記者会見
記事が出る前日、俺は三人を会議室に集めた。
「話がある」
俺は立ったまま、三人の顔を順に見た。
環。結。ミア。
どこから話すべきか、この二週間ずっと考えてきたのに、いざとなると言葉が出てこなかった。
「兄さん?」
俺は覚悟を決めて、タブレットを机の上に置いた。
「明日、週刊誌の記事が出る」
画面をスライドさせる。
三人分の見出しが、順番に表示されていく。
喫煙。暴行。裏切り。
誰も、すぐには反応しなかった。
環が、画面を覗き込んだ。しばらく無言で文字を追っている。
「……まあ」
やがて、口を開く。
「そうなることは、分かってたし」
声は平坦だった。だが、その平坦さが逆に辛い。
「結」
「はい」
結はタブレットを見ないまま、まっすぐ俺を見ている。
「私たち、本番のステージに立てるんでしょうか」
その質問に、俺はすぐには答えられない。
「立てる」
少し遅れて、言う。
「それは、俺たちに任せてほしい」
「ミア、ちょっと怖い」
ミアが小さな声で言う。
膝の上で両手を握って、耳が力なく伏せられている。
俺はミアの正面に膝をついた。
「怖くて当然だ。俺だって怖い」
「日向は」
ミアがこちらを見る。
「ミアたちのこと、捨てないよね?」
「当たり前だ」
俺は、はっきり言った。
「捨てるくらいなら、最初からスカウトしてない」
ミアの目に、涙が浮かんだ。拭こうともせず、俺を見ている。
「明日、記者会見をやる。オヤジとカシラが矢面に立ってくれる」
「私たちは」
「お前らは、いつも通りに過ごしてくれ」
俺は三人を見渡した。
「これまで通り、練習だけしてくれ。フェスに向けて、やることは変わらない」
環が、椅子から立ち上がった。
「日向」
「なんだ」
「明日、行っていい? 会見」
「見なくていい」
「見たいの」
環の声には、迷いがない。
「あの二人が、ボクたちのために何かするなら、それを見ないなんて、ありえない」
結も頷く。
「私も、行きます」
「わたしも」
ミアも、いつの間にか涙を拭って真剣な顔になっている。
俺は三人の顔を見る。
いるのがバレたら厄介なことになるが、こいつらの思いを考えると断れなかった。
「……分かった」
※
翌日。
市役所の会見室には、記者が三十人近く詰めかけていた。
俺たちは、別室のテレビで見ることになった。
壇上には、オヤジとカシラの二人だけ。
オヤジがマイクの前で、深く一礼する。
「本日は、お集まりいただき感謝します」
カシラが、隣で頭を下げる。
「まず、報道された内容について、事実関係を確認いたします」
オヤジが、資料を読み上げていく。
淡々とした説明だった。
だが、記者たちの手は緩まなかった。
「未成年に喫煙歴があるのは事実ですよね」
「行政が主導する企画として、問題があるのでは」
「市民の税金を使ったプロジェクトに、傷のあるメンバーを起用することについて」
質問が、矢のように飛んでくる。
オヤジは、一つ一つに答えた。声を荒げることもなく、逃げることもなく。
「傷、とおっしゃいましたが」
ある記者の質問に、オヤジが顔を上げる。
「あの子らは、誰も悪いことはしとりません」
「本当にあったか証拠もないのに、大人が面白おかしく取り扱った。それだけです」
「しかし、市民の理解を得られるとお考えですか」
オヤジがカメラの方を見る。
「見てくれた人が決めることです」
「では、来週のフェスは予定通り開催されると」
「開催します」
カシラが、初めて口を開く。
「あの三人は、この二週間、誰よりも練習してきました」
「明日、フェスの本番で。あの子たちを見てください。そして判断してください」
オヤジも頷く。
「わしらは、これ以上何も言いません」
会場が、一瞬静まる。
「言葉で説明することに、意味はないと思っとります」
オヤジが、深く頭を下げる。
「明日、あの子らを見てください。それだけです」
カシラも並んで頭を下げる。
フラッシュが、何度も焚かれる。
俺たちはただ、壇上の二人が頭を下げ続ける姿を胸に刻みつけた。




