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その女神、最強

 装備を整えた俺たち一行は、目的地である農村へと向かっていた。

 農村へは、町から歩いて30分ほどで着くらしい。

 なので、さほど遠い距離でもない。


 基本的に農村や漁村地域の多くは、ハウラスの周辺に密集した形になっている。

 これは、ハウラスが物流の集積地、交易都市を目的として造られた町だからだ。

 大昔、交易は村同士で行う直接的なやり取りだった。

 しかし、村同士でのやり取りでは、特定の品目に限られたり、村によって距離が異なったり、非効率で不便なものであった。

 そこで、出来たのがハウラスという町だ。

 どの村からもほぼ等間隔な位置として、今の場所に物流の集積地が置かれた。

 そのため、ハウラスから農村までの距離は短くなっている。


 しかし、さらに新たに問題が起こった。

 それは、盗賊やモンスターの存在だ。

 ハウラスから出る荷馬車は、村から出る荷馬車に比べて、圧倒的に品目が豊富である。

 そのために、ハウラスから出た荷馬車が襲われることが多くなった。

 また、モンスターが現れ、荷馬車を襲う事件も相次いだ。

 ここで、考案されたのが、警備隊(現在の冒険者)である。

 ハウラスで雇われた警備隊が、全ての荷馬車を守っていた。


 このようにして、ハウラスという町が出来上がっていった。

 そして、今の冒険者制度は、すべて税金から成り立っている。

 税は、各村からも徴収されている。

 その分、農村地域で盗賊やモンスターが現れた際には、税収より雇われた冒険者が派遣される。

 今回受けた依頼も、そういった類のものだ。


「冒険って、なんだかワクワクしますねっ」


 道すがら、ロアが語りかけてきた。

 モンスターと戦うというのに、呑気なものだ。

 レベル差があるから、余裕ということかもしれない。


「ああ、特に前の二人は楽しそうにしてるな」


 ロア以上に呑気な二人組が、前を先行していた。

 リリスとヴェーノだ。

 二人は、今日出会ったとは思えないくらい密着して歩いている。

 密着といっても、ヴェーノが一方的に近づいているだけだが。

 ヴェーノ曰く、密着しているのは、リリスを外敵から守るためだと言っていたが、ただリリスが好きで離れたくないようにしか見えなかった。


(どんだけ、リリスのこと好きなんだよ……)


 さすがに怖くなってきたが、言うと怒られそうなので心に留めておく。


 かなり歩いてきたが、町まで、まだ距離がありそうだ。

 なので、ここはロアに一つ尋ねておくか。


「なあ、ロア。魔界の場所って、どこだか分かっているのか?」

「いえ、知らないですっ」

「即答かよ!でも、神様なら、さすがに知ってるだろ?」

「いえ、神様も知らないですよっ。誰も魔界がどこにあるか分かりませんっ」

「ええー」


 質問終了。

 俺が、一番知りたかった情報は何も得られなかった。

 普通、神って悪魔に詳しいものじゃないのか?

 居場所も知らないなんてことあるのか?

 俺が、不思議がっていると、ロアがその理由を教えてくれた。


「魔界の場所が分からないのは、単純に誰も行ったことないからですよっ」

「魔界って、そんな秘境みたいな場所なの!?神様って、普通悪魔のこと詳しいものだろ?」

「それは、完全な偏見ですっ。主が、悪魔のことを知ったのは、SNSで偶然知り合ったからですよっ」

「SNS!?」

「そうですっ。魔王のSNSを主が偶然フォローして、知り合っただけで、元々誰も悪魔のことなんて知りませんでしたからっ」

「何が本当なのか、もう分かんなくなってきたよ……。そもそも、何で神様がSNSとかやってるんだよ!」

「それは、もう、ネット社会ですからねっ」


 バシン。

 俺は、無言でロアの頭をハリセンで叩いた。


「いたぁっいい!何するんですかっ」

「ツッコミどころしかなかったから。あと、ムカついたから」

「ひどいですっ。DVですっ!家庭内暴力ですっ!」

「何で、そういうことだけは知ってるんだよ!」


 結局、ロアから魔界についての情報は何も得られなかった。

 それより、神がSNSをやっているというどうでもいい情報は得られた。

 神って一体何をやってるんだ?

 意外とただのニートだったりするんじゃないか。


 最初からそうだったが、魔王の居場所は自分で見つけるしかないようだ。

 最後の頼みの綱である、ヴェーノも魔界については知らなそうだし。

 一応、後で聞いてみるつもりだけど。

 俺が、元の世界に帰るのは、まだまだ先になりそうだ。


(はあ、元の世界に帰って、ゲームでもやりたいな……)



「ロアってさ、攻撃魔法は全く使えないの?」


 これも聞いてなかったので、ロアに尋ねてみた。

 どうせ、何の役にも立たないネタ魔法とかならいっぱい覚えてるんだろうな。

 俺の心には何の期待も無かった。


「使えますよっ!」


「使えるんかい!例えば、どんな魔法が使えるんだ?」


 使えるといっても、きっと対したことない魔法だろ。

 良くてファイアーボールくらいだろうな、と思っていると。


「そうですね……。強力な魔法で言えば、黒雷こくらいとかですねっ。その名の通り黒い雷を放つ魔法で、村1つくらいは軽く消し飛ばすねっ」

「黒雷!?村一つを、軽く??」

「疑うようでしたら、少しだけ使ってみますねっ」


 そう言って、ロアが呪文を唱えた。

 すると、近くの半径2メートル程度が黒ずみになって消し飛んだ。

 先行していった二人は、気づいていなかった。


「こんな感じですねっ。他にも一応、強力な魔法はありますよっ」

「おいおい、待て!なんで、そんな危険な魔法を覚えてるんだよ!」


 魔法を放った本人は褒められていると思っているのか、ニコニコしている。

 俺は、そんなロアに恐怖を覚える。

 これは、一番恐ろしいタイプだ。

 当の本人が何を悪だか自覚していないタイプだ。

 だいたい世の中、強い天然キャラ、が一番厄介だと相場が決まっている。

 それに、なお、ロアはドヤ顔しながら言い張った。


「女神ならこれくらい、誰でも当然のことですっ!」

「当たり前って……。誰でもそんな強力な魔法を使えるのかよ!てか、どう考えても、女神が使うイメージのない魔法じゃないか!」

「それは、レイジさんの偏見ですよっ!女神だって、攻撃魔法を覚えますし、呪術や即死系の魔法だって使いますっ。私はヒーラー寄りですから、変わったものは、使えませんけどっ」

「もう、女神と悪魔の境界が分からなくなってきたよ……」

「違いなんて、誰かが勝手に分けたものに過ぎませんよっ。神の前では、誰もがみな平等なのですよっ」

「なんか、それっぽいことを……。ロア、戦闘にはその魔法を使わないんだよな?」

「はいっ!主が望んでいないことですのでっ。なので、秘密にしといてくださいねっ?」


 ロアは終始笑顔だが、俺は笑えなかった。

 悪魔よりも、女神や神がよっぽど恐ろしい存在に思えてきた。

 この力があれば、確実に人間を滅ぼすことができる。

 それよりもむしろ悪魔の方が、良いやつが多かったりしそうだ。

 リリスだって、普通の女の子にしか見えないわけだし。

 何度見たって、大悪魔の娘だと信じられない。


 この世界は、やっぱり色々と間違っている。

 ただ、俺は今ここで一つだけ心に誓った。


 絶対に女神にも神にも喧嘩を売らない、と。

 神様、お慕いしております。

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