ポンコツ女神は気づかない
1階に降りて、ロアと朝食を取る。
翼の件は、結局気づかれずに済んだ。
リモコンや折り畳み式になっていたことは謎だっただが。
今日の朝食は、パンとベーコンエッグ、サラダにポタージュスープだ。
現代日本でも普通にある組み合わせ、食欲もそそられた。
やはり、食べ親しんでいるものは安心するものがある。
俺は、食事をとりながら今日の予定を考える。
最優先事項は、昨日ロアが言っていた道場だ。
もちろん、昨日同様クエストに出て行ったとしても問題なくクリアできるだろう。
それも、もっと難易度の高いものでもこのパーティなら余裕に違いない。
だが、それは俺の実力によるものではない。
高い魔力と生まれもった身体能力の併せ持つリリス。
圧倒的な剣術の腕前を持つヴェーノ。
一応女神としてチート級の魔法を隠し持つロア。
この3人が善戦して、難なく達成できるというだけだ。
俺にできることは、せいぜい囮になるか、邪魔をしないように遠くから見ていることくらいだろう。
それは、なんだか情けない。
俺だって、どんな敵が来ても無双できる強さが欲しい。
そのためには、力を付けてくれる存在が必要だ。
だから、今日は道場に行って修行をさせてもらおう。
俺は道場について詳しいことを聞こうとロアに尋ねる。
「ロア、昨日道場がどうとか言っていたよな?」
「道場ですかっ?私、そんなこと言いましたっ?」
「覚えてないのか?」
ロアは素っ頓狂な顔をした。
どうやら、昨日言ったことをもう忘れているらしい。
なんて便りないやつだ。
俺の湧き上がっていた期待を返してくれ。
完全な八つ当たりだが、ロアのベーコンを一枚奪い取って食べた。
何するんですか!とロアは抗議してきたが俺は相手にしない。
「レイジさんこそ、昨夜私の事を、可愛い女神さまって言ったこと、覚えてますかっ?」
「そんなこと、寝言でも言わねえ」
「ひどいですっ」
ロアは、頰を膨らませてプンプンしている。
今日もあざとさは健在らしい。
もう1枚ベーコンを奪い取ってやろうか。
俺がフォークで標準を定めていると、ロアが恥ずかしそうに尋ねてきた。
「だったら、その、さっきの求愛のダンスは何だったんですかっ?」
「ぶっふぅぅ!」
俺は口に含んでいたベーコンを思わず吹き出す。
吹き出されたベーコンは、そのままロアの皿に戻った。
「ちょっと!汚いですよっ!何をするんですかっ!」
「お前こそ、何を言い出すんだ!あれは、そんなじゃないから今すぐ忘れろ!!」
「なんだいなんだい、朝から痴話喧嘩でもしてるのかい?」
ロアと言い合っていると、受付カウンターのおばさんがやってきた。
おばさんは愉快そうにニヤニヤしている。
きっとどこかで昨日のことを聞きつけたのだろう。
一体、どこの誰が漏らしているんだ?
プライバシーもあったもんじゃない。
案の定、昨日のことを聞いてきた。
「あんた、聞いたよ。昨日も激しかったんだってね」
「まあ、そうですね」
「おや、随分平然としているんだね」
おばさんが来れば、だいたいこうなるだろうと思った。
朝から面倒事を増やすのも嫌なので、俺は黙って食事を続ける。
それに、別に誰に何を言われようとも特に気にしない。
なんたって、昨日ロアのせいで、俺は冒険者から嫌われている。
変な噂がさらに広がったところで構いやしない。
しかし、ロアはそうでは無かった。
おばさんの一言をどう頭の中で処理したのか、赤面状態になっていた。
これは、余計なことを言い出しそうだ。
だが、もう遅かった。
「あの、違うんですっ!私たち、子供はその、まだっ……」
「おい、何言ってるんだ!」
それを聞いておばさんは笑いだした。
最悪だ。
これでは、俺たちが交際していると認めたようなものだ。
どうやら、ロアは朝の流れを告白だと感じていたらしい。
世間知らずにもほどがある。
後で、誤解を解くにしても、今日から宿を変えよう。
俺は、話題を変えるためにもおばさんに尋ねる。
今は、慌てるよりも聞きたいことがある。
道場についてだ。
俺は、おばさんに道場について尋ねた。
「おばさん、この町にある道場ついて知らないか?」
「ああ、知ってるよ。それがどうしたんだい?」
「そこに今日行きたいんだが、場所教えてくれないか?」
「いいけど、タダじゃあ教えられ——」
俺は、おばさんが言い終わる前に銅貨を2枚手渡した。
おばさんはニヤリと笑い、あんたやっぱり出来る男だね、と呟いた。
俺はただこういうのをやってみたかっただけだったが。
それから、おばさんに道場の場所について聞いた。
道場は町の郊外にあるらしい。
町の南には、俺がまだ行ったことがない住宅街が存在する。
郊外はその住宅街を抜けた先にある地域を言うらしい。
その話が聞けると、俺はすぐに食事を済ませて部屋に戻った。
おばさんから色々質問されるのが嫌だった。
すぐに身支度を整え、宿屋を出た。
二日間だけだったが、世話になったな。
俺は、振り返って感謝を伝えた。
そして、一つ寄り道を済ませた後で、ギルドへ向かった。
ギルドに着くと、先に着いていたリリスとヴェーノの姿が見えた。
「悪い、待たせたか?」
「おはようございます!レイジさま。私たちも今来たところです!」
リリスが元気な挨拶をした。
今日もニコニコしていて愛らしかった。
やっぱり、リリスはこのパーティの天使だな。
「あら、ツッコミ勇者さまと腹黒女神が一緒に来るなんて、仲が良いのね」
パーティ唯一の癒しキャラに心和ませていると、パーティ1の毒舌キャラに
リリスとの二人きりの時間が終わられたことにイライラしてるのかもしれない。
「たまたまだよ。なあ、ロア?」
「何言ってるんですかっ?昨日からずっと一緒じゃないですかっ!」
「ずっと一緒ねえ」
駄目だ。
まだ、朝の誤解が解けてないのか。
それとも、単なるバカなのか。
いや、その両方かもしれない。
ロアがまた余計なことを言うせいで、ヴェーノがあらぬ勘繰りをしている。
俺は、話題を変えるために今日の予定を告げる。
「いいだろ、別に!それより、今日はクエストじゃなくて行きたいところがあるんだ」
「クエストを辞める?もしかして、昨日のことで怖くなった?」
ヴェーノが嘲笑うように言ってきた。
完全に俺の実力を見透かして言っている。
悔しい限りだが、ほとんどその通りなので、何も言い返すことができない。
それが俺のプライドを傷つけてくるので、余計悔しい。
こうなったら、修行して強くなって見返してやる!
「どこに行くんですか?レイジさま」
「この町の郊外にある道場に行ってみたいんだ。もしかしたら、今よりもっと強くなれるかもしれないと思ってな」
「それはいいですね!ぜひ、行きましょう!」
リリスは迷うことなく賛成してくれた。
よし、リリスさえ味方につければこっちのもんだ。
ヴェーノは、リリスに反対することはない。
後は、ロアだが……。
まあ、こいつはいいか。
「レイジさん!今失礼なこと思いませんでしたっ!?」




