勇者と最強の仲間
ギルドのカウンターへ行き、二人の冒険者登録と4人での冒険者パーティ手続きを完了させる。
ヴェーノとロアには、それぞれ冒険者カードが付与された。
なので、早速そのステータスを確認する。
あれほどの剣の腕前を持っていたヴェーノのことだ。
ステータスが高いのは間違いないだろう。
『ヴェーノ』
レベル16 職業:パラディン
HP 40
MP 9
攻撃力 44
防御力 34
魔力 8
素早さ 5
知力 7
毒舌 421
「やっぱり、ステータスのどれもが高いな……って!毒舌値が421?!なんだよ、これ。すごく嫌なステータスじゃないか……」
「何?私のステータスに文句があるわけ?」
「いや、そういうつもりじゃ……」
「あなたみたいな貧弱なゴミ虫が、見ないでくれる?」
「こいつ、絶対パラディンじゃないだろ!」
俺の叫びに反応したヴェーノがレイピアを抜き、こちらに襲いかかろうとした。
その時、
「ヴェーノさま、すごいです!最強です!」
同じくヴェーノのステータスを見ていたリリスが目をキラキラさせながら言った。
そんなリリスの褒め言葉で、ヴェーノは俺への攻撃をやめた。
褒められたことがよほど嬉しかったのか、珍しく顔を俯かせていた
なんて、単純なんだ。
「リリスちゃんは、やっぱり天使だわ。そこの自称女神とは違ってね」
「そんな、ひどいですっ……。自称じゃなく本当に女神なんですっ!ほら、このカードだって見てくださいっ」
そう言って、ロアは冒険者カードを見せてきた。
俺は冒険者カードを受け取り、3人でその内容を確認した。
正直、そこそこのステータスなんだろうと思っていたら、
『ロア』
レベル30 職業:女神
HP 109
MP 97
攻撃力 30
防御力 45
魔力 90
素早さ 9
知力 5
変化 500
「レベル30!?」
「嘘でしょ……。防御力45に魔力90?!なにこれ、私のステータスより高いじゃない!」
「ロアさま、凄いです!」
そのステータスに一同驚愕する。
ロアのステータスは、想像以上のものであった。
中でも、一番ショックを受けていたのはヴェーノだ。
まさか自分よりもレベルが高いとは夢にも思っていなかったのだろう。
「こんなの、ありえないわ!レベル30なんて英雄の領域よ」
「職業もちゃんと女神になってるしな……」
「お二人ともホントにひどいですっ!私のこと、全然信じてくれてないじゃないですかっ!」
ロアは、プンプンして、頬を膨らませていた。
「そもそも、ロアなんて女神聞いたことないわ。あなたが、女神かどうかはこの際置いとくとして、人間でないことは確かなようね」
「だから、本当に女神なんですっ!!」
「まあまあ、二人とも落ち着けよ。強い仲間がいるに越したことはないだろ」
俺は二人の間を取り持とうと試みる。
ヴェーノは、ロアが自分より高レベルなことに納得していないようだが、俺からしたらありがたいことこの上ない。
強い仲間がいることで、魔界まで楽勝で行けるに違いないからだ。
これは、神様にも謝らないとだな。
「あの……レイジさん、私、戦闘はしませんよっ?」
「……」
嬉しそうにしている俺にロアが申し訳なそうに言った。
それで、俺も我に返る。
確かにロアは、戦闘行為をしないと言ってはいた。
「なんでだよ!こんな高いステータスを持ってるじゃないか!」
「強者の驕りってわけ?」
俺のあとに、ヴェーノも皮肉げに言った。
ロアのステータスなら、普通に戦っても相当の強さのはずだ。
回復行為のみというのは、完全に宝の持ち腐れだ。
「私、ヒーラーって言いましたよねっ!それに女神なんですっ!」
「そろそろ女神、女神ってうるさいな!」
「えええっ!!レイジさんまでっ!」
俺は少々八つ当たり気味にロアにキレた。
