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「オラ! 早く土下座しろよ。どーげーざ!」
カインはミロの頭を泥だらけの靴で踏みつけた。ミロが涙目になりながら、貴臣に助けを求める。
貴臣は薄れかけの意識の中で、昴との会話を思い出す。
それは、牢屋でラルメリアが迎えに来るのを待っていた時のことだ。
昴がいつも使っている回復魔法「カミノゴカゴ」について尋ねた時、昴はこう言ったのだ。
『厳密には、オレのこの力は魔法じゃねぇらしい。召喚されたヤツにのみ与えられる、魂の具現化、とか何とか、良くわかんねぇけど言ってたぜ』
『魂の具現化……?』
『ああ。この世界の魔法は、発動させるためにある程度決まったルールみてぇのがあるんだとよ。でも、オレの力にはそんなのはない。制御するためには、オレが名前を付けてやらなくちゃいけねぇんだ』
『それが、カミノゴカゴだったということですか』
昴は頷いた。
『何が神様だよって話だけどな。でもよ、この世界に来た時、色んなヤツを助けてやってよ。そんで、周りから感謝されたり褒められたりしてよ……なんか、すげぇ嬉しかったんだよ』
昴ははにかむ。
『翔子と離れ離れになっちまって、むしゃくしゃして、腐っちまったオレだけどよ。こっちの世界なら、もう一度やり直せるんじゃねぇかって、そう思ったんだ』
昴との会話を思い出しながら、貴臣は地面に手を突き、歯を食いしばって体を起こす。
「お、ついにやる気になったか?」
カインが囃し立てる。
(僕の魂。僕にだけ使うことができる、能力……)
ラルメリアに召喚された時、彼女は貴臣にとある力を授けたと言った。ラルメリアの説明は概ね昴の説明と同じだった。
(僕が、この能力に名前を付けるなら_____)
目を閉じると、元の世界にいた頃のことを思い出す。
ずっと、鬱屈した気持ちを抱えていた。
周りから与えられた「優等生」の仮面を外すことができずにいた過去。
漫画の世界で暴れ回るヤンキーを眺め、自分の無力さを呪った過去。
(僕は……強くなりたい)
目を開く。心の中でその言葉を念じた時、喉を締め付ける痛みが途端になくなった。
貴臣は咳き込みながら立ち上がる。
「お、お前なんで魔法が_____」
まさか反撃されるとは思っていなかったのか、カインは途端に怯えた表情になった。貴臣はカインの鼻っ柱に向かって拳を放つ。
拳の骨に硬い衝撃が走った。カインは馬車に背中を強く打ち付けた。
「我羅苦多。……それが、僕の力だ」
全ての魔法を無効化する。それが貴臣の能力だ。
貴臣は瞳孔を拡大させ、獲物を見つけた捕食者のように獰猛な笑みを浮かべる。
「カインさん。僕と喧嘩をしましょう?」




