勇者は仲間と離れない
ヴェーノのとび蹴りで俺は現実に引き戻された。
アギト達との輝かしい冒険は、旅に出ることすら敵わず終わった。
仲間たちから連れて行かれる形で俺は、赤金の風の面々と別れることになる。
そして、今の俺の目の前にいるのは、最悪な仲間の3人だった。
魔王の娘に毒舌女騎士、よく分からない女神。
これが現実だということを嫌というほど突きつけられる。
「ああ……さらばリア充…」
「レイジさま!今日のクエスト候補を私たちが先に見つけてきましたよ!」
「クエスト候補?」
リリスが、何枚かのクエスト用紙を俺に渡してきた。
そのリリスの後ろでは、ヴェーノとロアもクエスト用紙を持っているのが見えた。
どうやら俺がいない中で、良いクエストを探しておいてくれたのだろう。
そう思うと、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
自分だけが仲間を裏切ろうとしていたようで。
だが、リリスから渡されたクエストに直感的だが嫌なものを感じた。
なにせ、リリスのジョブはトラブルメーカーだ。
俺は警戒しつつもクエストの内容を読み上げていく。
「なになに……『フォールドラゴンの討伐 Bランク』に……『スペリオルデーモン Aランク』!?それに『リッチ・クイーン Aランク』って……!全部高難易度クエストじゃないか!」
「どうですか?レイジさま」
「どうですかって……これは、さすがに……」
リリスの持ってきたクエストを見て、俺は絶句する。
Bランク、Aランクのクエストは並外れた冒険者たちが行う難関クエストと聞いている。
それを俺ができるわけがない。
それと、ご丁寧なことに真ん中のスペリオルデーモンのクエスト用紙だけ、他よりも多くのシワが寄せられていた。
どうやら、リリスが一番行って欲しいのはこのクエストらしい。
少しでも魔界の情報を得て、早く俺と魔王に戦ってほしいという思いからなんだろう。
だが、今の俺にこのクエストをこなす実力はない。
「リリス、このクエストはまた今度にしよう!」
俺は丁寧にお断りする。
高難易度クエストを受けるのは、もっとまともに戦えるレベルになってからだ。
「分かりました……」
リリスはよほど残念だったのか、それだけ言うと黙ってしまう。
しまった……。
この雰囲気は非常にまずい。
リリスを悲しませたとなったら、ヴェーノが黙っていないからだ。
俺は、ヴェーノを警戒して距離を取ろうと試みるが……。
(……あれ?)
特にヴェーノは何もしてこない。
それどころか何か考え事をしているのか黙り込んでいて、他はお構いないといった感じだ。
珍しいな。
もしかして何かあったのか?
それとも、さすがのヴェーノでも高難易度クエストは厳しいのか。
そんな中で、意外な人物が手を挙げた。
「私はそのクエストでもいいですよっ?」
何も考えていないような呑気さでロアが手を挙げていた。
それを見たリリスは、まるで花がパッと咲いたかのように満面の笑みになった。
「いいんですか?!ロアさま!」
「はいっ!リリスちゃんが行きたいクエストに行きましょうっ!」
「ちょっと、待て!ロア、お前戦わないだろ!勝手に決めるなよ!」
何やらロアが暴走しそうだったので、すぐさま俺は静止にかかる。
そもそも、ロアはヒーラー専門で攻撃は一切行ない。
それも、パーティ1の火力を誇るだろう攻撃魔法さえ覚えているのに、だ。
そんな箪笥の肥やし女神が、高難易度クエストを選ぶなんて無責任にも程がある。
「いいじゃないですかっ!気合があれば、どんなクエストだって乗り越えられますよっ!」
「だから、お前は戦わないだろ!しかも、結局根性論じゃねえか!」
「ゴミ虫の言う通りだわ。何もできないお荷物女神さまは、そこの役立たず勇者と二人で仲良くやってなさい」
ここで、ずっと黙っていたヴェーノが口を開いた。
ヴェーノは、リリスがロアに対して嬉しそうにしていたことに嫉妬しているように見えた。
それと、ロアが戦闘に参加しないこともよく分かっていた。
気になるのは、一緒に俺まで非難されたことだ。
「おい、俺は今関係ないだろ!」
「そうですっ!ひどいですよっ!」
ロアと一緒にヴェーノに抗議する。
だからって、これで仲間だと思われるのも嫌なわけだが。
「これでもヴェーノさんより私、レベル、高いんですよっ!」
ロアに続いて、さらなる反撃に出ようとしたが、ここで俺は踏みとどまる。
明らかに今のロアの一言で、ヴェーノの表情が揺らいだからだ。
恐らく、ロアは地雷を踏んだ。
それは、ヴェーノの不快げな顔で確信に変わる。
ヴェーノは、ステータスのことを気にしたらしい。
「そうね……」
その一言から、さらに不穏な空気が流れる。
爽やかな朝とは思えないくらい暗くてどんよりとしている。
ここで、危険察知能力が働いた俺は、スキル『別の話題』を発動させる。
「とにかく、このクエストはまた今度にしよう。今日はもう少しかんた、やりやすいクエストにしよう!」
危うく簡単なクエストと言いそうになり、焦って言い直す。
ごめんなという気持ちを込めて、リリスに目配せすると、空気を読んでくれたのかそれ以上は何も言わなかった。
同様にヴェーノも特に何も言わなかった。
「えっと、じゃあクエストどうしようかな」
「それなら、私が見つけた、良いクエストがありますよっ!」
「……!」
