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ルクレツィアの父、アルベルト・ローゼンシュヴァルツはその日王宮に呼び出された。
玉座には歳若き王が、閉じられた脚の上に手を行儀良く並べ、肩身が狭そうに座っている。その若き王の周囲には、厳しい面をした側近が立ち、アルベルトを睨みつけていた。
アルベルトは一通りの挨拶を済ませ、嫌な予感を感じつつも、用件を尋ねる。王は側近に目配せをした。
王の側近がアルベルトに紙を渡す。その内容を見て、アルベルトは紙を強く握りしめ、手を震わせた。
「君が民衆から不当に税を取り立て、その一部を自分の懐に収めているとのことだが……何か弁明はあるかな」
告発状だった。アルベルトの部下数名への聞き取り調査とその結果が書かれている。その他、実際に徴税した者への聞き取り調査も行っているようで、言い逃れはできない状況だった。
「見損なったよ、アルベルト殿。君の家とは先祖代々長い付き合いがある。だからこそ私も君を信頼していたというのに、これは酷い裏切り行為だ_____」
「ま、待ってください。これには訳が_____」
側近が近くにあったテーブルを蹴飛ばす。ガチャン、と激しい音を立て、テーブルに置かれた調度品が床に倒れた。
「陛下が今お喋りになっとるじゃろうが! 黙って話を聞かんかいワレェ!」
側近はアルベルトをひとしきり威嚇した後、「陛下、続きをどうぞ」と言う。
若き王は顔から大粒の汗を流しながら咳払いをする。
「い、1週間猶予をやろう」
王の声は緊張で裏返っている。
「その間に荷物をまとめて、このアルデラから出ていってほしい」
1週間。猶予はあまりにも短い。
「なっ……1週間だなんて! お考え直しください! まだ、代わりの者もいないのではないですか? 私以上にこの国の税に詳しい者がいるのですか!」
先程とはまた別の側近が床を激しく蹴り付ける。
「こんな事態を起こした張本人が何ぬかしとんじゃボケェ! そんなことくらい陛下だってお分かりなんじゃい!」
「ま、まあまあ。そんなに怒らなくたって良いじゃないか」
「駄目ですよ陛下。ただでさえ若い王だからって、貴族連中はあんたを舐めてかかってる。ここでちゃんと懲らしめておかんと、ワシ等の面子が保てないでしょう」
「それはそうかもしれんがなぁ……ひとまず、私に話をさせてくれないか?」
怒る側近を宥めつつ、王は居住まいを正す。
「調査自体は数週間前に済んでいたんだ。引き継ぎの者は既に立てている。長らくの間君の家には世話になっていたからな。魔法権の剥奪をしないだけ、せめてもの温情と思ってほしい」
王は手を動かし、追い払うジェスチャーをした。
「オラ、話は終わりだ。さっさと出ていかんかい」
従者はアルベルトの両脇を掴み、引きずるように部屋から退出させる。
非常にも閉ざされる扉の前で、アルベルトは膝をついた。
(終ぇだ、何もかも……)
アルデラの税務に携わってから数十年。ローゼンシュヴァルツ家が汚職をしていたのは、アルベルトも知っていた。何故なら、先代から、いや、それよりもっと前からローゼンシュヴァルツ家は不当な方法で税を徴収していたのである。
実の親から引き継いだ厄災の責任を、何故自分が取らされなければならないのか。アルベルトは怒りに震えた。
(何故、ワシだけがこんな目に……ッ)
歯をギリギリと噛み締め、扉を睨みつける。しかしその時、とある考えが頭に浮かんだ。
(そうだ。ワシだけではないんだ)
アルデラの国務は、ローゼンシュヴァルツ及び王族と懇意にしている家がそれぞれ担当している。
そのため国務に関わる家々は横の繋がりが非常に強く、互いの不正を黙認していた。
そして、ルクレツィアがこの度結婚するローデンベルク家の汚職をアルベルトはもちろん知っている。
(まだ負けるわけにはいかん。何としてでも、王家との繋がりを持ち続けなければ……)
アルベルトは不敵な笑みを浮かべる。
「ルクレツィア。お前のような親孝行者がいて、ワシは幸せだよ」




