↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
63/114

門前町、できました(五) 「あの二人、まだなのかい」/「祭りは、やらないのかい?」

そんな二人のうしろ姿を、茶屋の二号店の前から、じいっと見送っている人たちがおりました。マーサさんと、その娘のリナさんです。


 マーサさんは、店先の縁台で、お盆を小わきにかかえたまま、遠ざかっていくふたつの影を、目を細めてながめておりました。それから、ふう、とため息まじりに、となりのリナさんにたずねます。


「……ねえ、リナ。あの二人。まだ、なのかい」


「まだ、みたいですねえ」


 リナさんも、あきれたような、それでいて、どこかほほえましそうな顔で、こっくりとうなずきました。


「当主さまのほうは、あんなにわかりやすいのに。山ほど貢いで、三日にあげず通いつめて。——それなのに、聖女さまときたら、まあ、これっぽっちも気づいてらっしゃらないんですから」


「まったくねえ。うちの店のテオとリナだって」と、マーサさんはちらりと娘の顔を見て、にやりと笑いました。「あんなにじれったかったのが、縁結びのお守りひとつで、あっさりくっついたじゃないか。——お社さまにも、いっそ、自分で自分のぶんの縁結びを書いてもらったら、どうだろうねえ」


「お母さんったら」


 リナさんは、ぽっと頬を赤らめて、母親の背中を、ぺしり、とはたきました。マーサさんは、やれやれ、と大きく肩をすくめます。


「若いってのは、もったいないねえ。——あたしがもう二十若けりゃあ、こんなじれったいこと、しちゃいないよ。とっくに当主さまの首根っこ、つかまえてるさ」


 二人は顔を見あわせて、くすくす、と笑いあいました。夕暮れの参道を、なにも気づかずに、のんびり歩いていく聖女と辺境伯を。門前町の人たちは、今日もあたたかく、そして、たいそう気をもみながら、見守っているのでした。


     *  *  *


 その晩のことです。一日の商いを終えた門前町の人たちが、茶屋の縁台に三々五々あつまって、夕涼みをしておりました。夏の宵の、なまあたたかい風が、参道の提灯を、ゆらゆら、ゆらゆらと揺らしています。私もその輪のはしっこにまぜてもらって、冷やした蜜湯を、ちびちびと飲んでおりました。


 あちこちで、今日の商いの話やら、明日の天気の話やら、生まれてくる赤ちゃんの話やら、とりとめのないおしゃべりが、のんびりとつづきます。だれかのあくびがうつって、だれかの笑い声がはじけて。ずいぶんと平和で、しあわせな夜でした。何ひとつなかった呪いの山に、いまはこうして人の輪ができて、笑い声が絶えない。——ほんとうに、うそみたいだと、私はしみじみ思っておりました。


 と。となりで、ぱたぱたと団扇を使っていたマーサさんが、ふと、その手を止めました。そうして、なにかいいことでも思いついたような顔で、私のほうを見て、こう言ったのです。


「そういえば、お社さま」


「はい?」


「——夏越しのお祭りは、やらないのかい?」

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

 続きが気になりましたら、ブックマークと★での応援をいただけますと、更新の励みになります。

 ——お代は、銅貨五枚。……ではなく、ブックマークをひとつ、いただけたらうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。