ツッコミ勇者は世知辛い
俺もさっさと武器を手に入れたい。
ざっと店内を見渡していると、壁に飾られた大剣が目に入った。
刀身が太く、分かりやすくいうとモンハンのあれだ。
「おっちゃん、あれは?」
「あんちゃん、そいつは鬼斬丸ってんだ。かつての名のある冒険者がそいつで鬼の首を切り落としたことからその名がついた優れものだぜ」
「へぇー、鬼斬丸か」
俺相手だと、店主の口調は戻るらしい。
まあそれはいいんだが。
鬼斬丸を近くで見ると、そのサイズはかなり大きく重量感もありそうだった。
俺なら、両手でなんとか持てるといったところだろう。
だが、こんな大剣を振り回して、戦えたらカッコいいだろうなと思う。
振り回すだけでなく背中に負って、持ち運ぶだけでもカッコ良さそうだ。
見ていると、少し気分だけでも味わいたくなった。
そこで、鬼斬丸を手に取ってみようと、その持ち手に触れた瞬間——
「痛っ!」
静電気が走ったような強烈な痛みが走った。
「……!?レイジさん、大丈夫ですかっ?」
手を抑えて倒れ込んだ俺に、心配したロアが治癒魔法をかけてくれた。
おかげで、すぐに痛みは消え去った。
さすがの魔法力だ。
「ああ、助かった。でもこれは一体?」
「あなた、やっぱり偽勇者なんでしょ?」
「そ、そんなわけないだろ……」
「職業ごとに、適性武器が決まっていてね。適正の無い武器は装備することができないのよ。本当の勇者様が、大剣を使えないなんて、あるわけないわよね?」
「レイジさんは、私が召喚した勇者ですよっ!偽勇者のわけないじゃないですかっ!」
疑うヴェーノにロアが反論するが、説得力がまるで無かった。
顔は真剣なのだが、どうしてか説得力に欠けるんだよな。
しかし、これは重要な話が聞けたな。
どうやらこの世界では、職業によって装備できる武器、できない武器があるようだ。
ゲームによくある設定の話だな。
そして、残念なことに俺は大剣を使えないらしい。
というか、それくらい、ロアも知っといてくれよ。
俺が倒れた時、何が起きたのか分からないという顔をしていたが。
さっきの、けっこう痛かったんだぞ。
未だに、ロアはヴェーノと言い合いをしていた。
「レイジさまは、私を助けてくれた本物の勇者様です!」
リリスが店内に響き渡る大きさで告げた。
これで、ヴェーノも何も言えなくなる。
「リリスちゃんがそう言うなら……」
相変わらず、リリス第一主義のようだ。
一度リリスが言う事をどこまで信じるのか、試してみたくなるな。
バレたら、殺されそうだが……。
「あんちゃんは、どんな職業なんだ?支援系、盗賊系か?」
「いや、まあ、一応勇者なんだけど……」
これは、あまり人に見せたくないんだが、適性を知るためにも、俺は店主の親父にこっそりと冒険者カードを見せた。
「これは……」
冒険者カードを見た店主は、驚愕した顔になり、そして笑いだした。
「ツッコミ勇者ってなんだこりゃ。ブッハハハ」
「おい、笑うな!!」
この親父、俺が一番気にしているところで笑いやがった。
詐欺を企んでいたことをどっかに暴露してやりたい。
だが、親父が大声で言ってしまったことで聞かれたくない人物にまで聞かれてしまった。
「へえ、ツッコミ勇者ね。面白いこと聞いちゃった」
「さ、最悪だ……。一番聞かれたくなかった奴に」
「ツッコミ……?」
ヴェーノは、愉快そうに口の端を吊り上げていた。
リリスは反対に何も理解していないようだ。
それが、まだ救いだった。
俺は、過去一番の恨みを持って、店主を睨む。
「わ、わりぃ、あんちゃん。見たことないものだったからな、つい……。しかし、変だなこりゃ。一応、勇者にはなるわけだし、大剣が装備できねえなんてことはねえはずだ」
店主は話題を逸らすためか、不思議そうな顔で大剣を見つめていた。
それが、余計に腹立たしく思った。
「そうか、思い出したぞ!ツッコミ勇者、どっかで聞いたことあると思ったぜ」
店主は、また裏へと入っていた。
また怪しい物でも持ってくるのかと思っていると。
「うちには、もう一つ、とんでもねえ武器が置いてあるんだよ」
そう言って、店主が持ってきたのは、白を基調とした大きなハリセンだった。
何を言ってるんだと思われたかもしれないが、嘘ではない。
店主が持ってきたのは、紛うことなきハリセンだった。
「こいつぁは、大昔にいたとされる伝説とされる勇者が使っていたとされる代物よ。その名も『ハリセン丸』!あんちゃんだったら、使えるかもしれねえ」
「へえ、これが伝説の武器か……。って、ただのハリセンじゃあねぇかぁぁ!!」
「こ、これがあのハリセン丸なの……!」
ヴェーノが驚愕した顔をしている。
「え?そんな有名なの!?ってか、お前そんなキャラじゃないだろ!」
「ふんっ、あなたって物を見る目も無いのね……」
「なんだと!」
ヴェーノの侮辱したような言い方に、俺はカチンときた。
俺だって、言う時は言ってやるぞ。
「まあまあ、あんちゃん、とりあえず持ってみなよ」
誰のせいだよと思いながら、いったん矛を収める
「ハリセンなんて、誰でも使えるだろ」
ハリセンは、武器でもなんでもない。
ただの小道具だ。
だから、誰でも扱えて当然のはずだ。
それでも、言われるままに、ハリセンを持ってみると―
(めっちゃしっくり来るぅぅ!!)
