ルールの外側
神谷 恒一は、レストランを出たあともしばらく動けなかった。
夜の空気がやけに冷たく感じる。
それ以上に、“頭の中の情報”が整理できていない。
観測側。
プレイヤー認証。
干渉対象。
「ゲーム……ってことか?」
呟いてみても、しっくりこない。
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スマホを開く。
《システム再起動中》
画面はそれだけを表示したまま動かない。
だが、資産は減っていない。
むしろ、また増えている。
「止まらねえのかよ……」
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その夜、神谷は久しぶりに眠れなかった。
天井を見ながら考える。
(奈緒は何者だ?)
(俺は何をさせられてる?)
(勝ってるのに、なんでこんなに不安なんだ?)
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翌朝。
状況はさらに変わっていた。
スマホのホーム画面に、見覚えのないアプリが追加されている。
アプリ名はない。
ただ黒いアイコン。
タップする。
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《WELCOME》
《あなたの現在ステータスを表示します》
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画面が切り替わる。
そこには信じられない数値が並んでいた。
・資産:+3億2000万円
・ランク:C → B
・干渉権限:低 → 中
「ランク……?」
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さらに下へスクロールすると、見たくないものが出てきた。
《他プレイヤー一覧》
無数のID。
名前ではなく、記号のような文字列。
その中に、一つだけ“表示が揺れているID”があった。
《N A O》
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神谷の呼吸が止まる。
「……奈緒」
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その瞬間、背後から声。
「見つけた?」
振り返ると、奈緒が立っていた。
昨日と同じように、何事もなかったかのように。
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「お前……これ、何だよ」
神谷はスマホを見せる。
奈緒はそれを一瞥するだけで、特に驚かない。
「それが“見える側”になった証拠だよ」
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「説明しろ」
神谷の声は低い。
奈緒は少しだけ考えてから言う。
「この世界にはね」
「表と裏があるの」
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「表?」
「うん。君が今まで生きてた普通の世界」
奈緒は続ける。
「裏は、“干渉できる側”の世界」
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神谷は一歩引く。
「じゃあ俺は今、その裏にいるってことか?」
奈緒は首を横に振る。
「違うよ」
「“見えてしまっただけ”」
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その言葉が重かった。
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「じゃあ、俺はどうなる」
神谷が聞く。
奈緒は少しだけ視線を外した。
「普通はね」
「戻れない」
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沈黙。
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「でもさ」
奈緒は少しだけ笑う。
「君、かなり変なルート引いてる」
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「どういうことだ」
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その時、スマホが鳴る。
《緊急イベント発生》
《選択:介入 or 観測》
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「……選択?」
神谷が呟いた瞬間、画面が二分割される。
・介入
・観測
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奈緒が静かに言う。
「ここからが本番」
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「どっち選ぶかで、“現実”が変わる」
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神谷は画面を見る。
手が止まる。
(間違えたら終わる気がする)
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だが、次の瞬間。
画面が勝手に切り替わる。
《介入:選択済み》
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「……は?」
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奈緒の目が少しだけ細くなる。
「やっぱりね」
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その瞬間、空気が変わった。
街の音が一瞬だけ消える。
人の動きが止まる。
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神谷だけが動ける世界になっていた。
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「なにこれ……」
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奈緒は静かに言う。
「君、“選ばれちゃった側”だよ」
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そして、世界が再び動き出す。
何事もなかったように。
ただ一つだけ違う。
神谷 恒一はもう、普通の人間ではなくなった。
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スマホには新しい通知。
《第一フェーズ開始》




