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赤髪の勇者

 冒険者ギルドに入ってすぐ、俺は赤髪冒険者から誘いを受けたが即座に断った。

 了承すると面倒事に巻き込まれそうだったからだ。

 それに、展開もなんだかロアの時と似ている。

 なので、俺は立ち去ろうとしたのだが、赤髪冒険者に引き下がるつもりは無いらしい。


「ちょっと、話を聞いてくれるだけでいいんだ」

「いや、そういうの間に合ってるんで」


 俺は、話を聞かず行こうとする。

 これは、個人的な教訓だが、こういう爽やか系イケメンは信用ならない。

 それに今の最優先事項は、リリスとロアと合流することだ。

 ここで時間を取られるわけにもいかない。

 ちなみにヴェーノはとっくに別行動しているため、近くにはいない。

 リリスから言われたのも、一晩一緒に寝るということだけなので当然といえば当然だが。

 

「君が、先日ギルド内で一人の女性を泣かせたと聞いたよ。それは事実なのかい?」


 話を聞こうとしない俺に、赤髪冒険者は痛いとこを突いてきた。

 どうやら、俺がロアを泣かせたという噂をどこかで聞きつけたみたいだ。

 この様子から察するに、赤髪イケメンは俺のことを糾弾しに来たんだろう。

 ありがちな展開だ。

 これだから、爽やか系イケメンは苦手なんだ。

 悪事をほっとけなく、すぐに自分の正義感を振りかざそうとする。

 だが、俺はこういう時の対処法を知っている。


「あれ、その件は全部冗談だったってまだ聞いてないですか?」


 俺は終始おどける感じで言った。

 まるで、相手を小バカにする感じだ。

 しかし、これでいい。

 こういう時は、真正面から否定するのは逆効果になる。

「え、まだ、そんなこと言ってんの?ウケるんだけど」くらいのスタンスでいた方が、かえって向こうを恥ずかしく思わせられる。

 俺は、苦い過去から得たこの悲しいスキルが今役に立ってしまうことに切なさを覚える。

 だが、効果はあったようで、赤髪の冒険者も納得しているようだった。


「そうだったのか……。それはすまなかった。僕は、とんだ噂に惑わされていたようだ。確かに君の顔を見た感じ、とても悪い男には見えないな」


 赤髪のイケメンは、爽やかな笑顔になり、綺麗な歯を見せた。

 少し嘘臭い笑顔に見えたが意外と聞き分けがあるやつだった。

 もしかすると、結構いい奴なのかもしれない。

 だからといって、話を聞こうとは思わないが。


「そういうことだ。俺はもう行くぞ。性格の良さそうなイケメンに、近づくなってお袋に教わっているからな」

「君の母親はなかなかユニークなんだね……」


 赤髪イケメンの勢いのないツッコミを受け流し、俺はとっとと行こうする。

 ツッコミを勉強して出直してきな。

 だが、早足で去る俺を赤髪イケメンは追いかけてきた。


「ちょっと待ってくれ!聞きたいことがあるんだ!」


 勢いよく走ってきた赤髪イケメンに、俺は両肩を掴まれた。


「お、おいっ」


 それを振り解こうとしたが、相手の勢いに負けてしまう。

 そして、そのまま強引に壁へと押し込まれた。

 逃げようとしても、肩を力強く抑えられていて、抵抗することができなかった。

 今目の前には、赤髪イケメンの顔がある、

 俺は動けないまま数秒間、至近距離から赤髪イケメンの整った顔を見ることになる。


 ドクッ、ドクッ。


 俺の心臓の鼓動が速くなっていく。


 不覚にも、俺はドキドキしてしまっていた。

 もしかすると、顔まで真っ赤になっているかもしれない。

 この赤髪イケメンの髪色以上に。

 これがイケメンの力というものなのだろうか。

 なんて恐ろしいんだ。


「す、すまない……」


 赤髪イケメンは、申し訳なさそうに俺から離れる。

 その顔をうつむかせていて表情は伺えない。


「少女漫画か!!」


 なんだこの展開は!

 周りの女性冒険者たちは、キャーといった声を上げていた。

 早速、トラブルに巻き込まれ始めている。

 俺は、恨み篭った目で赤髪イケメンを見ると逆に純粋な瞳で見つめ返された。


「乱暴するつもりは無かったんだ!」

「分かったから、そんな純粋な目で見つめないでくれ」


 また、両肩を掴まれ訴えかけられた。

 再び、女性冒険者から黄色い声援を受ける。

 駄目だ。

 このままだと、好きになってしまいそうだ。


 俺は赤髪イケメンから咄嗟に距離を取る。

 だが、もう逃げることはしない。完全に諦めた。

 逃げてもまたすぐ押し倒れそうだし……。

 向こうもそれが分かったのか、まずは自己紹介を始めた。


「話を聞いてくれるようで助かるよ。僕の名は、紅 アギト。『赤金の風』というパーティのリーダーをやらせてもらっている。巷では、新星ルーキーなんて呼ばれてるもいるけどね」