なんだ、これは!
先ほど、鬼斬丸に触れたときの痛みは一切ない。
あるのは、長年愛用していたかのような心地の良い、フィット。
かつての相棒に再開したかのような、懐かしい気分。
もう離したくほどの愛着感。
「どうだい、あんちゃん?」
「ものすごく、しっくりきます……」
「おおっ、それは良かったぜ!」
店主は、とても嬉しそうだ。
ずっと、使い手が現れない伝説の武器に寂しさを感じていたのかもしれない。
だが——
「けどさ、おかしくない?」
救いを求めるようにロアの方を見ると。
「クスッ」
「おい、今笑ったろ!完全にバカにしたよな!この、女神コラァ」
「いえ、そのっ。レイジさんにお似合いだと、思い、ますよっ。クスッ」
(この女、少しバカなだけかと思ったら、結構腹黒いぞ、チクショウ)
「レイジさま、リリィはカッコいいと思います!」
「リ、リリスぅぅ」
よし、もうリリスと結婚しよう。
リリスの優しさに触れて、割と真剣にそう考えた。
❖
結局、俺が使えた武器はハリセン丸だけだった。
槍を持っても、弓を持っても、ハンマーを持っても、どれも拒絶されてしまった。
無機質な物とはいえ、拒否されるというのは悲しいものがあった。
腕への痛みと共に、心にも傷を負った気分だ。
店主にも最初は、騙されそうだったし、本当に散々な目にあった。
もしこの心の傷を癒せる魔法があるのなら、ぜひロアに唱えてほしい。
そして、俺は店主からハリセン丸を譲り受けることになった。
次いでに金貨1枚で、防具も見繕ってもらった。
店主からハリセン丸の話を詳しく聞くと、ハリセン丸は500年以上前に存在した勇者が使っていたものだそうだ。
そんな品物が100年以上前に、偶然店主の店に流れ込んできたらしい。
そして、ハリセン丸を扱えた者は、今日の俺に至るまで誰もいなかった。
俺の職業、『ツッコミ勇者』はその適正があったようだ。
だからといって、全く嬉しくはない。
全て信じられない話だったが、一応証拠としての文献を見せてもらった。
古すぎて、書いてあることはろくに理解できなかったが。
ロアに聞いても何も知らないと言われた。
なので、結論は何も分からない。
なんで、ハリセンが伝説の武器なのとか、そもそもハリセンって武器なのとか、ハリセンがなぜできたのとか疑問は山ほど湧いてくる。
だが、考えても答えは出ずに、ハリセンでゲシュタルト崩壊した。
そして、考えることをやめた。
店主は、伝説の武器を眠らせるのももったいないし、騙そうとした詫びにと、タダでハリセンを譲ってもらった。
タダでくれるなら、鬼斬丸がよかったが使えないので持っていても仕方がない。
ハリセン丸を持っていても、仕方がない気がするが。
それでも、一応は、伝説の武器というのであれば、今はただ希望を持とう。
最強の殴打武器として使える可能性もある。
こうして、武器と防具が一式揃ったのだが——
「やっぱり、なんか間違ってるよぉぉ!!」
ハリセンで戦う勇者なんてどこにいるんだよ!
俺が、思い描いていた異世界生活は完全に幻へと消え去った。




