ツッコミ勇者も歩けば棒に当たる
俺は、見事アギトにしてやられ、どうでもいい情報と引き換えに一つ頼まれごとをされることになった。
どうせ、ろくでもない頼まれごとだと思っていたが、それは予想をはるかに超えたものだった。
「僕に女心を教えてくれないか?」
「えっ……?」
それがアギトからの頼まれごとだった。
このイケメンは、何を言っている?
あまりにも想像の斜め上をいく内容で、俺は考えが追い付かない。
そんな俺の様子を見たアギトは、自分が言葉足らずだったことに気づいたようで補足をする。
「すまない、これだけだと何言ってるか分からないよね。色々説明が抜けてしまっていたよ」
アギトは、反省するように頬をかいた。
その仕草もいちいちカッコ良かった。
それからアギトは、本当に深刻な悩みがあるのか重いため息をついてから話し始めた。
もちろん、その仕草もカッコ良かった。
「実は、僕のパーティは男女2人ずつの構成なんだけど、最近女の子2人との間に距離を感じるんだ。なんだか、二人とも悩みを抱えているようなんだけど、僕に相談してくれなくて……。それに、時々何かを隠そうとしている事もあるくらいなんだ」
「なるほどな。だから、もっと二人の力になれるように女子のことを知りたいと……?」
「そうなんだ!仲間だからこそ、悩みがあるなら相談してほしいし、力になりたいんだ!」
アギトは、仲間への思い熱く語った。
それで、彼の気持ちがよく分かった。
本当に仲間思いの良いやつなんだな。
(だが、なぜ俺なんだ?)
俺とアギトの共通点なんて、肺呼吸であることと、この世界に転移してきたことくらいだ。
それ意外は全く別人だ。
どう考えたって、アギトの方が女性経験も豊富そうだ。
俺なんて、女子とまともに付き合ったことすらないんだ。
女心なんて、ほとんど分からない。
分かることといえば、本当に嫌いな男子だと、その男子の物にすら触れたくないということくらいだ。
俺は、アギトに率直に理由を尋ねる。
「なんで、俺なんだ?パーティに男の仲間だっているんだろ?」
「ああ、ケイジーンのことだね。彼も僕と同じで、女性のことが苦手でね……」
「僕と同じって……!アギト、女子のことが苦手なのか?」
「ああ、そうなんだ。これは、レイジだから話すんだけど、僕は女性のことがよく分からないんだ」
それから思い出すように、アギトは自分の過去を語りだした。
「自分で言うのもなんだけど、僕は昔から女性に言い寄られることが多くてね」
「う、羨ましい!!」
俺は、つい心の声を漏らしてしまう。
俺の人生で女性から言い寄られたことなんて1度もない。
あったのは、掃除当番を代わってほしいと女子からせがまれたくらいだ。
アギトには、今すぐ俺と顔を取り変えてほしい。
「だからといって、誰かと交際することも無かったけどね」
自分が特定の誰かを選んでしまえば、選ばれた人間は周囲からの反感を買ってしまう。
きっと、すぐにいじめの対象にされ争いも起きかねない。
続くアギトの訴えはおよそこうだった。
実際に起きているわけでないので、驕っているようにも聞こえそうだがアギトなら本当に起こりそうだ。
さきほど、アギトが俺を押し倒した時だって、周囲の女性冒険者たちがたくさん見ていた。
アギトは、女性から注目の的なんだ。
そうして、自分に寄ってくる女性たちと距離を置いてきた分、逆に女性のことを知る機会も無かった。
その結果、今仲間との距離が生まれてしまっているのもしれない。
俺は、悩むアギトを見てイケメンには、イケメンの悩みというものがあることを知った。
ただ、それでも俺は思う。
(俺も、そんな人生送りたかったぁぁ!!!)
モテすぎることに、困ってため息をついてみたい人生だった……。
紅アギト、名前からしてラブコメの主人公っぽい名前だと思ったが、中身までラブコメ野郎だったとは……!
おそるべし。
ただ疑問が残る。
「そんな状態でよく女子2人とパーティを組もうと思ったな」
「それには色々と事情があるんだ……。それに、自分が分からないからといって諦めてしまうのは嫌なんだ」
ああ、アギトが男前すぎて辛い。
なんて内面も良いやつなんだ。
事情もあるようだが、ここまで前向きだと惚れ惚れする。
これは、顔だけ変わっても意味がないな。
俺は、アギトに生まれ変わりたい!