ロアが協力さえしてくれれば、魔界だって早くいけるはずだ。
それに変に決まりに従うという考えも好きになれなかった。
「大丈夫ですよ!」
俺とロアが揉めようとしている中で、リリスが声を上げた。
突然のことに3人で静まり返ってリリスの言葉を待った。
一体何の話をするつもりなんだろうと。
「レイジさまはここにいる誰よりも強いんですから!魔王を倒すことなんて楽勝です!」
「「「えっ!!」」」
ヴェーノとロア、そして俺までも驚きの声を上げる。
俺はこの中で最弱だ。
リリスの言っていることは全く事実でない。
そこで俺は思い出す。
リリスは俺のことを最強の勇者だと誤解していた。
そのせいで今大丈夫だと言ったのだろう。
だが、今そんなことを言えば余計ややこしくなるのは必至なわけで、
「この男がパーティ最強?!本当なの?リリスちゃん」
「はい!」
ヴェーノは何とか苛立ちを隠しながらリリスに優しく問いかけた。
自分より俺の方が強いとリリスに思われていることが許せないのかもしれない。
「私がこの男より弱い……。でも、リリスちゃんには強く言えない……」
これ以上はマズい。
無理やりにでも、話題を変えるしかない。
ヴェーノが暴走する前に俺はこれからすべきことを話し始めた。
「とにかく、今日はクエストに行こうぜ。4人でのチームワークだって図っておきたいだろ?」
「とにかく、今日はクエストに行こうぜ。4人でのチームワークだって図っておきたいだろ?」
俺は、食い気味に進言する。
別にクエストに行きたいという思いは嘘ではない。
チームの力量を見ておくことは、今後の活動にも影響する重大なイベントだ。
もちろん、俺のステータスをあやふやにしておくという狙いもあるわけだが。
俺は、みんなの賛成の声を待たず、クエストボードまで向かおうとした。
だが、
「待ちなさい。あなたのステータス、まだ見てないわよ?」
後ろから圧のある声に呼び止められた。
確認するまでもなく分かる、声の主はヴェーノだ。
ただならぬ殺気が背後から噴き出ているが、俺は構わず進もうとした。
シャキーン。
俺の喉元に鋭くて冷たい鉄の剣先が当たった。
見なくても分かる。
ヴェーノのレイピアだった。
これは、すぐにでも俺の首を切れるぞという警告に他ならない。
「ステータス、見せなさい。私よりも強いんでしょ?」
「え、遠慮します……」
「見せなさい」
「絶対に、嫌です!」
「じゃあ、死ね!」
「なんでそうなるんだよ!!」
危うく殺されかけた俺だったが、リリスの仲裁のおかげもあり、なんとか命は助かった。
それから、4人でクエストを探すことになった。
クエストには討伐クエスト、採取クエスト、探索クエスト、依頼クエストなど様々な種類が存在している。
定番なのは、討伐クエスト。
危険度が高い分、報酬も一番高い。
そして次に人気となるのが、探索クエスト、依頼クエストという順番だ。
ちなみに、冒険者としての知名度が上がっていくと、指名でのクエスト依頼が来ることもあるそうだ。
今回は、討伐クエストの中でも簡単そうなものでいいだろう。
もしあっさりクリアできたなら、次は少し難易度を上げればいい。
俺は目に留まったクエストを手に取る。
「これなんかいいんじゃないか?」
「どんなクエストなんですか?」
「えっと、農村地帯に生息するフィールドワームの討伐って書いてますねっ」
「ああ、難易度はDランク。一応、初心者用のボード欄から選んだ」
初心者冒険者は基本的にはEランクから始めることになっている。
それでも、このクエストが初心者用の掲示板に貼られているのは、依頼先の農村が収穫期のため人手不足状態となっているからだ。
まさに、猫の手も借りたいというやつだ。
それに、フィールドワームは村の作物を食い荒らすモンスターで、討伐が遅くなると収穫に大きな影響も出る。
