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ヤンキーオタクの優等生、異世界で伝説のヤンキーとバディを組む。〜世界を救え? そんなことよりタイマンだ!〜  作者: 瀬綺ララ


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7-1

ピエールは後ずさる。


「なんなんですか、あなた達は……」

「言ったろ。正義のヒーローだって」

「勝手に他人の家の事情に介入して、家にまで押しかけてきて、何が正義だと言うんですか」

「でも、テメェはそれを望んでんだろ」


 昴の言葉に、ピエールは思わず息を呑む。


「俺にゃあ分かる。テメェは本当は、ルクレツィアの結婚なんて望んでいない。あいつを不幸にするくらいなら、結婚なんてめちゃくちゃになっちまえと思ってる。でも、立場上それが言えない。そうだろ」

「何を、勝手なことを_____」


 昴が一歩前に進むと、ピエールは一歩後退する。


「……俺にはな、妹がいんだよ」


 一歩歩くごとに、特攻服の裾がひらひらと揺れる。


「俺のダチ公なんかは、兄弟ほど腹の立つヤツはいねぇっつってたけどな。でも、俺にとっちゃあ、目に入れても痛くねぇくらいの可愛い妹だった」


 昴はピエールから目を逸さなかった。視線だけで人を殺してしまいそうなその恐ろしい形相から、ピエールは逃れることができない。


「あいつが結婚したって聞いた時は、複雑な気持ちだったよ。俺の知らねえとこで何やってんだよ、ってな。だがよ、アイツの幸せな顔を見ちまえば、反対なんてできるはずがなかった」


 ピエールはやがて、壁に追い詰められる。天井にかけられた豪勢なシャンデリアは昴の大きな体によって遮られ、視界が夕時のように薄暗くなる。


「断言するぜ。もしここでアイツを手放しちまったら、お前は一生後悔する」


 昴はピエールの胸ぐらを掴み、肉薄する。


「テメェの言ってることは正しいんだろうよ。だけど、正しさだけの人生なんて、つまんねぇだろ」


 それだけを言って、昴はピエールから手を離した。ピエールの体から力が抜け、その場に崩れるように座り込んだ。


(弌ノ瀬には申し訳ないことしちまったな)


 ルクレツィアを救出する手立てについて、貴臣から詳しいことは聞いていない。彼の説明は要点を得ず、まるで独り言を喋っているような話し方で、聞いても理解できなかったのだ。


 貴臣はルクレツィアを救出するついでにピエールともう一度闘いたい様子だった。だが、昴はこう見えて事を穏便に済ませたいタイプだ。昴がルクレツィアを引き連れて先に外に出るという考えもあったが、彼女がそれに理解を示すとは思えなかった。


 昴は地面に座り込んだまま動かないピエールを一瞥する。俯いていて彼の表情は見えなかったが、昴はそれを戦意の喪失と捉えた。


「んじゃ、言いたいことは言ったから、俺はそろそろ退散させてもらうぜ」


 ルクレツィアと貴臣を二人きりにさせてやりたい気持ちもあるが、貴臣はどうにも危なかっかしくて一人にしてはおけない。


 昴は扉に手をかけ、そして立ち止まった。来た道を覚えていなかったのである。


(森ん時は野生の勘で戻ってこれたけど、俺、実は方向音痴なんだよな……むしろ家の中の方が迷いやすいっつーか……)


 幸か不幸か、廊下には誰一人いない。おかげさまで倒す手間は省ける。


 昴は振り返った。ピエールは俯いたまま立ち上がろうとしない。ここでまさか「どうやったら家から出られますか?」などと聞けるはずもなく、昴は無言で廊下を睨みつけた。


「……お前に何が分かる」


 弱々しい声が耳に届き、昴は再び背後を見た。ピエールが手を床につき、おもむろに立ち上がっている。


「ああ? 何か言ったか?」

「お前にオレの考えなど、分かるはずがねぇんだよ」


 ピエールはよろけながらゆっくりと立ち上がる。何を言おうとしているのか分からず、昴が尋ねようとした時、ピエールは手を横に掲げた。


「アッラルメ」


 その瞬間、また、あのつんざくような音が耳の中で激しく鳴り響いた。昴は耳を両手で押さえ、苦悶の表情を浮かべる。


 ピエールは昴の元へとゆっくりと近づいてくる。


「オレだって、ルクレツィア様の幸せはずっと考えてきた! これが本当に良いことなのか、ずっと悩んできたんだ!」


 彼の目は血走り、先程までの冷静さを保った様子とは打って変わっていた。


「だが、どうすれば良い!? ローゼンシュヴァルツ家を裏切れっつってんのか!? クソの掃き溜めみてぇな世界で生きてきたオレを拾ってくれた、この家を裏切れと!?」


 ピエールは拳を振り上げる。


「部外者が余計な口を挟んでんじゃねぇ_____!」


 そして、昴の顔面に向かって拳を突き出した。目にも止まらないスピードだった。両手で耳を塞いでいた昴には、その攻撃は防げないように思われた。


 しかし、昴はその態勢のまま屈むと、素早く横に移動した。驚愕の表情で振り返るピエールの顔面に、ストレートの拳を叩きつける。


 まるで紙のような軽さで、ピエールは後方へと吹っ飛び、壁に叩きつけられた。


「馬鹿野郎。耳鳴りが酷くて何言ってんのか全然聞こえねぇよ」


 昴は吐き捨てるように言って、ピクリとも動かなくなったピエールに近寄った。

 

 壁に背中をつけ項垂れている彼を、地面に横たわらせてやる。唇の端が切れ、頬を血で汚していた。切れた唇を震わせ、ピエールは力なく声を震わせる。


「ルクレツィア、様……」


 涙がこめかみを伝い、地面に落ちた。昴はその姿を黙って見つめていたが、しばらくして、ピエールの頬に手を当てた。


「カミノゴカゴ」

次の更新は3月29日(日)の22時10分予定です。

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