どこかで見たことあるような
妹の結さん+説明回ラストです。
よろしくお願いします。
「で、アイドルなんて本気ですか? 兄さん」
箸が止まった。
『浦沢結』17歳。可愛い俺の妹。片側で結んだ髪が特徴的だ。小さい頃から変わらない、大きな目と怒ると尖る口元。
「……本気だよ」
「無謀だと思いますけど」
結が味噌汁の椀を置いた。制服の上からエプロン。
俺は起案書のことを思い出す。市長室で、あの文書を胸に抱えて、はいやります、と言った自分のことも。
あの瞬間は、確かに俺もやりたいという気持ちがあった。問題は、その勢いというものが、家に帰る頃には完全に消えるという点だ。
「メンバー、何人いるんですか?」
「……ゼロ」
「予算はとってもらえてるんですか?」
「ゼロ」
「……アイドル立ち上げた経験ある人はいるんですか?」
「頼むから聞かないでくれ……」
結は、それ以上詰めてこなかった。代わりに、俺の茶碗に勝手におかわりをよそって、押しつけてきた。
「食べてください。体は資本です」
「ありがとな」
「いいえ、困ったら相談してくださいね。私は兄さんの味方ですから」
そう言ってピタッとくっついてくる。
「結さん?」
「何ですか?兄さん」
「ちょ、近くない?」
「普通です。遠いくらいです」
結がさらにつめようとしてくる。いや、これ以上近くなるにはお互い肩外さないと無理だぞ?
「あの、肩が」
「もしかして兄さん……照れてるんですか?」
「そんなわけないだろ!」
テレビのリモコンをつかみ、電源を入れる。
結は「そうですか」と残念そうにしている。
……なんて言えばよかったんだよ。
テレビはどうでもいいバラエティを流していた。
『さーて、続いてのコーナーはこちら! "不祥事を起こしたあの人は今!?"』
「うわ」
「悪趣味ですね」
言いながら俺も結も、なんとなく画面を見ていた。
『二年前、突如としてアイドル界から姿を消したこの少女を覚えていますか?』
映ったのは、ステージの写真だった。
三千人規模のホール。オレンジの光の海。その中心に小柄な女の子が立っている。
息を呑んだ。
――すげえ。
五秒ほどその子のダンスが流れる。素人目でもわかる。他のメンバーと同じ振りをしているのにその子だけキレ?が違う。テレビを通してこっちを射抜いてくる大きな目。思わず見惚れる。
「ボクは、ファンの皆さんと一緒にいられることが一番嬉しいです!これからも応援よろしくお願いします!」
『デビュー当時からグロリアスの中心として活躍。ダンス、ビジュアル、いずれも当時のアイドル界でトップクラスと評され――』
ーーボク?
番組を聞き流しながら、そこだけ引っかかる。
「グロリアスって、今もずっとトップグループでしたっけ?」
「そうだ」
『しかし、彼女は十五歳のとき、ある報道によって、その座を追われることになります』
画面が切り替わった。
週刊誌の見開き。粗い写真。夜。路地。俯いた横顔。
でかでかと、赤い文字。
――**未成年喫煙**。
「……かわいそう。放っておいてあげたらいいのに」
結が、ぼそりと言った。
『彼女はそのまま、表舞台から消えました』
次に映ったのは、記者に囲まれた写真だった。
フラッシュ。マイク。
その真ん中で、少女が顔を伏せている。
涙を流し、両手で顔を隠していた。
『九条環、当時十五歳。現在は――』
「……兄さん」
「ん」
「こういう番組作る人、何考えてるんでしょう」
結が冷たく言う。
「過去をほじくり返すなんて、悪趣味です。もう二年も前のことじゃないですか」
「……そうだな」
「そうだなって」
「でも、人間なんてそんなもんだろ」
自分でも、思ったより冷たい声が出た。
「上手くいってる奴はいつも妬まれる。転んだらその分だけ気持ちよく踏まれる。で、それがエンタメになる。」
「……」
「別にテレビが悪いんじゃない。見てる側がそれを面白がるから番組になるんだ」
言いながら嫌な気持ちになる。
『さて、続いての"あの人は今"は――こちら! 天才子役として一世を風靡した、一ノ瀬さくらちゃん!』
結がリモコンを掴んだ。
画面が、いきなり天気予報に切り替わった。明日の心美市は晴れ。降水確率一〇パーセント。
「……明日は晴れみたいだな」
「……そうみたいですね。洗濯物、朝干していきます」
結は立ち上がって、食器を流しに運んでいった。
俺は天気予報を眺めながら、さっきの写真のことを考えていた。
両手で顔を隠した、小さい子。
それに、ボク。
――まさか、な。
次回、日向と環が出会います!




