勇者と道場
俺たちは町の郊外へと向かう。
まずは、ギルドのおばさんに言われた通り町の住宅街へ入る。
町の中でも、まだ行ったの無いエリアであるため、なんだか新鮮さを感じる。
それに住宅街の家屋は、宿屋と違って高さが低く全体的に解放感があった。
雰囲気でいうと宿屋街よりも落ち着いた感じだ。
(俺もゆくゆくは、こういうところで暮らしたいな)
この住宅街で暮らしている普通の家族のことを想像しているとそんな考えが浮かんできた。
もし、このまま異世界でずっと暮らしていくことになるとしたら、宿屋よりもやはりこういった家屋に住みたい。
その時には、他の三人も一緒に暮らすことになるのだろうか。
いや、無いな。
トラブルと災難続きで大変そうだ。
やはり、今すぐにでも元の世界に帰りたい。
そんなことを漠然と考えているうちにも住宅街を抜けてきた。
なぜ、それが分かったかというと、段々と住宅の数が減ってきたからだ。
代わりに緑の割合が増えていった。
郊外というと、スラム街のような治安の悪さを想像していたが、全くそんなことはなかった。
如何にもな怪しい店があるわけでもなく、大量のゴミが不法投棄された場所でも無かった。
単に何も無く、自然が多いというだけであった。
そもそも、この町では犯罪発生率が非常に低い。
冒険者が犯罪の抑止力になっていることもあるが、荒くれ者でも冒険者になり、十分な稼ぎを得られるため、犯罪に手を染めるものがいないのだ。
それでも、冒険者同士のいざこざはあるわけだが……。
「ここだな……」
自然の中を、散策していると明らかに道場にしか見えない建物が現れた。
特徴的だったのは、瓦屋根だ。
中世ヨーロッパがモチーフの異世界に明らかな日本様式の建物だ。
目だって仕方がない。
それに、達筆な文字でデカデカと「道場」と書かれた看板も掲げられている。
これはもう確定だな。
道場の横に小さな家があった。
この道場の持ち主の家だろうか。
少し気になったが今の目的には関係ない。
俺は、早速道場の扉を開いた。
内心ちょっとだけワクワクしていた。
こういった道場での修行する展開は、少年漫画の王道主人公のようで心くすぐられる。
「すいません、修行をさせてほしいんですけど!」
すると、道場の奥からサングラスをかけ、長い髭を蓄えた風格のある老人が現れた。
老人は杖をついていて、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてきた。
老人の姿が完全に見えてくると俺はその姿に驚愕を受ける。
老人は、背中に重そうな亀の甲羅を背負っていたのだ。
「ようこそ、我が道場へ。私は師範のバリー。お前さんたちは入門希望かい?」
(あれ、何かこの見た目どっかで見たことあるな)
亀の甲羅を背負い、サングラスをかけた髭長の老人だったが俺は見たことがあるような気がした。
それも、現実世界であったことがあるのではなく、こんなキャラを昔なんかの漫画で見たのだ。
でも、それが何の漫画だったかすぐに思い出せない。
(まあ、別にいいか。ここには、大事な用があってきたんだ)
俺はすぐにでも強くなりたい。
「入門希望というか、手っ取り早くレベルを上げたくて来たんですけど」
「お前さん、うちを精神と時の部屋か何かだと思っているのかい?」
「ん?」
今、精神と時の部屋と言ったよな。
これもどっかで聞いたことがあるぞ。
それも、先ほどの思い出せなかった漫画に出てきたような気がする。
「まあ、いいさ。うちの道場は、適性よってコースが分かれているからね。まずは何の適性があるか見極めさせてもらうよ」
なるほど、適性によって修行のコースが違うといったところか。
もしあるなら、剣術系のコースがいいな。
いや、魔法系のコースでもいいな。
俺は、自分の適性が分かる前に皮算用を始める。
すると、バリーはポケットから片側しかないメガネを取り出した。
そして、その奇妙なメガネをかけると、横についているスイッチのようなものを押した。
すると、片側のレンズに数値が表示され始めた。
「あの、その機械は……?」
「ああ、これはね。スカウターだよ」
それを聞いて俺はやっと思い出した。
なんで忘れていたんだ。
あの国民的漫画を。
「さっきから、全部ドラゴンボールネタじゃねえかぁぁ!!」
このバリーの格好は亀仙人だった。
そして、精神と時の部屋もドラゴンボールに出てくる修行用の部屋だ。
スカウターもドラゴンボールに出てくる敵の戦闘力を測る装置だ。
なんで、こんな異世界に知ってるやつがいるんだよ。
「じゃあ、早速だけどお前さんたちの適性を見させてもらうよ」
