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偽神社、あらわる(三) 偽物の真ん前に、本物をもう一つ。門前町総出、一日で

次の日は、朝から大さわぎだった。


「さあやるよ! うちのお社さまを、あんなまがい物といっしょにされて、たまるかってんだ!」


 ガンツさんの号令で、門前町はまるごと工事の現場になった。大工衆はもちろん宿のおかみさんも茶屋のマーサさんも、荷運びの人たちまで。手のあいた者はみんな、街道へ繰り出した。


 建てるのはちいさなけれど本物の分社。場所は、あの偽物の真ん前。街道をはさんで、にらみあうかたちだ。


 鳥居にはもちろん扉なんてつけない。くぐるのに、お金なんて取らない。手水にはちゃんと湧き水を引いて、こんこんと澄んだ水をたたえる。御朱印もお守りの授与所も、ぜんぶ本物とおなじ。


 私は総本山で朝いちばんに祈りを込めた。ひとつ、ひとつ心をこめて。この分社を訪れる、まだ見ぬだれかのために。できあがったお守りは、ロッコさんが大きな布の袋に詰めて、街道へと運んでくれる。


 それにしても——と、途中で私はふと首をかしげた。


 どこから、こんなにりっぱな材木が届いたのだろう。それに見なれない腕のいい大工衆が、何人かまじっている。ずいぶんと、手ぎわがいい。


「ああ、あの人らかい」棟梁のガンツさんが、こともなげに言った。「なんでもたまたま街道を通りかかった、旅の大工だそうでな。腕を見こんで、手伝ってもらってる。いや、助かるよ」


 旅の大工。——ふうん、と私は思った。それにしてはみんな姿勢がよくてどこか。


 ……まあ、いい。深く考えるとなんだか心臓が妙な音を立てそうなので、私はここでも深く考えないことにした。


 そうして。日がかたむくころには、街道の分かれ道にちいさな、けれどまぎれもない、本物の鈴の社が一日にして建ってしまった。


 むかいの偽物の社では、番頭のヴェッツがまっ青な顔でうろうろしていた。まさか一日で目の前にそっくり本物が建つとは、思ってもみなかったのだろう。手にした帳面を、ばたばたとあおいでいる。


「ざまあ、みろ」


 だれかがそう言って、門前町の一同が、どっと笑った。


     *  *  *


 あくる朝。街道の分かれ道には、二つの社が向かいあって並んでいた。


 かたや扉つきの鳥居に通行料。金魚鉢の手水。引けば全部大吉の、うさんくさいおみくじ。牙をむいた、熊の剥製。そして中身の入っていない布切れを、銀貨一枚で売るお土産屋。


 かたや——だれでも、ただでくぐれる扉のない鳥居。こんこんと湧く、澄んだ手水。お参りをして手を合わせた人にだけ、そっとお渡しする銅貨五枚の祈りのこもったお守り。


 どちらが、本物か。旅の人にも、ひと目で分かった。


「なんだこっちがほんとの鈴の社じゃないか」「あっちは、鳥居に扉がついてるぞ。お参りするのに金を取るなんて、聞いたことがない」


 巡礼たちはみんな、吸いよせられるように、本物の分社の前に列を作った。手を清め、手を合わせちゃんと自分で祈って、それからお守りを受けとっていく。


 ——お守りは、お参りをした人にだけ。


 それが、うちのいちばん最初からの決まりだった。お参りもせずただお金を出せば買える"お守り"なんて、うちにはない。


 むかいの偽物の社は、みるみる閑古鳥が鳴きはじめた。通行料を取る扉を、くぐる者はもうだれもいない。番頭のヴェッツは閑散とした社の前で、腕を組んで仁王立ちしていたけれど、そのうちそれにも飽きたらしい。


 本物と偽物を、こうして並べて置いてみる。ただ、それだけで。どちらがほんものか。——それはもうだれの目にもあきらかだった。


     *  *  *


 その夜。私は社務所であの偵察のときに買った、偽物のお守りをそっと取り出した。


 銀貨一枚もした代物だ。中になにが入っているのか、たしかめておこうと思った。


 結び目をほどいて、布を開いて、中から出てきたのは——ただの、白い紙一枚きりだった。


 なにも書かれていない。なんの祈りも、こもっていない。ほんとうにただの白紙。


 私はしばらくその白紙を見つめていた。


 (……白紙。教会の倉庫で私が来る日も来る日も書かされた、あの山ほどの奉納の札。あれも祈りが抜けてしまったら……いつか、こんなふうになるのかしら)


 ふと、そんなことが頭をよぎって。私は、小さく首を振った。——いけない、いけない。なにをばかなことを。あの札は、倉庫の飾りだ。祈りが抜けるもなにも、ないだろうに。


 私はその白紙をそっとたたんで脇へ置いた。かわりに明日分社へ届けるうちのお守りを、手に取ってみる。おなじ小さな布のお守り。けれどこちらにはちゃんと私の祈りが、あたたかくこもっている。


 白紙と、祈り。見た目はそっくりでも。——中身は、まるでちがうのだ。


     *  *  *


 分社は日を追うごとににぎわった。


 街道を行く旅の人は、みんなまずあの分社で手を合わせ、それから山の総本山までお参りにのぼってくる。お守りは毎朝私が祈りを込め、ロッコさんが届けてくれる。門前町の人たちは自分たちで建てたあの小さな社が、自慢で自慢でたまらないらしい。


「見ろよ、あの分社。おれたちが、一日で建てたんだぜ」


 だれもがまるで自分の手柄のように、鼻を高くしている。


 私は街道に朝の光を跳ね返して立つ、あの真新しい鳥居を思いうかべて、そっと思った。


 ——私の、あの小さなお社が。またひとつぶん大きくなった。


 いつか、ジークさまが言ってくれた。この社をもっと大きくするぞ、と。その言葉がこんな形で、少しずつほんとうになっていくなんて。……なんだかくすぐったくて、私はひとりで頬をゆるめた。


 けれど。


 その、同じ日。遠い、遠い王都では。


 閑古鳥の鳴く偽神社の報せを受けた教会が、まるであべこべの手を、切ろうとしていた。


 ——曰く。「辺境の"鈴の社"こそ、聖女を騙るまがい物である」。


 本物と、偽物が。さかさまに呼ばれはじめる。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

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 ——お代は、銅貨五枚。……ではなく、ブックマークをひとつ、いただけたらうれしいです。

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