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元凶と勇者

「レイジさん!レイジさん!」

「……!」


 誰かが俺を呼ぶ声によって、俺の意識は暗闇の中から覚醒した。


「ここは!?」


 目を開けると、白い髪のお姉さんの顔がこちらを覗いていた。


「気が付いたようで良かったですっ! 」

「ええ?何!?」


 俺は目の前にお姉さんがいることに驚きを隠せなかった。

 夢でも見ているのだろうか。

 辺りを見渡してみると、そこは見覚えのないどこかの部屋のようだった。

 俺の思考はまだ安定していない。


(なんだ、やっぱり夢か)


 なら気にしなくていいか。

 俺の体はまだ眠りを欲している気がしたので、更なる眠りに落ちようと、俺は目を閉じ枕に顔をうずめた。


 むにゅ。


 あれ?

 それは、俺の知っている枕の感触ではなかった。

 それに妙に生温かくもあった。

 …………一体自分は、何の上で寝ているんだと気になりすくまに確かめる。

 そして、ようやく理解した。

 俺はどうやらお姉さんの膝枕で寝ていたんだということに。


「うっうわあ!!何やってんだ、アンタ!」


 俺は、驚いて起き上がると直ぐま、お姉さんから距離を取った。

 夢の中の世界だと思ったものは、本物の現実世界で目の前のお姉さんも本物だったのだ。

 これは、どういう展開なのだ。

 一体、何がどうなったら初対面の美人なお姉さんの膝枕の上で起床する事態に陥るんだ。

 だんだん思考も安定してきて、思い出したことは、このお姉さんは冒険者ギルドで俺を嵌めたということくらいだ。


「レイジさん?そんなに動いて大丈夫ですかっ……?」


 心配するように白い髪のお姉さんが言った。

 言われた俺も、気になって体を少し動かすが全く問題なく動いた。

 痛みなども何も感じなかった。


「体は、何ともない!それより、ここはどこなんだ?!……えっと、俺は確か——」

「ここは冒険者ギルドの一室ですっ。あの後、冒険者のみなさんがレイジさんを取り囲み、レイジさんはそれ無残な状態にされてしまっていましたっ。特に片腕を切り落とされた姿は本当に惨たらしいものでしたっ」

「ええ?!まじかよ!」 


 慌てて、自分の腕を確認するがちゃんと腕は付いていた。

 それより、冒険者ってどれだけ恐ろしい連中なんだ……。

 危うく俺は死んでたんじゃないだろうか。


「私はギルドの方にこの部屋をお借りして、傷だらけになったレイジさんをここで治療をしていたのですっ」

「そうか、お姉さんが治療を。わざわざありがとうございました。……って違う!!あんたが元凶だろ!!何、良いように言ってんの!?」

「あれは可愛い私のことをレイジさんが無視するからいけないんですっ!」

「逆ギレかよ……」


 自分で自分のこと可愛いって言うとかなかなかの性格だな。

 確かに見た目は、女神のような可愛さではあるが。


 それより結局、俺はまた新たなトラブルに巻き込まれてしまったようだ。

 それでもこうなってしまえば、もう前に進むしかない。


「はあ……。で、お姉さんは、何者なんですか?」

「だいぶ名乗り申し上げるのが遅くなってしまいましたねっ。私は、ロア=ノート・エンゼルン。レイジさんをこの世界にお連れした、女神ですよっ」


 ニコッと笑いながら、ロアは告げた。

 女神に相応しいだろと言わんばかりの輝かしい笑顔で。


「女神なんかい!!」

「ええっ?!私って、どっからどう見ても女神じゃないですかっ?」

「よく堂々とそんなことが言えますね……?」

「だって、この可愛さですよっ?」

「見た目はともかく!俺が言いたいのは、中身の話だよ!」


 俺は冒険者たちの前で嵌められたことで危うく死にそうになってたんだ。

 強い抗議の目でロアを見ると、ロアは、ひどいといった顔でこちらを見てきた。


(ずいぶんと、ふてぶてしい)


 俺は、思わずロアに嫌悪感を出してしまう。

 そして、自分が苦手なタイプの女子欄に「ふてぶてしい女」と書き加える。

 綺麗なバラには棘があるとはよく言ったものだ。


「それと、俺をこの世界にお連れしたって言いましたよね?」

「はいっ、その通りですよっ!」


 これは、俺の予想通りだったわけだが、これでこの女神が俺のことを知っていた謎が解けた。

 逆にあそこまで、俺のことを知っていて、俺を召喚した自分で無ければ何者だって話だけど。

 それにしても、これで女神とは……。

 なんか、俺の思っていた女神と違う。

 もっと、こう優しさや慈愛に満ち溢れた感じではないんだろうか。

 自分で自分のこと可愛いと言ったり、俺を嵌めようとした人が女神とはやはり思えない。

 それでも、俺は観念するように言う。


「女神だと信じますよ…」


(ここで信じると言っておかないと、話も進みそうにないからな)