「それで、なんで俺なんだ?」
「レイジ、君のパーティは、君以外全員女の子なんだよね?」
「そうだな。だからって、俺がイコール女子のことが分かる奴だっていうのは無理があるぞ」
「僕は聞いたのさ、君が仲間と一緒に寝たり、お風呂に入ったりするくらい仲が良いってね」
俺は思わず吹き出す。
「どこでそんな話を聞いたんだよ!」
「他の冒険者からだよ」
「クソっ!そんなとこまで広まっていたのか!」
「やっぱり、本当のことなんだね!」
アギトは、俺が期待通りの人物だったと分かり、顔をキラキラさせてしまっている。
しまった。
俺は、つい焦りが生じたことで即座に否定できなかった。
それに、アギトを信頼しかけてきたことで油断が生まれていた。
ここから、誤解を解くのは難しそうだぞ。
「言っとくけど、全部事実じゃない!それに俺はアギトが想像しているような男でもないからな!」
「いや、君と話していて僕は確信したよ。君は、女性の気持ちがよくわかる男だ!なぜなら、レイジ、君はそういう顔をしている!」
「どんな顔だよ!!」
ふざけているのか、このイケメンは。
だが、太陽のような輝く笑顔で言われるとふざけているように思えなくなってくる。
むしろ、本当に俺は女性の気持ちが分かる男の顔をしているように錯覚してきた。
「俺が教えられることなんてないんだ!むしろ、モテる方法を教えてくれよ!」
「何を言ってるんだ、レイジ。何でもいいんだ!僕はもっと彼女たちの力になりたいんだ!」
「そんな、無茶な」
アギトは完全に俺のことを誤解している。
俺は、別に女心が分かる人間じゃないんだ。
教えられることなんてあるはずがないだろう。
だが、アギトのあまりにも真っ直ぐな目を見ると、もう俺には彼を止められないと思った。
むしろ、何でもいいから力になりたいとそう思ってしまう。
俺は、単純にアギトの人間性に惚れていた。
ここまで、仲間思いの人間が他にいるだろうか。
「分かったよ」
「ありがとう、レイジ!君は良いやつだ!」
相談くらいに乗ってやろう。
そう決めて、俺は折れることにした。
それに、アギトとは友達として仲良くなりたい。
そんな新たな友情が芽生えていると。
「アギト~!」
アギトの名前を叫びながら、茶髪の美少女がこちらに向かってきた。
「……!」
俺は、その子を見た瞬間に息を呑む。
なぜなら、その子は今まで見たことがないほどの可愛さだった。
リリスもヴェーノもロアも顔立ちは整っているが、彼女はそのさらに上をいく可愛さだった。
(なんだ!あの超絶美少女は!)
俺は見たことのない美少女に目を奪われた。
その茶髪の子は、髪をツーサイドアップに纏め上げていたため走るたびにゆさゆさと揺れていた。
そして、髪だけでなく彼女の大きな胸も一緒に上下していた。
俺は、ついそちらにも目が奪われてしまう。
美少女は、俺とアギトの前までやってきた。
まるで、夢でも見ているような気分だ。
こんな美少女が目の前に来るだなんて。
それに、この距離でも彼女からふんわりと甘い香りが漂ってきた。
俺は、こんなにも美少女がいい匂いをすることを初めて知った。
「アギト、やっと見つけたよ!急にいなくなったから、私心配したんだよ?」
「それは悪かったよ。ちょっと、会いたかった人を見つけて、ついね」
「え!それって……?!」
「紹介するよ。さっき友達になったばかりのレイジだ。レイジもこの世界に転移してきたんだ」
「は、はじめまして。に、西見玲人です、だ。レイジで、構わなぃ」
俺は、突然アギトに振られて噛み噛みで自己紹介することになる。
とんでもない美少女を目の前にして、上手く話すことができなくなってしまった。
(ヤバイ。近くで見るとさらに可愛いぞ)
この子がアギトの言っていたパーティの1人なんだろうか。
もしそうだとしたら、なんて羨ましいんだ。
是非、うちのロアと代わってもらえないだろうか。
もし、無理なら他に何でもするから一緒のパーティに入って欲しい。
俺がそんなことを考えていると、美少女は俺にニコっと微笑み自己紹介をしてくれた。
「初めまして!私は、ミーナ・アナスターシャ。ミーナって呼んでね。レイジくん」
グハッ!!
俺は、ミーナの笑顔に完全にノックアウトされる。
なんだ、この可愛さは!
本物の女神はここにいたのか!
俺は異世界に来て、本当に良かったと心から思った。




