデカい倉庫に運ばれてきた積荷を一旦、保管してるんだそうだ」


 俺は倉庫を指差しながら、ギルドで聞いた話を得意げにする。

 ハウラスには、いくつかの正門が存在するが、その中でも巨大倉庫が立ち並ぶこの北門は馬車の出入りがかなり激しい。


「倉庫の付近に、冒険者らしき人達もたくさんいますねっ」

「きっと倉庫番のクエストだろ」

「物騒ですね…」

「あの倉庫が襲われると、この町含め周辺国へ甚大な影響が出るでしょうからね」

「おい、ロア。絶対にあの倉庫には近づくなよ」

「なんで、私なんですかっ!」


 俺たちは、倉庫を横目に乗用馬車エリアへ向かう。

 乗用馬車のシステムは、各々が御者と契約を結んで目的地まで乗せてもらうというものだ。

 現代で言うところのタクシーに近い。


「よう、兄ちゃんたち!冒険者だろ?4人かい?」


 早速気前の良さそうなおじさんが声をかけてきた。


「ああ、そうだ」

「場所は?」

「オックス山脈だ。アイスクラブが目的だ」

「それじゃあ、銅貨5枚だ。すぐに出発の準備をするから少し待っていてくれ」


 馬車の運賃を支払うと、俺たちは4人乗りの馬車へと案内された。

 馬車の作りは非常にシンプルなものだったが、キャビンは思ったほど狭くなかった。

 側面には小窓も付いていて、景色を見ながらの快適な旅ができそうだ。

 ただ一つ気になったことがあった。


「おじさん、馬は1頭だけなのか?」

「なんだい?補強馬車は初めてかい?」

「聞いたことないな」

「補強馬車ってのは、特殊な魔道具で馬の身体能力を強化させた馬車のことでね。俺の愛馬でも普段の2倍以上の力を出せるんだぜ」

「へえ、それはすごいな!」


 おじさんの馬を見ると、その額や蹄などに魔道具がきっちり装着されていた。

 リリスもそんな馬に興味津々だったのか、馬に駆け寄っていた。


「こんにちは、お馬さん!今日はよろしくお願いしますね」


 リリスは、馬を撫でながら丁寧に挨拶をしていた。

 礼儀正しくて本当にいい子だ。

 将来は、必ず素晴らしいお嫁さんになるに違いない。

 何となく、ヴェーノも同じように考えているだろうと思って見ると。


「ホント、リリスちゃんは良い子だわ!絶対に私のお嫁さんにするわ」

「お前の嫁かよ!」

「は?何か文句でも?」

「あっいえ、お似合いだと思います……」


 ヴェーノの強めの口調に俺はすぐに頭を下げた。

 決して、怖かったわけではない。

 それとヴェーノは、俺の考えの上をいっていた。

 そんなリリスは、現在何やら馬と会話しているようだった。


「はい!そうなんですね!はい!よろしくお願いします!」


 まるで人間同士の会話かのように話していたので、もしかしたらリリスは動物と話せるのかもしれない。

 そう思って、尋ねてみる。


「リリス、動物と話せるのか?」

「いいえ、リリィはそんなことできませんよ?」

「え?」

「多分、そんなこと言っているだろうなって気がしたんです」

「勘がいいかよ!」

「レイジさま。この子、ディープインパクトって名前みたいですよ」

「完全に伝説の名馬の名前だな!」


 馬と話せないと言ったリリスが、さきほど遠くから見ている様子では本当に会話しているように見えた。

 恐らく本当は、動物と会話出来るけど、それは言えないのだろう。

 そんな隠し事はしなくていいと思うんだが、もしかしたら過去に何か嫌な思いをしたことでもあったのかもしれないな。

 ここは、黙っておくかと思っていると、またリリスが馬と会話を始めた。


「えっ、そんなことありませんよ!レイジさまは、立派な勇さまです!」

「今度はどうしたんだ?何か俺について言ったのか?」

「あの……レイジさまのこと、弱そうな勇者だなんて言うのでそんなことないですよって!」

「……!?それは、馬が言ってるんだよな……?」


 先ほど、馬と話せないと言われた手前、半信半疑になる。

 リリスが、俺のことを本当に弱いと思っていて、馬が言っていることにしているのではないかと怖くなってくる。

 いや、絶対に馬が言ったことであってほしい。

 リリスにまで見放されれば俺は終わりだ。

 さらに、またリリスは馬と話出す。