バリーは俺のツッコミを気にすることなく、スカウターで俺たちを見渡した。
こんな人気漫画のパクリ装置で大丈夫なんだろうか。
俺は、不安に思いながらもバリーは測定を続ける。
そして、全員の測定が終わったようだった。
「おや、これは凄いね!お前さんの中でとんでもない魔力を持っている者がいるよ!」
バリーは、驚くように声を上げた。
どうやら、この4人の中で高い魔力を持った者を見つけたらしい。
そして、それに反応したのはロアだった。
当然といえば、当然といえる。
ロアはこのパーティの中では一番高い魔力を持っている。
「いや、あんたじゃなくて、そこのお嬢ちゃんだよ」
だが、バリーが指したのはリリスだった。
「ええ、リリィですか?」
リリスも驚いていた。
確かにリリスの魔力も常人に比べると圧倒的に高いが、ロアの方が高いはずだ。
適当に言ってるのか。
スカウターは、出まかせだったかと思っていると。
「当然の結果ね」
「そんなっ……。私じゃなくて、リリスちゃんだなんてっ……」
うんうんと頷くヴェーノに対し、ロアは納得がいってなさそうだった。
「若いのにこの魔力は才能の塊だよ。お嬢ちゃんには特別に、魔王魔法コースにご案内します」
「魔王魔力コース?!」
スカウターで、リリスの正体が魔王だとを見破られたのかと思い俺は焦りを感じる。
それなら、リリスに接待しようと褒めていたのも理解できる。
「魔王のような魔力を手に入れようというコースですが?」
「紛らわしいよ!」
違ったようだ。
でも、これ以上にリリスにぴったりなコースはないが。
そういえば、昨日、リリスはヴェーノと一緒だったみたいだが、正体はまだバレてないのか。
二人きりになると、リリスの角を見たはずだが。
だが、二人の様子を見る感じでは大丈夫そうだけど。
「さあ、お嬢ちゃんの部屋はあっちだよ」
「レイジさま。行ってきますね」
リリスは老人に案内された部屋へと行った。
分かれる時も笑顔のリリスに、俺は元の世界にリリスと帰ることを決めた。
そして次に、老人がまた驚きを隠せないように言った。
「そして、とんでもない強さを持った者もいるね」
「今度こそ私ですねっ」
「いや、あんたじゃない。隣のお嬢さんだ」
それはヴェーノだった。
またロアは選ばれなかった。
「お嬢さんは、戦闘特別コースだよ」
「私は、リリスちゃんと一緒じゃないと嫌よ」
「適性があるんだから文句を言わないでくれ。おい、お嬢さんを連れていきなさい」
バリーが声を張ると、奥から筋肉質な男たちが数人現れた。
なんだ一体!?
男たちはヴェーノを取り囲むと、そのままヴェーノを担ぎ上げ、連れていこうとした。
「ちょっと、今すぐ離さないと全員殺すわよ」
ヴェーノが男たちを威圧した。
だが、気にすることなく男たちはヴェーノの連れて行った。
(あいつら死んだな)
その瞬間、一瞬で剣線が閃いた。
やっぱりな。
俺は倒れた男たちを気の毒に思った。
「とんでもない強さだね。仕方ない魔王護衛コースだね」
「また、どんなコースだよ!」
「魔王の娘でも、護衛できるくらい強くなれるコースだけど?」
「さっきから、ピンポイントすぎるわ!」
「あなた、何を言ってるの?」
俺がツッコんだことで、ヴェーノに不信に思われた。
だが、ヴェーノも渋々納得して案内された部屋へと向かった。
後には、俺とロアだけ残った。
ここまで、なぜかロアは呼ばれなかった。
彼女がこのパーティで一番強いはずなんだが。
それは、ロアも疑問に思っていたようで。
「あの……そろそろ私はっ?」
「お前さんは、臭いわね」
「ええっ!私臭いですかっ?」
「違うよ。嘘臭いんだよ。だからね、詐欺師上級コースだよ」
「なんですかっ!そのコースっ!」
奥からサングラスに黒スーツ姿の怪しい男たちが現れた。
怪しい男たちは、ロアを取り囲み奥へ連れて行った。
「いやあぁぁっ!!助けてくださいっ、レイジさん!!」
ロアが助けを求めたが、俺はただ見送る。
詐欺師上級コースってなんだ。
ヴェーノが言ってたように、ロアは何か隠しているのか?
でも、この人も怪しいからな。
俺は、一息ついているバリーを見た。
後に残ったのは、俺だけだ。
俺はわずかな期待を胸にバリーに尋ねた。
「俺は、どんなコースなんだ?」
「なんだい、まだいたのかい」
バリーは、急に冷めたようだった。
あれ?疲れてる?
「あんたの戦闘力はね――」
バリーは間を開けた。
「戦闘力…たったの5か…ゴミめ…」
「言いたいだけだろ!!」
「そういうわけで隣の家でも行ってな」
「適当だな!っておい!」
俺は奥から出てきた屈強な男たちに囲まれ、道場の外へと放り出された。
このまま、帰ろうかな。




