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初仕事の終わり

 クエストを達成した俺たちは、ハウラスへと無事帰還した。

 そして、昨日行った簡易ギルドへと換金に向かう。

 Dランククエストの達成報酬と4体のフィールドワームの討伐報酬だ。


 フィールドワームを倒したのは、ヴェーノが3体で、リリスが1体だ。

 俺は、1体も仕留めていない。

 1体を倒そうとはしたが、何のダメージも与えることもできなかった。

 俺は、文字通り何もしていなかった。


 簡易ギルドでの換金が済んだ。

 2回目とだけあって、スムーズに終わらせることができた。

 今回はDランククエストだったので、別室に呼ばれることもなかった。

 その場での換金で、全部で銅貨46枚を受け取った。

 詳細な内訳は、Dランククエストの報酬で銅貨30枚、フィールドワームの討伐報酬で銅貨16枚だ。

 46枚だと、4人で分配するには微妙な数だ。

 なので、ここは仕方なく。


「リーダーの俺が13枚。お前らは11枚ずつな」


 そう言って、銅貨を分けようとした。


「待ちなさい。なんで、何もしてないあんたが一番多いわけ?」


 俺が銅貨を数え始めていたところで、ヴェーノが待ったをかけてきた。

 当然といえば、当然の反応だな。

 だが、俺はそれで引くつもりは無かった。


「しただろ?先制攻撃」

「全く効いてなかったじゃない!それに、反撃されてやられそうになっていたのを見ていたわ!」


 げっ、こいつ、しっかり全てを見てやがった。

 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 何としても、俺がリーダーであることの威厳だけは保ちたい。

 リリスに失望されるようなことだけはしたくなかった。

 リリスの方を見ると、俺の発言に何か思うことがあったのか思い出すようにして言った。


「レイジさまの先制攻撃、お見事でした!」

「リリスちゃん、この男は何もしてないわ。醜態を晒していただけよ!」

「おい、ヴェーノ!言いがかりはやめろ!俺は、勇敢に挑んで、恥を晒した」

「結局、恥を晒してるじゃない!!」


 ヴェーノが俺を力強く叩いた。

 俺は、勢いで吹っ飛ぶ。

 身体中に強烈な痛みが湧く。

 これは、骨が何本か折れたかもしれない。

 この女、ツッコミを全く理解していないらしい……。


「ロ、ロア……。ち、治癒魔法を……。」

「は、はいっ!」


 ロアの治癒魔法で、瞬時に痛みも傷も消えた。

 だが、その様子を見ていたヴェーノは、次の矛先をロアに向けた。

 ロアも大した活躍をすることなく終わっているからな。


「あなたも、何もしてないわよね」

「い、いえっ。今、負傷されたレイジさんの手当てをしましたっ!」

「時間外労働!?」


 結局、報酬は活躍した二人が多く受けとることになった。

 ヴェーノとリリスが銅貨15枚ずつ、俺とロアが8枚ずつだった。

 リリスは、遠慮しますと言っていたが、貢献したのは事実だ。

 俺とヴェーノの説得で、何とか受け取った。

 ロアは、特に不満は無いようだった。

 あまり通貨に馴染みがないことが理由かもしれない。


 そして、俺は自分の取り分である銅貨8枚を見て思った。

 歩合制は世知辛い。

 なんとか、力をつけなくてはいけない。


「これで今日も終わりだな」

「疲れましたねっ!レイジさん」

「ああ、早く宿屋に帰って休みたいよ。そういえば、二人はどこに泊まるんだ?」


「私は、昨日から泊まっているところがあるわ。そうだ、よかったら、その……」


 ヴェーノがモジモジしだした。

 なんだ、急に……。

 それになんか乙女な感じだ。

 ヴェーノは見た目こそ美人だし、知らない人から見ればとても可愛らしい仕草なんだろうが、俺は違う。

 彼女の恐怖を知っているからこそ、気持ち悪く感じていた。


「リリスちゃん、今日私と一緒の部屋に泊まらない?」


 ヴェーノが、リリスに手を差し伸べた。


(リリスかよ!)


