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武器屋と勇者

 ハウラスには、いくつもの武器屋が存在している。

 冒険者の町だけあって、装備品への需要は高い。

 先日の悪魔討伐で得た報酬も十分だったので、武器防具は十全なものにするつもりだ。

 向かったのは、町で一番といわれる武具屋。

 こういう店選びの際、とりあえず一番とつくものに惹かれてしまう。

 2位じゃダメなんです。


 ハウラスの一等地に武具屋はあった。

 思った以上の大きさに、度肝を抜かれる。

 さすが、冒険者の町だけある。


「へい、らっしゃい!!」


 さっそく店に入ると、生きのいい店主が出迎えてくれた。

 ハウラスに着いた時から、感じていたことだが、この町の人間はとにかく生きがいい。

 日本にいたころに、住んでいた東京とは大違いだ。

 東京は人が冷たいとはよく言ったものだが、要は他人に関する関心が薄いのだ。

 この町ではみなが、みなに優しい。

 ヴェーノが広場で暴れていた時も、住民みんなで助け合っていた。

 そういう人情にあふれた町なんだ、ここは。


 店内は、ずらりと武器や防具が並んでいて、壁一面にも剣や盾が飾れている。

 どこを見ても、装備品が置かれている光景は、非常に男心を擽られた。

 一日中、ここで過ごせそうだぞ。


「すごいです!いっぱいあります!」


 リリスも目をキラキラさせて店内を眺めていた。


「あんちゃん、今日は何用で?」


 店主がニコやかに話しかけてきた。


「武器と防具を探しにきた。予算が金貨3枚なんだが、それで見積もってくれないか?」


 この世界の物価を知らない俺は、今持ってる財産を告げた。

 すると、それがまずかったのか、店主の雰囲気が明らかに変わった。

 店主は、店の裏に行き、何やら箱に納められた物を持ってきた。

 中には、銀の短剣が2本入っていた。


「あんちゃん、この武器なんか一級品よ。今なら安くして金貨2枚にするよ」

「おお!」

「触ってみてくれて構わねえよ」


 俺は、店主から銀の短剣を受け取る。

 細部まで、光沢が行き届いており、素人目に見ても見事といえる一品だった。

 予算的には、ギリギリなところだが、店主がわざわざ裏から持ち出したものだ。

 一級品であることは間違いないだろう。


「とりあえず、じゃあこれを—」


「ふざけてるの?」


 買うと最後まで俺が言う前に、ヴェーノが口を開いた。

 そして、抜刀しており、レイピアの切っ先を店主に向けていた。


「おい!ヴェーノ」

「ヴェーノさんっ!?」

「ヴェーノさま!?」


 急な攻撃態勢に、焦った3人でヴェーノを抑制したが——


「静かにしなさい!」


 逆にヴェーノが威圧してきた。

 俺は思わず、黙りこむ。

 それは決して、ヴェーノが怖かったからではない。

 鋭い目で睨まれたことで身がすくんでしまったわけではない。

 本当だよ?


「私はアシュトレト王国の聖騎士長。良い武具がどうかなんて、一目で分かるわ。こんなものが金貨2枚?随分な商売をしてるじゃない」


 それを聞いた店主は、一瞬で血相を変えて、土下座した。


「す、すまねぇぇ!!アンタがあの女聖騎士の毒姫だったのかい。全員、見たことねぇ顔だったから、つい高値を吹っ掛けちまったんだ。この通りだ、許してくれ!」


(人情の町、どこいったぁぁぁ!!!)


 目の前で、額を地面にこすりつける店主を見て、俺は信じられない思いがした。

 ほんの少しでも、この町を好きになっていた俺の心を返してほしい。

 それにしても、ヴェーノが俺を助けるなんて意外だった。

 俺が騙されていようとも口を出さないと思っていた。


「相手が悪かったわね。この事は他言しないであげるから、この子に合ったローブを見繕いなさい。もちろん安くしなさい」


 ヴェーノは、リリスを指さして言った。


 結局、リリスのためかよ!