「新星ルーキーだって?」


 俺は聞いたことある単語に驚く。

 それは以前、ギルド支部に行った時、男の冒険者から聞いたことだ。

 ハウラスに突然現れた凄腕冒険者の5人を総称して新星ルーキーと言っているのだ。

 まさか、そんな話題の自分から声をかけられるなんて一体何事だ。

 だが、新星ルーキーには俺から話を聞きに行きたいと思っていたので、これはむしろ渡りに船だった。


「それで、有名人が何の用だよ?」

「有名人なんてとんでもない。僕のことはアギトと呼んでくれよ。君は、西見玲人君だろ?僕もレイジって呼んでいいかな?」

「……。イケメンっていやに積極的で困るよな。まあ、好きに呼んでくれよ、アギト」


 すぐに名前で呼んで距離を近づけようとする。

 それに、こんなイケメンに名前で呼ばれると嬉しく思えてくるから不思議だ。


「それで、君に聞きたいことというかお願いしたいことがあって……」

「待ってくれ、話は聞くから先に俺から質問させてくれ」

「構わないよ」


 俺は、相手のペースに乗せられてきている気がしたのでそんな事を言った。

 けれどアギトは、笑顔であっさり答えた。

 それで余計に性格がよく見えてしまうからイケメンってホントずるい。


「アギトは異世界から来たのか?」


 これは、新星ルーキーのことを聞いた時から疑問に思っていたことだ。

 最近現れたという点と恐ろしく強いという点が、転移者っぽい設定だと思った。

 それに確信を持ったのは、アギトの名前だ。

 明らかにこの世界の名前ではない。

 俺と同じ日本人の名前だ。


(ただ、『紅 アギト』ってラノベの主人公すぎやしないか?)


「ああ、そうだよ」


 アギトは驚くことも誤魔化すことなく答えた。

 あまりにもあっさり過ぎて少し驚いたが、これで俺の仮説は正しいことが分かった。

 きっと別の新星ルーキーも転移者なのだろう。


「アギト、転移者について分かることを教えてくれないか?俺からも情報共有はする!」

「いいよ。その様子だと、レイジも転移してきたようだね」

「ああ。俺も転移者だ」

「そうだ。ここは、先に1つレイジも知らない話をしよう。それから僕の話を聞いてくれないか?」

「ああ、分かった」


 アギトは、先に情報をくれると言った。

 俺からの信頼を得るためだろうか。

 何にせよ、アギトはやはりいいやつだな。


「レイジ。君は巡り人を知っているかい?」

「巡り人?なんだそれは?」

「異世界に転移してその世界を救っては、また別の異世界に行く。そうした転移を何度も繰り返す者をそう呼ぶみたいなんだ」

「そんなやつもいるのか……」

「まあ、これは後付け設定だから別に気にしなくていいんだけどね」

「後付け設定かよ!!」

「さあ、僕の話は終わったよ」


 すごく重要そうな言葉だったから、ついこちらも期待して聞いてしまった。

 この男、ただのイケメンではなかった。


 それにしても、何度も異世界転移を繰り返す人間がいるとはな。

 今の内容だとアギトは転移者のようだが、巡り人ではないだったが。

 次はアギトからの聞きたいことだが一体、俺から何を聞きたいというんだろう。


「それで、レイジ。次は僕の番だ。君には1つ頼みたい事があるんだ」

「頼みたい事?この俺に?」


 頼み事と言われると、俺は警戒レベルを上げざるをえない。

 第一、今日出会ったばかりの人間だ。

 そんなイケメンからの頼み事なんて、連帯保証人か、合コンの引き立て役くらいだろう。

 何を言われても、すぐに断って逃げようと俺は軽く足のストレッチを始めた。

 しかし、頭を下げたアギトからの頼み事は、想像以上の内容だった。


「僕に女心を教えてくれないか?」


「……は?」


 なぜ?

 その一言の疑問だけが俺の思考を駆け巡った。

 女心を教えてほしいとアギトは確かにそう言った。

 だが、どう見たってアギトはイケメンで女子からモテそうな顔だ。

 さらに、性格も良くて新星ルーキーと言われるくらいの実力者だ。

 女子からモテる理由しかないそんな人間が、なぜ俺に女心を教えてくれと頼んだのか理解できなかった。

 例えるなら、リュックを背負い、頭にバンダナを巻いたメガネ男に、オタクになる方法を聞かれるようなものだ。

 アギトの瞳は非常にまっすぐで、とても冗談を言っているように見えなかった。


「話が全く見えないんだが……」


 やはり、この異世界は色々間違っていた。


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