恋は、最も危険な干渉
神谷 恒一は、通知画面を見たまま動けなかった。
《恋愛干渉モード開始》
意味が分かるようで、分からない。
ただ一つだけ確かなのは――“自分と奈緒の関係が観測されている”ということだった。
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「最悪だって言ったでしょ」
奈緒の声は、少しだけ疲れていた。
「これ、もう戻せない」
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神谷はゆっくりと顔を上げる。
「戻せないって何だよ」
「恋愛が?」
「それとも、この世界が?」
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奈緒は答えない。
代わりに視線を逸らした。
その“沈黙”が一番答えに近かった。
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夜の街は普通に動いている。
車も、人も、ネオンも。
だが神谷には、そこに“ノイズ”が混じって見えていた。
ところどころだけ、時間がずれているような違和感。
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「なあ」
神谷は奈緒に言う。
「お前、本当に俺のこと好きなのか?」
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奈緒の肩がわずかに動く。
一拍。
そして――
「それ、今一番聞いちゃダメなやつ」
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神谷は笑った。
「じゃあ聞くけどさ」
「全部仕組みだとしても、お前の言葉も嘘なのか?」
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奈緒は黙る。
風が通り過ぎる音だけが聞こえる。
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「……分からない」
ようやく出た言葉だった。
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その瞬間、神谷のスマホが震える。
《干渉ログ解析》
《対象A:神谷 恒一》
《対象B:奈緒》
《感情同期率:38% → 61%》
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「……同期?」
神谷の声が低くなる。
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奈緒は小さく笑う。
「ほらね」
「もう始まってる」
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神谷は一歩近づく。
「だったらさ」
「俺が今お前に感じてるこの気持ちも、全部作られてるってことか?」
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奈緒は初めて、はっきりと神谷を見る。
「たぶんね」
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その言葉は、優しかったのに一番残酷だった。
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沈黙。
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神谷はゆっくり息を吐く。
そして言う。
「じゃあ証明しろよ」
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「何を?」
奈緒が聞く。
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「これが本物か、偽物か」
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その瞬間。
世界が一瞬だけ“止まる”。
車の音も、人の動きも、すべてがフリーズする。
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神谷だけが動ける世界。
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スマホに新しい通知。
《特別イベント発生》
《条件:感情選択試験》
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画面に二つの選択肢。
・奈緒を信じる
・奈緒を疑う
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「またかよ……」
神谷は苦笑する。
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奈緒が静かに言う。
「これ、選んだら戻れないよ」
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神谷は画面を見たまま言う。
「もう戻る気ない」
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奈緒が目を見開く。
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神谷は指を動かす。
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《奈緒を信じる》
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その瞬間。
世界が一気に“戻る”。
音が戻り、人が動き出す。
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だが、何かが変わっていた。
神谷の視界にだけ、新しい情報が浮かぶ。
《感情リンク:確定》
《奈緒との同期率:72%》
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「……何これ」
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奈緒は静かに息を吐く。
「やっちゃったね」
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神谷は彼女を見る。
「どうなる」
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奈緒は少しだけ間を置いてから言う。
「君と私は、“干渉対象ペア”になった」
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夜風が冷たい。
でも、もう逃げ道の話じゃない。
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神谷は小さく笑う。
「じゃあさ」
「一緒に壊すしかないじゃん、それ」
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奈緒の目が揺れる。
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その時。
遠くの空に、見たことのない“UIのような光”が走った。
《ペア認定完了》
《次フェーズ:共犯者編へ移行》
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奈緒は小さく呟く。
「最悪だよ、本当に」
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神谷は隣に立つ。
「でも、悪くないだろ」
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奈緒は答えない。
ただ、少しだけ――神谷から離れなかった。
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世界は静かに、恋愛の形を変えていく。
それはもう“感情”ではなく、“システム干渉”だった。