「えっ、そんなことないです!全然違います!」

「……あの、次はなんて?」

「その、レイジさまの体臭が臭そうだって…」

「……俺、もう死にます」

「レイジさま!?」


 絶望する俺を、ヴェーノはただ笑いものにしていた。


「さあ、乗った!乗った!」


 あっという間に、御者が準備を整え、俺たちを馬車のキャビンへと案内した。

 中は、簡易のシートが付いていて後方には荷物を置けるスペースもあった。


「思ったより広いよな」


 外から見ていた通り、中はゆったりとした造りになっていた。

 冒険者が乗る馬車なんて、みすぼらしい物だと勝手に思っていたので、これは正直驚いた。

 座席は二人席が前後二列となっていて、後方には荷物を置けるスペースまであった。

 リリスが、その後部座席に座ると、ヴェーノはすぐさまその隣に座った。

 なので、俺はロアと前部座席に座ることになった。


「それじゃあ、馬車を出しますよ?」

「ああ、頼む」


 確認しに来た御者に、了承の合図をするとキャビンの扉を閉めて御者席へ向かった。

 それから間もなく馬車はゆっくりと動き出した。

 いよいよ新しいクエストに出発だ。

 そんな中、ふとハウラスに来る時、村人に乗せてもらった馬車のことを思い出した。

 窮屈な上に、長時間乗っているとお尻が痛くなる馬車だった。


「あの馬車は辛かったな」

「レイジさん、馬車に乗ったことあるんですかっ?」


 俺のぼやきが聞こえた隣の席のロアが不思議そうに聞いてきた。


「ああ、人を呼ぶだけ呼んどいて、迎えに来ないどこかの女神様のせいでな」

「そ、それは悪かったので……そんな怖い顔しないでくださいっ!」

「まあ、いいさ。せっかくこうしての4人旅なんだし。怒ってなんかないで、楽しみたいよ」

「そうね。リリスちゃんと二人きりだったら、もっと最高だったでしょうね」


 後ろの席からヴェーノが、不機嫌そうに言った。


「そうだ、あなたたち2人は走ってついてきなさい。そうすれば、私がリリスちゃんと二人っきりになれるわ」

「いきなり無茶苦茶だな!4人旅って言ったの聞こえなかった?!」

「そうですっ!そうですっ!そんなの横暴ですっ!」


 俺とロアは後ろを振り返って文句を言う。

 だが、ヴェーノはそんな俺たちを睨み返してきた。

 毎度のことだが、高飛車な女だ。

 そして、怖い……。


「そんなに嫌なら、お前が降りて付いてこればいいだろ!」

「そうですっ!そうですっ!」


 だが、今日は強気でいく。

 いつもやられっぱなしで不満が立っていたんだ。

 隣には、パーティ最強のロアさんだっているし、この室内だとヴェーノもお得意のレイピアを抜けやしない。

 すでに勝気な俺だったが。


 スッーっと、俺の顔の真横を一瞬で何かが通過した。


「え?」


 俺はまだ思考が追い付いておらず、ただヴェーノの腕が通過したことだけは理解できた。

 そして、さらに時間が経ち頬に痛みを感じ出してから、それがヴェーノの正拳突きであったことに気づく。


「レイピアが無いからって油断した?命までは取らないから、すぐに飛び降りてくれる?」


 ヴェーノは、親指でキャビンの扉を差して言った。

 俺は、改めてヴェーノに恐怖を感じた。

 あの正拳をまともに食らっていたら俺は最悪死んでいただろう。


 だが、まだ大丈夫だ。

 なんたって、俺の隣にはパーティ最強の女神がいるのだから。


「そうですっ!そうですっ!今すぐ降りてくださいっ、レイジさん」

「お、お前!ロア、ここで裏切るとか汚いぞ!お前が降りろ!そしたら2人席も俺の使い放題だ!」

「嫌ですっ。ここはやっと見つけた私の居場所なんですっ!」

「いつからここがお前の居場所になったんだよ!ウザいから降りろ!」

「嫌ですっ!私の居場所を奪わないでくださいっ!」

「ちょっと皆さん、落ち着いてください!」


 すでに馬車は、町を出て何もないのどかな旅路を進んでいた。

 俺たち4人を乗せた馬車は、そんな緑広がる景色に似つかわず騒がしくうるさかった。

 今回も波乱万丈な旅になりそうだ。

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