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勇者とトラブルは終わらない

 俺たちは、冒険者ギルドへ向かっていた。


 ヴェーノが加わったことで、俺たちのパーティは3人になった。

 そのため、冒険者ギルドへ行って、新たに申請しなければならないのだ。

 リリスのおねだりもあって、成り行きでヴェーノが仲間に加わることになったが、俺は上手くやれる気はしなかった。


(気が強い女子って昔から苦手だしな……)


 それに、戦ってもヴェーノには勝てない。

 力関係で考えても向こうが圧倒的に上だ。

 子分的な扱いを強いられる予感しかしないぞ。

 それにしても、ヴェーノって何レベルなんだろう。

 高レベルなのは間違いないだろう。

 魔王たちの戦いだって、無双してくれそうな戦力ではある。


 まさか、自分のお気に入りのリリスが魔王の娘だなんて気づいてないだろうけど。

 それでも、リリスとだいぶ仲良くなったようで。

 今ヴェーノは、リリスと並んで二人で俺の前方を歩いている。


「私ね、実はずっと冒険者をやってみたかったの」

「そうだったんですか?」


 リリスとヴェーノの談笑が聞こえてきた。

 別に盗み聞くつもりは無かったんだが、それでも少し興味はあった。

 ヴェーノは、過去を懐かしむように話し始めた。


「私ね、家が高貴な家柄だったから、朝から勉強や稽古、社交界なんかでずっと縛られた毎日だったの。だからね、自由な冒険することに憧れていたの。冒険ってワクワクするでしょ?リリスちゃんは、なんであんな男と冒険者に?」

「リリィはパ……じゃなくて魔王を倒すためです!」

「へえ。リリスちゃんは、本当に偉いのね」


 ヴェーノは、そう言ってリリスの頭を撫でていた。

 その前から、何度も頭を撫でようとしていて、様子をうかがっているようだったのでやっと撫でられたといった感じだが。

 それにしても、口調が俺の時とは違いすぎる。

 別人なんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

 ちなみにリリスには自分が魔王の娘であることは、ヴェーノに伏せていくように伝えてある。

 今うっかり漏らしそうになっていたが。

 生憎、ヴェーノがリリスにぞっこんななため、何も疑っていないのが幸いだった。


(あれはもう、そういう趣味なのかもしれないな)


 リリスとヴェーノを連れて、冒険者ギルドまでやってきた。

 ヴェーノは、何度か来たことがあるのか別段と珍しがっている様子が無かった。

 早速、ギルドに入ろうとすると、


「お待ちしておりました。レイジさん!」


 ギルドの入り口付近にたたずんでいた、女性にいきなり声をかけられた。


「……?」


 その女性は、白い髪がとても綺麗な美女だった。

 腰まで流れる綺麗な髪は手入れが行き届いていることがよく分かるほど光り輝いて見えた。

 あまりにもの神々しい美しさに、一瞬女神様かと思ってしまった。

 だが、俺はこんな美女に決して見覚えなどない。


「待っていた?俺を?」


 一体何のことやらさっぱり分からなかった。

 正直、声をかけられた嬉しさよりも恐怖の方が強かった。

 なぜなら、新たなトラブルの予感しかないからだ。

 昨日、この町にやってきたばかりの俺のことを知っている人間なんて限られている。

 真っ先に思い浮かんだのは、ギルドの関係者だったが、明らかに職員の恰好ではない。

 また、モルド村の人たちのような質素な雰囲気も感じられない。

 明らかに貴族などの権威のある者の装いをしている。

 そう考えると、このお姉さんの佇まいには品位があるように感じられた。


「いや、人違いです!!」


 俺は、きっぱり断る。

 ここは、関わらないのが吉だ。

 こんな見え見えのハニートラップに俺は引っかかったりしない。


「待ってください!私、3日前からも待っていたんですよっ!」

「3日前??」

「それ、完全にストーカーじゃない……。あなたにそんな烈々な子がいたなんてね」


 俺とヴェーノはそれぞれ驚く。

 だが、これでますます不気味だ。

 3日前といえば、俺がこの世界にやってきた日だ。

 そのことを知っているとなれば、もしかすれば俺をこの世界に送り込んだ張本人とかか?


「ストーカー呼ばわりはやめてくださいっ!」


 ストーカーお姉さんは、ちょっと泣きそうな顔をしていた。

 本当にこの人が俺を異世界に送り込んだ人物なのか?

 その可能性は完全には否定できないが、それでも関わらない方が良さそうな気がした。


「3日前は、俺はここにはいませんでした。人違いです」


 俺は、逃げるようにギルドに入ろうとした。

 すると、お姉さんは、


「そんな、ひどいですよっ。西見玲人さん」

「え?今、俺の名前……」

「はいっ!私は、あなたのことをちゃんと知っていますよっ?」


(今、確実に俺の本名を……!)


