やっと冒険は始まりを迎える
「リリスには、何もしないんだよな?」
「はいっ。それは、約束しますっ。先ほども言いましたが、私たちは争いを望んでいませんからっ」
「じゃあ、分かったよ」
とりあえず、ロアがパーティに加わるという流れでこの話し合いは終わりを迎えた。
言いたいことは山ほどあったが、これ以上文句を言うのもやめることにした。
ロアも、悪びれる様子を全く見せようとしなかった。
それでも、パーティに入ってもらったのは、神様からの使者であることやヒーラーであることを踏まえた上で、だ。
もしかしたら、リリスに何かしようとするかもしれないと思ったが、本人からその意思がないようだし、もし何かしようとしてもヴェーノが止めることだろう。
なので、当面の心配は何もなさそうだ。
「ロアには、色々聞きたいとこだけど、俺の仲間もどこかで待っているだろうしな。まず、二人の元へ行くから、ロアはそこで自己紹介をしてくれ。それと言っておくが、ヴェーノを怒らせないようにな」
「分かりましたっ!お任せくださいっ!」
(こいつ、絶対何かやらかすな……)
これは、男だからこそ分かることかもしれないが、ロアとヴェーノは多分相性が悪い。
とにかく、ヴェーノはロアのような性格を嫌いそうな気がするのだ。
最悪、すぐにでも喧嘩が起きるんじゃないかと、幼子を持つ母親の様に心配してしまう。
これ以上の面倒事はごめんなので、何とか上手くやってくれないかと懇願するが——
そもそも、女神って社交性とかあるのだろうか?
——とか考え出すと気が気でなくなってくる。
「ロア……、頼むからな。ここだけは頑張ってくれよ!」
「なんで、そんな娘を見送る父のような目をしてるんですかっ!自己紹介くらい誰にでもできますよっ」
いや、問題は自己紹介じゃないんだよ。
俺は、とにかくロアを切願の想いで見つめていた。
❖
ロアを連れて部屋を出る。
部屋を出たすぐのところで、リリスとヴェーノ、2人の姿があった。
「待たせたな、2人共」
「レイジさま、ご無事そうで良かったです!」
「あなたってなかなか、しぶといのね」
「うるせえ」
再会早々、リリスが天使のようなほほ笑みで出迎えてくれる。
その姿に、本物の女神はリリスなんじゃないだろうかと思えてくる。
対してヴェーノは、相変わらず俺に手厳しいようだったが。
「2人に大事な話があるんだ。急な話になるんだが、彼女——ロアも、うちのパーティに入ることになった。俺が独断で決めたことは悪いと思っているが、ここはよろしく頼む」
俺は頭を下げる。
これで上手くいってくれないかと僅かながらの期待を込めていたが、案の定そうはいかなかった。
すぐにヴェーノが突っかかってきたのだ。
「ずいぶん、唐突すぎる話ね。あなた、私がパーティに入るって言った時は、散々ごねていたじゃない。この違いは何?まさか、その女に部屋で何かされたんじゃないでしょうね?」
「何で、そうなるんだよ!」
「じゃあ、やっぱりあなたたちは知り合いだったのね?」
「そ、それは……」
そういえば、ギルドに入る前にロアが話しかけていたことを忘れていた。
俺は、あの時ロアのことを知らないと答えたが、今思うとあれは完全に失敗だった。
それでも、元凶はこの女神にあるわけなんだが……。
言葉を濁す俺に、その元凶である女神様が割って入ってきた。
「私とレイジさんは、知り合いの知り合いみたいな感じですっ。なので、大丈夫ですよっ!」
(おい!それは、無理があるだろ!)
知り合いの知り合いなんて、ほぼ他人じゃないか。
この発言では、何か隠し事をしていると認めてしまっているようなものだ。
ヴェーノの方を見ると、さすがに呆れている様子だった。
そして、軽蔑するような厳しい目で、ロアに問い返した。
「何それ?それで誰が納得するわけ?あなた、バカなの?」
「ああっ!今、バカって言いましたねっ!」
「バカはバカよ。リリスちゃんにバカが移ると困るからさっさと消えてくれる?」
「ヴェーノ、やめてやれ。ロアがかわいそうだ。バカっていうのは俺も同意するが」
「レイジさんまでっ!?」
ロアは、両目をオロオロさせ始めた。
なんだかいじめているようでかわいそうだが、本当のことだから仕方ない。
それでもやはり少しかわいそうなので、後で甘い物くらいごちそうしてやるか。
「ゴミ虫、あなたは黙ってなさい!一番バカなのは、あなたよ」
あれ?おかしい。
ここで思わぬ飛び火を食らった。
「とにかく、こんな怪しい女を、同じパーティに入れるわけにはいかないわ」
「そ、そんなっ」
「その男と一緒にとっとと消えなさい!」
「えっ、なんで俺まで?」
「ヴェ、ヴェーノさま、落ち着いてください。私はロアさまが仲間になってくださるのは嬉しいです!」
「リリスちゃん!?」
意外なところから賛成が出た。
さっきから黙っていたリリスだ。
もしかすると、ロアがかわいそうに思い、間を取り持とうとしてくれたのかもしれない。
リリスは、幼いのに、意外としっかりとしているところがある。
俺とヴェーノがいがみ合おうとした時にも、リリスが仲裁してくれようとしていた。
「私は、大勢の方が楽しくていいと思います。それに、レイジさまの言うことなら安心できます!」
「……リリスちゃんが言うなら仕方ないわね……」
リリスが承認したことで、ヴェーノも渋々であったが了承してくれた。
なんやかんやこれで問題解決というわけだ。
(それにしても、リリスの発言力って大きすぎないか?)