「分かってくれるなら、いいんですよっ!」


 満足そうにロアが頷いた。

 その反応が少しだけうざく感じられた。

 だが、ここは我慢だ。


「にしても、三日前から俺が来たことを知っていたなら、モルドまで迎えに来てくれたら良かったじゃないですか!」


 ロアは俺がこの世界に来た日を知っていた。

 それに、この町にいることも知っていたなら、最初から俺の居場所だって分かっていたはずだ。

 始めから、色々と事情を説明してくれていたら、こんなことにならなくても済んだはずだ。

 そんな俺に対して、ロアは言いづらそうに真相を告げた。


「実はですねっ……。どこに転移するかまでは、私たちの方では決められないんですっ。転移した方々は、この世界のどこかにランダムで出現するのですっ。まあ、中には稀に魔界に転移されちゃう方もいるみたいなんですけどねっ」

「何それ、はた迷惑すぎだろ!!」


 それじゃあ、俺も魔界に転移していたかもしれないということじゃないか。

 本当、恐ろしすぎるな。

 女神とは一体なんなんだろう……。

 俺は、見た目だけ申し訳なさそうにしているロアを恨みがましく見る。


「じゃあ、よく俺がここにいるって分かったな」

「急にタメ口?!……その、転移者の方は、大抵この町に訪れることになっているんですっ。だから、ここで待っていれば、すぐに会えると思ってましたっ」

「なるほどな。じゃあ、今までの話から考えて、この町に他の転移者もいるってことか?」

「はいっ!いますよっ」


 ロアは、あっさり答えた。

 そういえば、昨日ギルド支部で出会った男が新生のルーキーが現れているって話をしていた。

 そのルーキーが転移者なのは、間違いないかもしれないな。

 そして、その中には、俺と同じ世界から来た人間もいるかもしれない。

 そうとなれば、すぐにでもそいつらに会いに行きたいところだな。

 今は、まだこの自称女神様に色々と聞かなければならないが。


「それで、俺たち異世界人をこの世界に呼んできた理由は、魔王の討伐が目的とかか?」

「いえ、そうではありませんっ。我らが主、神、アルメアは、いかなる争いも望んでおりませんっ」

「神、アルメア??」

「はいっ。私共の主である神、アルメアは世界の永久的平和を望んでおられるのですっ。しかし今、この世界には混沌が訪れようとしていますっ」

「なんだか、よくある設定だな。その混沌から世界を救う役目が俺たち勇者ってことだな?」


 俺が昔、読んでいたライトノベルにもそんな設定のものがあった気がする。

 自分の世界がヤバイからって、他の世界の人間に縋りつくというのはどうかと思っていたが、まさか自分がその縋られる人間になるとは思ってもみなかった。

 まあ、何の力も持ってないんですけどね。


「はいっ。確かにレイジさんの言うことに相違はありませんっ。しかし、なぜ世界に混沌が起きようとしているのか、その理由については分かりますかっ?」

「そんなこと俺に分かるわけないだろ」

「いえ、あなたはすでにその元凶に出会っていますよっ」

「…………ま、まさか、リリスか……?」

「はい、その通りですっ」


 なるほど、まるで探していたクイズの答えが見つかったような思いがした。

 なぜ、転移者の中でも恐らく何の能力も持たない俺に執拗に接触しようとしていたのか。

 本当に近づきたかったのは、俺と一緒にいたリリスだったのだ。


「アルメアは、サタンの娘が魔界を発つことで、世界に混沌が訪れることを予期しましたっ。やがて、サタンも動き出すからですっ。そうなると、人類の存亡をかけた争いになる可能性までありえるのですっ」

「リリス、一人のために人類が滅亡?」


 スケールが大きすぎて話についていけない。

 確かに、リリスからも似たような話を聞いていたが。

 まさか、人類の滅亡までの事態になる可能性があるとは。


「そうならないためにも、一刻も早くサタンの娘を魔界へと還えさなくてなりませんっ。その役目を果たすことこそ、神、アルメアが転移者に望むものであり、レイジさんに果たしてもらいたいことなんですっ!」

「なんで、俺なんだ?まさか俺が選ばれた者だったとか?」


 俺は無能力のまま、異世界転移を果たした。

 それはある意味、俺が選ばれた理由だったのか?

 だが、ロアからの答えは俺の期待通りのものではなかった。


「いえ、全くのたまたまですよっ。むしろ、レイジさんは、貧乏くじを引かされたと言っても過言ではないですっ……」

「今すぐ、元の世界に還してくれ!!」


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