女神は1人で泊まれない
俺とロアは宿屋街に着いた。
リリスとヴェーノは、温泉に行くと言ってたので、途中で別れることになった。
明日また、ギルドで落ち合うことになっている。
俺は、ロアに宿屋について一通りの説明をする。
宿屋とはお金を払って、寝床を借りること。
食事は、宿屋の1階にある酒場に行けば、食べられること。
この辺りは、宿屋街になっていて気に入った宿屋を探して泊まればいいこと。
宿屋に入ると、カウンターがあるのでそこで詳しい話を聞けばいいこと。
「大体はこんな感じだな。俺は昨日と同じ宿に泊まるから。じゃあな、明日ギルドで」
そう言い残し、宿屋に向かおうとしたところで。
「何?」
ロアに腕を掴まれた。
最初は振り解こうとしたが、強い力で掴まれていて全然解けない。
元の身体能力に差があり過ぎるのだ。
「私もレイジさんと一緒の宿屋がいいですっ」
「え、なんで?普通に嫌なんだけど」
「ひどいですっ!こんな可愛い女神と泊まれるなんて、周りから見たら羨ましがられること間違いなしですよっ?」
「そうか、じゃあな」
「レイジさん!行かないでくださいっ!」
俺が無理矢理にでも立ち去ろうとすると、ロアがさらに強い力で、腕を引っ張ってきた。
(い、痛い。痛い!腕が千切れる!)
恐ろしい力強さだった。
本当に腕がおかしくなりそうだったので、俺はやむなく抵抗を止めた。
一体、これのどこが女神だって言うのだろうか。
「分かったから、離してくれ。腕が悲鳴をあげてる」
「大丈夫ですよっ。例え、レイジさんの腕がもげたとしても、私の魔法で治せますからっ」
「それ全然大丈夫じゃないから!というか、その発想が恐ろしいよ!本当に女神なのか?」
「はいっ、この可愛さの通りに女神ですよっ」
やっぱり駄目だ。
この女神は。
とりあえず、ハリセンで一発叩いておく。
「それで、何で一緒の宿がいいんだよ。システムについては、さっきちゃんと、説明だろ」
「その、私……。恥ずかしくて言いにくいんですけど…」
ロアが叩かれた頭を抑えながら言いにくそうにモジモジしていた。
めんどくさいな。
早く寝たいんだけどなと思いつつ、ここは優しく聞いてあげる。
「どうしたんだよ。大丈夫だから、言ってくれよ」
「本当に大丈夫なんですか……?」
ロアがか細い声で言ってきた。
「ああ、大丈夫だから」
「実は、私……。ああっ、やっぱり言えないっ」
「早く言えよ!こらぁぁ!」
勿体ぶって言おうとしない、ロアに堪忍袋の尾がキレた。
つい、普段使わない荒い言葉遣いになってしまった。
失礼致しました。
俺が口調を荒げたことで、ロアは怯えた声を出した。
「ご、ごめんなさいっ。実は、私、人見知りで、そのそ知らない人とは緊張して話せないんですっ!」
「……」
「あれ、ちょっと!レイジさんっ……!?私、置いていかないでくださいっ!」
結局、リリスは俺が行く宿屋に付いてきた。
俺が宿屋を変えなかったのは、単純にめんどくさかったことと、酒場で食べたミートパイが美味しかったからだ。
カウンターに行くと、昨日と同じばあさんがいた。
「おやおや、今日は違う子を連れてくるとはね。若いもんはいいね。もしかしたら、私があんたの部屋に呼ばれる日も近いのかもね」
「おい。次、何か言ったら、前歯を一本折るぞ。このロアが」
「ええっ、私ですかっ!!」
「えっえっえっえ。それは怖いのう。なら、しばし口を紡がせてもらうとしますかね。それで、今日はどうしますかね?」
「別々の部屋で——」
「同じ部屋でお願いしますっ!」
俺が二部屋取ろうとしたところで、ロアが割って入ってきた。
しかも、なぜ同じ部屋なのか理解できなかった。
人見知りだと言うから、代わりにロアの分も取ろうとしたのに。
「なぜ、邪魔をする。おばさん、二部屋で」
「いいえっ。同じ部屋でお願いします!!」
「なんだい。なんだい。仲が良いんだね、本当。分かったから、同じ部屋ね」
「なんでだ!別々が良いって言ってるだろ!」
やっぱり、俺の言うことなど聞かず、おばさんは紙に記帳を始めた。
そして、有無を言わさず、ペンをこちらに渡してきた。
「銅貨3枚です……。名前も書きます」
❖
昨日と全く同じ部屋にロアと入った。
部屋まで向かう途中で、他の客から何か言われていたが、もう気にしない。
これが多分、難聴系主人公というやつなんだろう。
部屋に入ったところで、早速ロアに問いただす。
「で、なんで同じ部屋なんて言ったんだよ?」
「それは、レイジさんが私の可愛さを認めないからですっ」
「じゃあ、ロアの可愛さを認めるから、この部屋から出て行ってくれ」
「えっ、認めてくれるんですかっ?」
「ああ、ロアは可愛いし、優秀だよ。だから、部屋から出ていってくれるよな?」
「はいっ!」
ニコニコしながら、ロアが部屋を出て行った。
こんなので、良かったのかよ!