「畑を食い荒らすモンスターですかっ……なんだかおっかないですねっ」
ロアが物怖じするように言った。
女神だけあり、実際にモンスターと戦った経験が無いのが原因のようだ。
それでも、パーティ1の高レベルで一番問題ないはずなんだが……。
「このモンスターは、人を滅多に襲うことは無いって書いてあるぞ」
「本当ですかっ!?」
「私は、それで構わないわ。まああなたが倒せるとは思わないけれども?」
「お、俺だってこれくらい倒せるわ!」
相手は攻撃してこないモンスターだ。
いくら最弱ステータスの俺でも倒せるだろう。
と自分を鼓舞しつつクエストを受けようと、受付のお姉さんのところに行く。
「このクエスト受けたいんですけど?」
「こちら、フィールドワームの討伐ですね」
お姉さんはそそくさと手続きを進めた。
お姉さんは、クエストに関する情報の記載された用紙をこちらに手渡してきた。
そこには、依頼主の家や名前などの情報が書かれていた。
まずは、この依頼主に会って、詳しい話を聞くようにということだった。
ちなみに、クエストに失敗しても冒険者へのペナルティはない。
これは、ペナルティを課すことで、失敗したことを隠蔽されたり、冒険者のやる気を損なわないようにするためだ。
なので、お姉さんには、無理をせずにと励まされた。
「よし、みんな行くぞ」
「待ってください、レイジさんっ。レイジさん、武器は持っていないのですかっ?」
「あっ……」
モンスター討伐を完全に人任せにしようと思っていたので、自分が今武器を持っていないことなど考えていなかった。
今パーティで武器を持っていないのは、俺とリリスだけだ。
ヴェーノは、レイピアを持っているし、ロアも長いロッドを持っている。
こちらの世界に転生した際は、剣の小道具を所有していたが、ヴェーノとの戦いで完全に破壊されてしまった。
なので、クエストに出かける前に武器屋に行って、何か新調しなければならない。
それと防具も買っておけば、安心だろう。
幸いなことに悪魔の討伐報酬も結構ある。
「そういえば、リリスも武器持ってないよな?」
リリスは出会った時、武器を持っていなかった。
一緒の部屋に泊まった時も、何か武器らしきものを見かけていない。
それでも聞いてみたのは、魔法の力で武器を出したりできるのかなという興味本位に他ならない。
「はい、一応ですが持ってますよ!」
そう言って、リリスは異空間から——
「えぇぇぇぇっ!!」
俺は、驚愕して、思わず叫んでしまった。
リリスが取り出したのは、1mを優に超える巨大なデスサイズだった。
刃から発せられた禍々しいオーラは、見た目だけのものでなく確実に人の命を刈り取りとるものであることを感じさせられた。
まさか、リリスが武器といってこんなデスサイズを取り出すなんて夢にも思わなかった。
「リリスさん……。ニコニコしてるけど、すごいもの持ってるよ!」
「可愛いわ」
引き気味の俺に対し、ヴェーノはデスサイズを持っているリリスになおメロメロだ。
リリスのことならホント何でもありなんだな。
「デスサイズを見るのも久しぶりです!また、この子と魂を刈り取りたいです」
「リリス?!」
リリスはデスサイズを見て、どこか遠い日のことを思い出しているようだった。
まさか、本当に人間の魂を刈っていたのか?
いや、そんなわけない。
どう見たってリリスはまだ子供だ。
そうだ。
(ロアはどう思ってるんだ?)
自分でもよく分からないが、なぜだかロアの反応が気になった。
だがロアは、落ち着いてあらあらといった感じでほほ笑んでいた。
その無反応さがかえって不気味で、喉に何かつっかえているような気分がする。
それに表情こそ笑っているが、目だけはどこか虚ろな気がした。




