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ヤンキーオタクの優等生、異世界で伝説のヤンキーとバディを組む。〜世界を救え? そんなことよりタイマンだ!〜  作者: 瀬綺ララ


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7-4

「……ルクレツィアさんは、何も悪くありませんよ。僕達が勝手に、ここに乗り込んだだけです」


 ルクレツィアは振り返り、父親は驚きに目を見開く。


「お前、何故ワシの魔法を受けて尚動ける……ッ!」

「はは……何故でしょうね。皆目検討がつきませんが」


 貴臣はぎこちなく笑みを浮かべる。


「強いて言うなら、気に食わないから、でしょうか」

「……気に食わない?」

「ええ。ヤンキーは嫌いな人に歯向かうものだと、相場が決まっているんでね」


 昴ならば、「別にそんなことはねぇよ」と突っ込んでいたかもしれないが、生憎と彼は不在だった。


「ヤンキー?」


 父親は不思議そうに声を上げ、ルクレツィアの方を見る。ルクレツィアは首を横に振った。彼女にもそれが何を意味するのか分からなかった。


 魔法が解除されたとは言え、貴臣の体調は万全ではなかった。水中で無理矢理体を動かしているかのように全身が重く、立っているのもやっとの状況だ。


 しかし、父親にそれを悟らせたくなかった。掠れた声を貴臣は上げる。


「あなたは父親失格です。それどころか、人として最低の部類だ」


 喋っているうちに、自分でも想定外の言葉が次々湧き上がってくる。


「脅しや魔法で、他人に何でも言うことを聞かせられると思ったら、大間違いだ。あなたのような、他人を自分の都合の良い駒としか考えてない奴が僕は大嫌いだ」

「……言いたいことはそれだけか、兄ちゃん」

「まだ聞きたいですか?」

「いや、もう十分だ」

 

 父親は貴臣に鷹揚とした足取りで近づくと、貴臣の頬を思い切り殴った。貴臣はよろけ、床に膝をつく。


「チーノ様!」


 ルクレツィアが駆け寄ろうとするのを、貴臣は手で制する。


「テメェ、自分から今どういう立場なのか分かってんのか? 誰に楯突いてっか分かってんのかって聞いてんだよ、オラ」

「すみませんが、分かりかねます。何せこの世界にやってきて、まだ1週間も経っていないものでしてね」

「……ああ? 何言っとんじゃワレ」

「残念ですが、僕に脅しは通用しませんよ。あんたのパンチなんて、痛くも痒くもありません」


 貴臣は口の端に滲んだ血を手で拭い、ゆっくりと立ち上がる。


「かっこええのお、兄ちゃん。一丁前に騎士(ナイト)気取りか」

「そんなんじゃありませんよ。僕はワルですから」

「はっ。何を言っとるのか全然分からんわい」

 

 父親はルクレツィアをチラッと見てから、貴臣に視線を戻した。


「兄ちゃん、もしかしてルクレツィアのことが好きなのか?」

「……違います」

「嘘はつかんで良い。好きでもなければ、わざわざここに来る必要もないじゃろう」


 そう言って、父親は下卑た笑みを浮かべる。


「ナイト気取りの兄ちゃんにひとつ提案してやろう。ワシと勝負をしないか? 兄ちゃんが勝ったら、ルクレツィアはお前にくれてやる。ただし、ワシが勝ったら、このアルデラから出ていってもらう。どうだ、悪い提案じゃないじゃろう?」


 とにかく喧嘩をしたい貴臣にとって、それは願ってもない提案だった。

 しかし、この父親がまともに喧嘩をするとは思えない。


 向こうには貴臣の動きを封じる魔法があり、そのうえ貴臣の体調はまだ万全ではなかった。

 普段ならともかく、今の状況で勝てるとは思えない。


 だが、貴臣は頷いた。父親の「ルクレツィアをくれてやる」という言葉が気に食わなかったのだ。それが貴臣に向けた挑発だと理解はしていたが、止めるまでには至らなかった。


「良いでしょう。その挑戦、受けて立ちます」


 それまで黙っていたルクレツィアが、声を上げる。


「チーノ様、ダメよ! あなたはそんなことをしなくても良いの!」

「ルクレツィア、お前は黙っとれ。これは男と男の勝負なんじゃ」


 父親は上着を脱ぎ、地面に置いた。


「ねえ、本当にやめてってば! 私、結婚するから! お願いだから、チーノ様に手を出さないで!」


 ルクレツィアの願いは届かなかった。父親と貴臣は、互いに構えの姿勢を取った。


 父親は挑発するように手を動かした。それが合図だった。


 貴臣は拳を振り翳し、父親の腹目掛けてパンチを出した。ドシッと重たい衝撃がかかる。父親は顔を軽く顰めたものの、倒れることはなかった。


 貴臣はすぐさま父親から距離を取る。


(クソ。やっぱり体に力が入らないな)


 父親は不敵に笑う。


「何だ、兄ちゃん。威勢が良い割には大したことねぇじゃねぇか」


 父親の振り回した拳が貴臣の頬にクリーンヒットする。ピエールのように洗練されてはいないが、その分腕力があった。倒れそうになる体をすんでのところで持ち堪え、貴臣は口元に滲んだ血を手の甲で拭った。


 泥臭い闘いだった。


 何発かの攻防の末、父親は脚を振り上げ、貴臣を蹴ろうとした。緩慢な動作だった。貴臣は彼の脚を掴み、力強く押した。バランスを崩した父親はその場に尻餅をついた。


「クソ、この野郎……っ」


 父親はジタバタともがくが、腹の肉がつっかえて上手く起き上がれないようだった。

 貴臣は拳を振り上げ、父親の頬を殴り返した。軽い力だった。


 父親は悔しげに口元を歪め……しかし、すぐに笑った。


拘束魔法(パラリージ)

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