だが、これで静かになったことだし、安眠できそうだ。
俺は、どさっとベッドに倒れ伏す。
ほっとしたところで、一日の疲れが一気に身体にきた。
今日は、もう休むとするか。
目がウトウトとしてきた時に、扉がバンと開けられた。
「レイジさん……。他の部屋がもう空いてないみたいなんですっ」
俺は、開きかけた瞼をすぐまた閉じた。
せっかく、ゆっくり眠れるというところでこれはない。
絶対に何があっても、もう起きないと固く誓う。
「レイジさんっ!?何で、寝ようとしてるんですかっ!起きてくださいっ、私の部屋がないんですよっ!?」
「そうだな……。今日は、野宿と言うことでよろしく」
「絶対に無理ですっ!私、お腹も空きましたっ!何か食べたいですっ!食べたいですっ!」
「もう、分かったから!静かにしてくれ!」
ロアが、駄々をこねだしたので、俺は起き上がる。
これ以上叫ばれると、面倒だし、頭が痛くなりそうだ。
「レイジさん、ご飯に行きましょうっ!」
「そうだな、準備したらすぐに行くから、先に下の方に降りといてくれ」
「はいっ!すぐに来てくださいねっ」
ロアが部屋を出て、下の階へと向かっていった。
俺は、そっと部屋の扉を閉め、鍵をかけた。
これで、やっと眠れる。
もう誰からも俺の安眠を邪魔させはしない。
俺は、三度瞼を閉じた。
数十分後。
ドンドンと部屋を扉が叩かれる音がして目を覚ます。
そして、ロアの叫び声を聞こえる。
「レイジさんっ!ずっと待っていましたよっ!!」
やっぱり、寝かせてもらえることはできなかった。
行くしかないのか。
俺は、頭を掻きむしりながら、鍵を開けて外に出た。
表情は、絶対に崩さない。
これ以上無いとぼけ顔だ。
「お待たせ!ごめん、待った?」
「さすがに、無理がありますからねっ!」
下の酒場に降りて、食事を注文する。
内容は、昨日と同じものでいいか。
それに、酒場で飯を食べている冒険者を見ているとこちらも腹が空いてきた。
思えば、昼食をとっていなかった。
色々、ありすぎてそんな余裕すら無かったからな。
ロアは、メニュー表を見て、どれにしようか迷っている様子だったので、勝手に二つ注文した。
待つのが面倒くさかったからだ。
どうせ、注文するのは、俺だし。
「ロアって、普段何食べてるんだ?」
まだ、メニューを見て、あれこれと考えているご様子だったので、人間の食事を同じように食べているのかもしれない。
「普段は、野草がほとんどですねっ。天界には、色んな草が生えているのでっ。なので、特技は道に落ちてる雑草が食べることができるか見分けることですっ」
「ああ、なんか聞いてごめん」
「レイジさんっ!何で、私を哀れんだ目で見てくるのですかっ!?」
そんなこんなで、料理を受け取った。
「はい、これがロアの分な」
「ええっ!いつの間に、私の分も頼んでたんですかっ!私、このホットドッグってやつが食べてみたかったんですけどっ」
「ごめんな。今度は、絶対に食べさせてやるからな」
「分かりましたから、その哀れむような目は止めてくださいっ!」