 少しでも、ヴェーノの優しさを感じた俺の心を返して欲しい。

 道理でおかしいと思った。

 最初から、ヴェーノの目的はリリスのローブだったわけだ。

 確かに、リリスのローブは戦闘向きのものでは無かった。

 リリスのことが大好きなヴェーノがその装備を気に掛けるのは当然のことだろう。


「とりあえず、それを見せなさい」


 ヴェーノは、壁に掛けてあった煌びやかローブを指さした。

 それを見た店主は、驚くように声をあげた。


「あれですかい?!」

「いいから早くしなさい」

「へ、へい!」


 店主は、慌ててローブを引っ張り下ろしてきた。

 近くで、見るとより一層と煌びやかさに見えた。

 丁寧に編み込まれた刺繍は、それがいかに卓越された一品であるかを理解させた。

 俺は見たことがないが、こういう一品は貴族が着るような物ではないだろうか。


「これはどういうものなんですかっ?」


 ロアが店主に問いかけた。


「こいつぁは、英知のローブというものらしいです。信じられない話ですが、その効果は、打撃・斬撃・刺突などあらゆる攻撃を半減、さらに魔力攻撃を反射するというとんでもねぇ優れものだ、です」

「何だ、そのでたらめなローブは。普通にチートレベルじゃねぇか。また騙そうとしてるわけじゃないよな?」

「と、とんでもねぇ。こいつはうちにある中で最高品でさ!俺だってまだ信じてねえくれえだぜ、です」

「どういうこと?それに、そんな大魔導士聞いたことないわよ?」

「それが、実はね——」


 そこからの店主の話を要約するとこうだ。

 数日前、偶然店に訪れた魔導士がいた。

 その魔導士は、世間知らずで店主にあれこれと町の情報や冒険者の情報などを聞いてきた。

 事細かに、店主が全てを教えてやると感謝の意を示した魔導士が、ローブをくれたそうだ。

 それが英知のローブ。

 ローブを貰った店主は、後で鑑定してみて、それがとんでもない物だったことに気づいたらしい。

 流石にそんな物を渡していくなんて、おかしいと思ったが、魔導士の名前は聞いておらず、どうしようかと思っていたところだったそうだ。


「ロア、その魔導士って……」

「転生者の可能性が高そうですねっ」


 俺以外にも、この町にいると思われる異世界からの転生者。

 その一人が、とんでもないローブを持っていてそれを平気で武具屋の店主に渡していった。

 一体どんなやつなんだろう。


 そして、ヴェーノは、確認するようにローブを触って確かめていた。


「こんな素材見たことないわ。一体、どこの国の技術だというの。でも、いいわ。これなら、リリスちゃんにもぴったりだわ」

「そんなすごいものを、リリィが着てもいいんですか?」


 リリスが目をキラキラさせて、ローブを見ている。


「いいのよ。このローブはね、リリスちゃんのためにあるんだから」

「これが親バカというやつか」

「ねえ、ゴミ虫、今何か言った?」

「いえ、なんでも!」


 これも決してヴェーノが怖かったわけではない。

 本当に、本当だよ!


「それで、いくらで売ってくれるの?」

「正直、値段なんて、付けられないくらいなんですが……」

「そうね。こんな一品は王都にも存在しないし、金貨10枚以上してもおかしくないわね」

「毒姫様の要望ですから、金貨3枚で、どうでしょう?」

「何枚って?」


 そう言ったヴェーノはとても穏やかな様子ではない。

 王都に無い品でも、タダでいいわよね?といわんばかりの顔だ。

 なんて、恐ろしい女だ……。

 とても騎士のやり取りとは思えなかった。

 どっちが悪人なんだか。

 少しだけ店主の親父が、かわいそうに思えた。


「金貨1枚で!!」

「買うわ。なかなか良心的なのね」


 ヴェーノは、金貨を取り出し、すぐに会計を済ませた。


「リリスちゃん着てみて」


 ヴェーノがリリスにローブを着させた。

 袖の部分が長いのか、少し余っていた。


「おっちゃん、これサイズ調整できないのか?」

「ええ、もちろんできま——」

「はあ?あなた何言ってんの?バカなの?ゴミなの?ゴミ虫なの?」


 急にヴェーノが怒りだした。

 何でだ!?

 この世界では、袖の調整はしないものなのか?


「この袖がいいんでしょ!この長さが、リリスちゃんの可愛さをより引き立たせるのよ!」

「萌え袖好き過ぎだろ!」


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