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スキャンダル

 サマーフェスまで、あと二週間。


 新曲は仕上がっていた。振り付けも、環がほぼ完成させている。

 このままいけば、きっといいステージになる。


 あとは、環の過去をどうするかという問題だけだ。


  ※


 その日の夕方、市長室に呼び出された。

 オヤジの表情がいつもと違う。

 余裕がなく。眉間に深い皺が寄っていた。


「日向」

「はい」

「やられたわ」


 オヤジが、机の上にタブレットを置いた。


 画面には、週刊誌の編集部から届いたらしいメールが表示されていた。


 ――取材のお願い


「心美市の新アイドル『ここみっしゅ』、メンバーの過去についてのタレコミ」


 俺は目を疑った。


 ――九条環(17)過去に喫煙で芸能界追放

 ――浦沢結(17)交際相手への暴行歴

 ――白河ミア(16)所属事務所を突如裏切り、契約を無視して脱退


「なんですか、これ」

「見たまんまや」


 オヤジの声が低い。


「記事が出るんは、フェスの二日前やと」

「二日前……」

「情報の出所は」


 オヤジは答えなかった。

 そうだ。少し考えればわかることだ。

 この街とグロリアスを繋いでいる人間は、一人しかいない。


「……桃生」

「証拠はないけどな」


 オヤジが机を軽く叩いた。


「証拠はないが、こんなタイミングで、こんな三人分の情報を一度に持ってこれる人間が、他におるか」


 いないだろう。


「日向」


 オヤジが顔を上げた。


「記者会見は、わしとカシラでやる」

「オヤジたちがですか?」

「そうや。記事が二日前に出て、その次の日に会見や」

「大丈夫ですか?」

「任せとき。そのための市長やで」


 オヤジは一枚の紙を俺の前に出した。会見場の候補。市の広報担当への連絡事項。想定される質問と対応方針。すでに叩き台が組まれている。


「香澄にも、もう伝えとる。段取りは組んであるわ」

「日向」

「はい」

「お前は、会見には出んでええ」

「でも、」

「お前はええ。あの子たちのそばにいてやれ」


 俺は、少し黙る。


「任せてください」


 この人の期待に応えたい。


「一人で抱え込むなよ。なんかあったら、いつでも言え」

「……ありがとうございます」


 俺は少し息を吸って、続けた。


「オヤジ」

「なんや」

「一つ、頼みがあります」

「言うてみ」

「週刊誌が出る前日まで、あの子たちには何も言わないでください」


 オヤジの眉が、わずかに動いた。


「今、あの子たち、楽しそうに練習してるんです」


 あの子たちには、精一杯練習をしてほしい。


「知ったら、練習どころじゃなくなります。フェス前の一番大事な時期に、余計な心配をさせたくないんです」


 オヤジは、しばらく黙っている。


「分かった」


 オヤジが頷く。


「日向がそう言うんなら、それでいく」


 俺は、タブレットの画面をもう一度見た。

 九条環。浦沢結。白河ミア。

 三人の名前と、三つの傷がそこに並んでいる。


 ――桃生。


 俺は画面を閉じた。

 やることは、決まっている。

 これから二週間、あの三人が笑って練習できるように。

 そして、フェスの日には俺があいつらを守るんだ。

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