勇者が脱退!?
「そうだ、ミーナ。話があるんだ」
急にアギトが思い出したかのように話し始めた。
もしかして、正解に辿り着いたのだろうか。
これは失敗してしまったなと、俺は後悔した。
あそこまで、言えばさすがに誰でも分かるものだ。
アギトは、ミーナの想いにやっと気づいたのだろう。
「レイジが教えてくれたんだけど、ミーナが僕に好意を持っているというのは本当かい?」
「……」
その場の誰もが凍りついた。
ステラは、顔を手で隠して何も見なかったことにしようとしていた。
ケイジーンもどういうことだと顔をしかめている。
ミーナに至っては、顔を真っ赤にして失神しそうになっていた。
(おい、アギト!それはないだろ!)
女心が分からないといっても限度があるはずだ。
まさか、ここまで酷いものだったとは想像もつかなかった。
これは相当な重症と言っていいだろう。
もしかして、完璧超人アギトの唯一の弱点かもしれないな。
それは置いといて、今はこの空気感をどうにかしなければならない。
「違う、違う!俺はそんなこと言ってないぞ!!」
俺が声いっぱいに叫んだことで、アギトたちの注意がこちらに向いた。
「え、レイジ。それはどういうことだい?」
アギトは、あれあれという顔をしている。
どこまでも人が良いやつだ。
そんなアギトの耳元で俺はひそひそと囁く。
「アギト、さっきの話は嘘だ。お前が先に俺をはめたから、仕返しに言っただけだ」
「なんだ。僕をからかっていただけなのか……。そうじゃないかと思ったよ」
アギトは、納得していた。
この男、鈍いという言葉では表現しきれないくらい鈍いな。
さっきのミーナのあからさまな反応を見ていたら、いくら何でも正解だって気づくだろ。
ミーナは、今も顔を赤面させていた。
後で、ちゃんと謝っておかないとな。
「みんな、ごめん!レイジの冗談だったみたいだ。ごめんね、ミーナ」
「う、ううん……」
アギトのバカ、ミーナは小声でそう言ったのが俺には聞こえた。
なんだ、その可愛いのは!
だが、これで4人の関係にもヒビを入れずに済んだ。
アギトの鈍さだけは何とかしなければならないが。
とりあえず、一難去ったことにほっとしていると。
「あの!アギトくん、私も話があるの……」
今度は、ステラが声を上げた。
気弱そうにしていたステラが少し大きな声を出したので、俺はビックリする。
最後は、また消え入るような声に戻っていたが。
アギトたちも同様に驚いてたようで、皆の視線がステラに向く。
そして、そのことに気づいて自分でも恥ずかしくなったのかステラがモジモジし出す。
「どうしたんだい?ステラが声を上げるなんて珍しいね」
「あの、私、実はアギトくんのことを……。アギト君のことを……」
ステラは、必死に言葉を紡ごうとしていたが最後まで言い切れないでいた。
それくらい、とても勇気のいることを言うとしているのだろう。
それを見ているミーナもアワアワしている。
(やっぱり、三角関係だったのか)
ミーナもステラも2人とも、アギトのことが好きなんだ。
だが、アギトはそのどちらの好意も気づいていない。
だから、ステラはアギトがミーナに聞いた時に見ないようにしていたのだ。
今は、その逆のことが起きているわけだが。
その横で、ケイジーンは何が起きているのか分からないのかずっと困惑したままだ。
お前も、気づけよ!!