ロアが自信満々に手を挙げた。
さっきから、この自信は一体何なんだろう。
俺は、疑い100%の目でロアを見つめる。
「本当に、大丈夫か?」
「大丈夫ですっ!もっと私のことを信頼してくださいっ!」
ロアは、何枚かのクエスト用紙を力強く渡してきた。
けれども、正直どれもロクでもないような気しかしなかった。
ロアならいきなり魔王討伐クエストとか選んできても不思議じゃない。
俺は、見る前に却下したくなるが、それはかわいそうなので一応は渡されたクエスト用紙に目を通していく。
「どれどれ……『酒場の皿洗い 銅貨3枚』に『広場の清掃 銅貨2枚』、『薬草の仕分け 銅貨3枚』……何これ、日雇いバイト?」
「……?」
ロアは日雇いバイトという言葉が分からず、ん?という顔をした。
「却下だ」
「ええっ!ダメですかっ……?」
「一緒に世界を救いましょうとか言ってた奴がよくこんなクエストを持ってこれたな!」
「えっと、身近なところからお救いしていきましょうっ!」
「選ぶのがめんどくさかっただけだろ?」
ドキッと聞こえてきそうなほど、ロアの体が反応した。
やっぱりな。
それでさっきの自信を持てるなんて、逆に大物だな。
それでも、今の優先事項はモンスターと戦い、少しでもレベルを上げることなので、討伐クエスト以外は受けるつもりはない。
「見てくださいっ!これなんて、時給がとっても良いんですよっ!」
「高校生かよ!期待はしてなかったけど、ロアってホントあれだな」
「ホントあれってなんですかっ!あれって!」
今度からロアの意見はすぐに却下することを決めた。
ちなみに、こうした雑用クエストは冒険者用ではなく、住人たちが副業として行うもので、冒険者はほとんどやらないものらしい。
俺は、あまりにも、両極端なクエスト選んでくる二人に呆れかえる。
結局、自分でクエストを探すしかないかと思っていると、またしても意外なところから賛成の声が上がった。
「リリィは、どんな仕事でも働くことって素敵だと思います……!」
そう悲しい顔で訴えかけるように言ったのは、リリスだった。
自分の辛い経験からなのか、働くという言葉には強い思いがこもっているようにも聞こえた。
(魔王サタン、頼むから娘のために働いてやってくれ!)
悲しそうなリリスを見ていると不憫でままならなかったが、ロアの持ち込みクエストは却下する。
「また、リリスには悪いが、レベルを上げるためにも何らかの討伐クエストにしたいと思ってるんだ」
「ええっ!また却下なんですかっ……」
ロアが喚くなか、リリスに諭すように俺はクエストを却下した。
さらに、リリスがしょげてしまうのではないか心配したがリリスはなるほどと頷くと新しいクエスト用紙を取り出した。
「でしたら、レイジさま。とっておきを出します!」
「とっておき?」
自信ありげな表情でリリスがクエスト用紙を渡してきた。
あるなら最初から、出してくれよとは思いつつ、内容に目を通す。
「『クエイクゴーレムの討伐 A+ランク』……って、さっきより難しくなってるけど!?」
「こっちはどうですか?」
「『スペリオルデーモン Aランク』……さっきと同じクエストじゃないか!どれだけ、このクエストに行って欲しいんだよ!」
ある意味とっておきだったので、俺はビックリするが、期待していたクエストでは全く無かった。
今後、何があってもこの二人にクエストを選ばせるのは絶対にやめよう。
俺が求めているのは、EないしはDランクの討伐クエストだ。
それで地道にでもレベルを上げていきたい。
そして最後、ヴェーノの番になった。
果たして、ヴェーノがどんなクエストを選んできたのか、全く想像がつかなかった。
俺は、怖さを感じながらもヴェーノがクエスト用紙を取り出すのを待った。
「私が選んだクエストはこれよ」
そう言って、ヴェーノは1枚のクエスト用紙を俺に手渡した。
「『アイスクラブの納品 Dランク』……おお!いいクエストじゃないか!」
内容はオックス山脈に生息するアイスクラブというモンスターの20頭の納品だった。
気になることは、納品クエストなので、アイスクラブを綺麗な状態で討伐し、持ち帰らなければならないということくらいだった。
ちなみにその理由は、アイスクラブが食用として高い価値があるからだ。
オックス山脈自体、町からも非常に近く、アイスクラブも滅多に人を襲わない穏やかなモンスターらしい。
「これだ!これ。こういうクエストに行きたかったんだ!」
「別にあなたの為に選んだわけじゃないんだけど……?」
ヴェーノは、ウザそうに俺を見てくる。
だが、そんなことは気にならないくらい俺が求めていたクエストはこれだった。
「アイスクラブはその背の甲羅が柔らかくて絶品デザートとされているの」
ヴェーノが、このクエストを選んだ理由を告げてくる。
なるほど、納得な理由だ。
それにしても、甲羅がデザートなんて異世界っぽくて変わってる。
だが、異世界に来てこれといって珍しいデザートも食べていない。
そう思うと、なんだがワクワクしてきた。
リリスとロアもこのクエストに反対する様子は無かった。
ロアは少し不満げな顔をしていたが。
なので、早速クエスト用紙をギルドカウンターまで持っていく。
無事に受理も終わり、今日のクエストへ出発する。
(前回のクエストは、全然良いとこ無かったが今回こそやってやる!)
俺は意気込み抜群でギルドを出た。