 お姉さんは、俺がこの世界に来てから一度も名乗っていない俺の本名を言い当てた。

 偶然で当たるものではない。

 それが分かるということは、この美人なお姉さんは確実に俺を異世界へと召喚した人物なのだろう。

 それでも、やっぱりここは関わりたくない。

 トラブルの臭いしかしないのだ。

 ただでさえ、こちらにはトラブルメーカーのリリスがいるんだ。

 なので、


「いえ、人違いです。じゃあ!」

「ちょっとっぉぉ!!」


 俺は、さっさとギルドへと入っていった。

 さすがに中にまでお姉さんが追ってくることは無かった。

 なので、今新しいトラブルが起きなかったことにほっとする。

 だだ、さきのやり取りを見ていた二人は納得いかなかったようで、


「ねえ、本当にあの人のこと知らないの?」

「リリィもお知り合いの方かと思いましたよ?」


 2人がつぶさに聞いてきた。

 俺が逆の立場でも何かあるのだと思うだろう。

 それでも、この二人に俺が異世界から来たことから説明するのもな……。


「本当に知らないんだ。お姉さんは俺のことを知っているみたいだったけど」

「じゃあ、本当にストーカーさんなんですか?!」

「このゴミ虫に?何の目的で?」

「リリス、ストーカーにまでさん付けしなくていいぞ。ヴェーノ、ゴミ虫は余計だ。とりあえず、今は申請をしなきゃな」


 とっと申請を終わらせて、クエストでも受けてみよう。

 ヴェーノがいれば、多少のモンスターだって問題ない。

 まだ外には先ほどのお姉さんがいるかもしれないが、知らぬ顔を貫き通せば向こうだって諦めるだろう。

 俺が、カウンターに向かっていると——


「ひどいですっ!レイジさん!!」


 ギルドの扉を押し開け、さきほどのお姉さんが入ってきた。

 お姉さんの目には、うっすら涙まで浮かんでおり、今にも溢れだしそうなくらいだった。

 その気迫には、周りの冒険者たちも何事かと注視している。


(やっぱり、トラブルの目じゃないか……)


 俺は、こめかみに手をやる。

 まさか、こんな強行手段のような形に出るとは思ってもみなかった。

 それになぜ、泣きそうな顔なのかも不明だ。


「私にあんなことやこんなことをしたじゃないですかっ!そ、それが、用が済んだら、もう私のことなんていらないんですかっ!?」


 お姉さんは、先ほどの品位は何処やら、その場で泣き崩れた。

 俺は思考が停止した。

 一体お姉さんが何を言っているのか全く理解できなかったのだ。

 理解できたのは、彼女が俺を嵌めようとしているということ。

 そして、その思惑通りになってしまっているということ。


「やっぱり、ゴミ虫だったわね。今すぐ死んでくれる?」

「ま、待て!俺は何もしていないんだって!」

「レイジ様、最低です……」

「ちょっ、リリスまで……。やめて、そのゴミを見るような目だけは!本当に知らないんだ」


 ヴェーノとリリスから厳しい視線を向けられることになった。

 そして、俺への敵意ある視線は2人だけでなかった。

 ギルドのお姉さんたちは、俺を蔑むようにカウンター越しから見ていて、周囲の冒険者たちは、俺への殺意を彷彿とさせていた。


(お、終わった……)


 俺は、美女とは人を社会的にも現実的にも男を抹殺することができる凶器であることを認識した。

 まさか、あんな猿芝居で俺の人生が終わるなんて。

 俺がお姉さんに何をしたっていうんだ!

 いや、無視はしたけどさ……。

 お姉さんは、まだ泣き崩れていた。


 気づけば、俺は周囲を冒険者たちにより取り囲まれていた。

 冒険者たちは屈強な体つきで背も高いものが多く、まるで大きな壁のようだ。

 俺は、そんな壁に囲われたことで周りが何も見えなくなっていった。

 そして、徐々に意識が薄れていく。

 そんな薄れゆく意識の中で、


(そうだ。生まれ変わったら、美少女になろう)


 美形の高身長に生まれて、モデルになるんだ。

 そしたら、ファッション誌に載ったり、ランウェイを歩いてみたりしたい。

 それで、SNSでも多くの人からの注目を受けたい。

 バラエティ番組なんかにも出て、お茶の間に笑いも届けるんだ。

 最終的には、IT社長と結婚して毎日贅沢な暮らしを送るんだ。

 俺は、生まれ変わった自分の新しい人生に思いを馳せていた。


 そして、ついに俺の意識は、暗闇へと消え去った。

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