二人目のアイドル
「で、日向。二人目なんやがな」
「はい」
「結ちゃんはどうや」
俺は口を開きかけて、ピタッと止まった。
「結、ですか」
横から、殺気と熱気が混ざった凄まじい視線を感じた。
恐る恐る隣を見ると、フードの隙間から、環の目がじっと、文字通り「獲物を狙う蛇」のようにこちらを睨みつけていた。
「……へー」
「なんだよ、その低い声」
「ボク以外にも、可愛い女の子の目星、ちゃっかりつけてるんだ?」
「いや、違うから」
「しかも名前で呼び捨てだし」
「俺の妹なんだよ!!」
「へーえ?」
めちゃくちゃ冷ややかな目だった。さっきまで茹でダコだったとは思えない氷点下の視線に背筋が凍る。
俺は慌てて環から視線を外し、机のほうに向き直った。
結がここみっしゅの二人目。それは考えなかったわけじゃない。
身内の贔屓目を抜きにしても、あいつの外見は整っている。一時期ダンス教室に通っていたこともあるし、人前で喋ることも苦にしない。頭も回るほうだと思う。条件だけ並べればこの街でいちばん近い場所にいると思う。
ただ。
二年間、あいつは学校に行けなかった過去がある。その理由は外見が目立ったせいだ。あいつは悪いことは何ひとつしていない。ただ、あの男に目をつけられて、それだけで高校生活の二年間を失ったんだ。三年生になった今、復帰できているがきっとその傷は消えていない。
やっと友達もでき、人並みの高校生活を手に入れているんだ。
それを、また表に引っぱり出すのか。
人気投票で順位のつく場所に。SNS等、名前で検索される場所に。誹謗中傷が当たり前の場所に。
……この話に、あいつを巻き込むことはできない。
「あいつは、まあ、今のままが幸せだと思います」
言ってから、自分の声が思ったより硬かったことに気づいた。
「……」
オヤジは何も言わなかった。
隣で、環がこちらを見ていた。フードの下から、じっと、何かを測るように。
「そか」
オヤジが、書類の束を手元に引き寄せた。
「ま。結ちゃんじゃないにせよ、二人目のメンバー探すのは手伝うで。頼むな、日向」
「はい、頑張ります」
環はフードを深くかぶったまま、何か考え込んでいた。
ここみっしゅの二人目、探さないといけないんだ。心美市が生き残るために。