なんで男性陣の中で、一番リア充から遠いだろう俺が、ここまでわかってしまうのか自分でも不思議に思った。
「やっぱり、何でもないです……!」
最後まで勇気を振り絞ることができなかったのか、ステラがそれ以上先の言葉を続けることは無かった。
ミーナは少しホッとしたのか胸を撫で下ろしていた。
これは、分かりやすい。
それでも、鈍感王は気づいていないようで。
「ステラもどうしたんだい……?」
ステラが何を言おうとしたのか全く分かっていなかった。
見かねた俺は、アギトを呼び出す。
「アギト、ちょっといいか」
アギトを端の方へ連れていく。
二人にこの会話を聞かれないようにするためだ。
アギトには、本当のことを伝えることはできないが、俺にも言えることはあるはずだ。
「レイジ、連れて出してくれて助かったよ。実は、二人はよくあんな感じになるんだ。何かを僕に伝えようとしてくれるのだけど、はっきりとは言ってくれなくて……」
「アギト、俺は二人が何を悩んでいて、なぜお前に言えないのか分かったよ」
「本当かい?!さすが、レイジだね!仲間と一緒に寝る男なだけあるよ」
「それは関係ないだろ!」
「それで、一体理由は何なんだい?」
アギトが真剣な表情になる。
本当に仲間のことを思いやっているのがよくわかる。
そこまで、出来るのになぜ彼女たちの気持ちに気づいてやれないのかは不思議でしかないが。
「それは、俺からは言えない。これはアギトの問題だ。自分で答えを見つけるべきだ」
「そうかい。君が言うならそうなんだろうね。分かった、必ず自分で答えを見つけるよ」
アギトが決意を込めて俺に返した。
ホント、ラノベの主人公みたいな男だな。
だけどやはり、これはアギトたちの問題だ。
第三者の俺がとやかく言うもんではない。
それに、アギトならアギトらしい答えを見つけそうな気がする。
「じゃあ、みんなのとこに帰ろうか」
「ああ、その前に一つだけいいか?」
「なんだい?」
三人の元へ戻ろうとするアギトを俺は引き止めた。
アギトは、そんな俺の言葉を待ってくれている。
なので、俺は大きく振りかぶってハリセンで思いっきりアギトを叩く。
「……痛いな!いきなり何するんだい?」
「うるせえ。リア充爆発しろ!」
「リア充って……。どういうことだい?」
俺はアギトを放って、三人の元へと帰る。
そう、これは彼らの物語。
俺はただ見守ることにしよう。
三人の元へ帰ると、ミーナとステラは心配そうな顔をしていた。
俺がアギトに何か言ったと思われているのだろうか?
あとで誤解も解いて謝らないとな。
だが、他に一番そわそわしている人物がいた。
それはなぜか、ケイジーンだった。
「レイジ、アギト、ステラ殿の様子が心配だ!何かあったのか?俺は心配で心配で!」
ケイジーンは、俺とアギトの元まで駆け寄ると心配そうに話した。
その必死な顔が雄弁にあることを語っていた。
(お前も恋してたんかい!!)
まさか、三角関係ではなく、四角関係だったとは……!
ケイジーンはどうやら、ステラのことが好きなようだ。
これは余計にややこしくなってきたな……。
それでも、俺は傍観するだけではあるが。
4人がとても羨ましく思った。
その後、アギトが宥めることでケイジーンは大人しくなった。
「そうだ、レイジ。話が変わるんだけど、レイジは何のジョブなんだい?」
「俺のジョブか……」
俺は、即座に答えられない。
未だに自分がツッコミ勇者であることを認めきれていない。
だが、あれだけアギトに見栄を張った反面、ここで自分を誤魔化すのはダサいな。
俺は苦笑いしながら、どうしようもない自分のジョブをみんなに明かした。
「俺のジョブはツッコミ勇者だ。何でこんなのかは、俺にも分からないけどな」
正直、笑われてもいいと思った。
それで、みんなが幸せならそれで良かった。
だが、アギトたちは違った。
「すごいね!ツッコミ勇者だなんて」
「珍しい職業だよね。私も聞いたことないよ!」
「レイジ君だから、ツッコミ勇者……。きっと、意味がある……」
「そうだ、自分のジョブに誇りを持てよ」
誰も俺のことを笑わなかった。
それどころかみんなが俺のジョブを認めてくれている。
それがアギトのチームだった。
俺は涙が出そうな思いだった。
そして、気づいた。
(俺の本当の居場所はここだったんだ!)
今までは、パーティを間違えていただけだ。
アギトたちが本当の仲間だ。
俺の頭の中には、もう3人のことなど忘れていた。
今日から俺もリア充冒険者パーティの一員として異世界生活を送って行こう。
新たな4人の仲間と一緒に……!
「いつまで油売ってんのよ!!ゴミ虫!」
俺が新しい仲間との異世界生活に胸を馳せていたところで、いきなり横から飛び蹴りが炸裂した。
俺の体は『く』の字に曲がり、勢いのまま数メートル吹き飛んだ。
「いってえええ!!何しやがる!」
起き上がって見ると、そこにはヴェーノが立っていた。
隣には、リリスとロアもいる。
俺が、アギトたちと話しているうちにヴェーノは2人を見つけていたらしい。
「探しましたよ?レイジさま」
「おはようございますっ!レイジさん」
「さっさと立ってクエストに行くわよ、ゴミ虫」
俺は、記憶から消そうとしていた本当の仲間たちに囲まれた。
(見つかってしまった。恐ろしい連中に)
魔王と俺を戦わせようとする魔王の娘。
その魔王の娘にしか興味のない毒舌騎士。
女神を自称する戦わない回復ポイント。
俺は、今日もこの厄介な三人と理不尽な異世界生活を強いられるのか。
アギトみたいなキラキラとした異世界生活を送ることなんて出来ないのか!