パーティ最強であるヴェーノを動かせる発言力を持っているわけだからな。
もう、リリスがリーダーになってもいいんじゃないかとさえ思えてきた。
「ありがとうっ。リリスさんっていい人なんですねっ」
感激したロアが、リリスの元へ、飛び込んでその手を握った。
そして、握ったリリスの手を激しく上下したため、リリスはアワアワしていた。
それを見た、ヴェーノはロアを止めにかかる。
「ちょっと、私のリリスちゃんに触らないでくれる?……でも、揺さぶられてるリリスちゃんも可愛いわね」
「とりあえず、丸く収まったってことでいいのか……」
俺は、先行きに不安を感じながらも、とりあえずロアがパーティに加われたことに安堵する。
それに、少し離れたところから見える三人の喧噪も、なんだか微笑ましく感じられた。
「というわけで、私は女神で、レイジさんは私が呼んできた異世界の勇者さまということですっ」
えっへんと威張ったようにロアが俺との関係を2人に告げた。
俺が異世界から来たことや、ロアが女神であることを話すつもりはなかったんだが、全てを納得したわけではなかったヴェーノに詰め寄られ、それでやむなく告白することにした。
「それじゃあ、あなたはリリスちゃんとたまたま出会ったってこと?」
「ああ、森の中で偶然な」
もちろん、俺とリリスの関係についてもヴェーノに話した。
それを聞いたヴェーノに何か言われるかと思ったが、ヴェーノは特に何も言わなかった。
俺やロアの正体にも別段と興味を持つことも無かった。
結局、彼女の脳内はリリスのことだけでいっぱいらしい。
リリスに危害がないと分かれば、それで満足のようだ。
とにかく、これで隠し事はリリスが魔王の娘であるということくらいで、何も気にせず冒険できるかと思ったが。
「すごいです!レイジ様は、ずっと勇者様だったのですね!」
ロアの話を全て聞いたリリスが、尊敬の眼差しでこっちを見てきた。
そうなるのか……。
俺は、リリスの嬉しそうな反応に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
だが。
(言えない……!勇者っていうのは、ただの役柄だったなんて……!こんな純粋無垢な目をしたリリスを前に言えるわけないだろ!!)
「ま、まぁな……」
俺は、澄ましたように肯定する。
これがリリスを傷つけることのない選択だと思ったからだ。
それでも、心にどこか引っかかりを感じた。
もう素直に打ち明けた方がいいのではないかという葛藤も生まれる。
「もし、それが嘘でリリスちゃんを騙していたなら、その時はあなたを殺すから。覚悟しなさい」
「分かってるよ……」
耳元で囁かれたヴェーノからの一言で俺の葛藤は吹き飛んだ。
全部墓場まで持っていこう!
「それとレイジ、ちょっと来なさい」
「な、なんだよ!ヴェーノ」
「何で、そんなに焦ってるわけ……?」
「い、いや……」
早速のヴェーノからの呼び出しで、俺は殺されるのかと思ってしまった。
早期滅殺を予見したのだ。
それくらい、彼女はおっかない存在だ。
「私はあなたのこと嫌いだけど、一つだけ忠告しておいてあげる。あの女、何か嘘をついているわよ」
「どういうことだよ。頭があれなのは、同意するが女神ってのは、多分本当だぞ」
「そういうことを言ってるわけじゃないわ。バカなの?あれは、絶対に本性を隠してる。世の中には、バカを装える人間もいるってことよ。単なるバカと違ってね」
「うるせぇ。俺は、そうは思わない」
「あっそう。別にそれでもいいけど、リリスちゃんに何かあったら、許さないからね」
あまりにもヴェーノが神妙な面持ちだったので、つい身構えてしまった。
俺には、ロアが何かを隠しているように思えなかった。
確かに、出会い方は最悪だったし、ポンコツっぷりに呆れはしたが、それでもいい仲間関係を築ける気がしていた。
だから、今は胸の片隅に留めるだけにしておこう。
「肝に銘じておくよ。それと、俺のこと『嫌いだけど』は余計だ」
ヴェーノとの話が終わったところで、ロアが声をかけてきた。
相変わらず、かまととぶっている様子だったが、不思議に思うとこは無かった。
「どうかされましたっ?」
「なんでもないよ。そうだ、2人の紹介がまだだったな」
俺がそう言ったことでリリスとヴェーノがこちらに向き直った。
「ロアさん、リリスです。よろしくお願いしますね!」
「ヴェーノよ。私は、あなたと仲良くするつもりないから、よろしく」
「それは、言わなくていいだろ!」
ヴェーノがストレートに思っていることを言った。
もう少し穏便にできないものかと思ったが、ロアは別段と気にしていないようだった。
それでも、2人の間の妙な空気感に気が思いやられる。
「リリスさん、ヴェーノさんよろしくお願いしますっ!」
それでも、ニコニコしていられるロアの心臓の強さに俺は、何となく弟子入りしたく思った。