 危うく変な勘違いしそうになった。

 絶対無いとは思っていたが。

 ヴェーノに懇願されたリリスは困惑するような姿を見せた。

 あれだけ、仲良さそうに見えたが、リリスもヴェーノの本性に気づいたのだろうか。


「ご、ごめんなさい!ヴェーノさま……」

「えっ……!」


 リリスはヴェーノからの誘いを断った。

 それによって、ヴェーノは絶句した。

 今にも、砂となって消え去っていきそうだ。

 俺は、思わず吹き出しそうになる。

 だが、太ももを思いっきりつねることでなんとか堪える。

 ここで笑ってしまえば、確実に殺されるからだ。


「リリィは、レイジさまと一緒のお部屋で寝ます!じゃないとレイジさまも寂しくて寝られないと思いますので!昨日だって、その、一緒に寝ましたので!」

「えっ……」


 今度は、俺が絶句した。

 何を言っているんだ、リリスは。

 なぜ、今ここで俺の名前が出たのか分からなかった。

 俺は、リリスと一緒に寝たいと言った覚えはない。

 むしろ、安眠のためにも一緒に寝たくない。

 それに、これでは、ヴェーノが断られたのは俺のせいみたいじゃないか!

 その思惑は当たっていて、ヴェーノから強い殺意を感じた。


「ゴ、ミ、む、しぃぃ!」


 あ、俺死んだわ。


「待て、ヴェーノ。俺はリリスと一緒に寝るつもりはない。むしろ、一人で寝たい!」

「なんでですか……!レイジさま……」


 リリスが泣きそうな顔で訴えてきた。

 俺に拒絶されたと思ったのかもしれない。

 そして、これが余計よくなかった。


「今リリスちゃんを泣かせたわね!今日を、あなたの命日にしてあげるわ」

「ち、違う!誤解だ、リリス!俺が言おうとしたのは、そういうことじゃなくて、リリスと一緒なのは嬉しいんだけど!とにかく、悪かったから泣かないでくれ!」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、本当だよ!でも、今日はヴェーノが寂しがるから、ヴェーノと寝てあげて欲しいんだ」

「ちょっと、あなた、勝手に何言ってるの!」


 ヴェーノが焦った様子で取り乱した。

 おかげで、先ほどまでの殺気が少し薄れた。

 何とか、ぶっ飛ばされずに済んだようだ。

 それほどヴェーノは動揺していた。


「そうなんですか……?ヴェーノさま、リリィがいないと、寂しいですか?」

「えっ、あの、その……」


 ヴェーノが、口をすぼませる。

 その顔は見事に紅潮していた。

 高熱でもあるんじゃないかと思うくらい真っ赤だ。


「寂しい、かな……」


 消え入りそうな声でヴェーノが言った。

 顔は俯いていて、勇気を出して告白した少女のような顔をしていた。


(なんだよ、その表情は!)


 完全なる乙女じゃないか!

 青春してる女子高生かよ!

 ヴェーノに対する、ツッコミが溢れてくるが、今はそれを言える雰囲気ではない。


 ここまで来たら完全に恋なんじゃないだろうか。

 ちょっとして、いや完全に、ヴェーノってゆ——。


 最後まで言葉を連想する前に、物凄い眼光でヴェーノに睨まれた。

 怖い。

 頭の中でも読んでいたのかよ……。

 そんな中、空気読めない系女子のロアも同じことを思ったようで。


「ヴェーノさんって、もしかして、ゆ——」


 ロアが最後まで言う前に、ヴェーノが高速で動いた。

 すると、ロアはその場でパタリと倒れた。

 きっと、一瞬で何かをされたんだ。

 ロアは、ピクリとも動かなくなった。


「ロアぁぁぁ!!」


 二人はレベル差あったんじゃないのか!

 一瞬でやられたように見えたよ!

 これが恋する乙女の力なのか!

 恋する乙女強し。


「私は、昨日から泊まってる宿があるから、今日もそこに泊まるわ」

「リリィもそこに行きますね!」

「い、いいわよ」


 ヴェーノは強がっているが、内心では飛び上がるくらい喜んでいそうだ。

 これがツンデレというやつなのかな。

 俺が思っていたのと、全然違うんだけどな。


 そういえば、ヴェーノは昨日、ハウラスに着いたと言っていたな。

 その時に泊まった宿ということか。

 でも、これでヴェーノとリリスは別々の宿に泊まると決まった。

 今日こそ安眠できそうだ。

 俺が安心していると横からぬめりと何かが起き上がった。


「私は、宿って何かよく分からないので、レイジさんに教えてほしいですっ!」


 先ほど、ヴェーノにK.Oされたはずのロアだった。

 いつも間に回復したのかケロっとしている。

 この復帰力は、女神によるものかレベルによるものか分からないが、タフなやつだな。

 というか、ロアは宿自体を知らないんだな。

 本当、何も知らないよな。

 と思いはするが、この女神にもうあれこれ言えやしない。

 もし、怒らせてあの雷魔法でも使われでもしたら、俺が即死するからだ。

 今日の安眠のためにも、ここは人肌脱いでやるしかないな。


「なら、俺がこの町の宿屋を紹介するよ」


 なんで、こんなことを言ってしまったのか、数時間後の俺は激しく後悔することになる。

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