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49. 明らかな好意と隠せない好意

「……っ!」



 告げられた言葉は、フィオナが望んでいたものだ。嬉しくて心が震えてしまう。早鐘のように鳴り始めた胸の音を抑えることができない。

 心の内を明かしてくれたフリオニールに、真っ赤になっているだろう顔を見られるのが恥ずかしくて、フィオナは俯いてしまった。


 王宮に来るまで、若い男性と言えば兄のウィルフレッドくらいしか見たことがなかったフィオナだ。端正な面持ちの青年貴族たちに慣れてきたとはいえ、突如訪れた初めての場面に、動揺を隠せるほどの経験は持ち合わせていない。



 フィオナを気にかけてくれているのは以前から感じていた。それが好意からくるものなのか、仲間意識からくるものなのかは判断できなかったが……。

 「俺のものになれ」と言われれば、さすがにフィオナにだって理解できる。



 俯いたまま、なかなか返事を返さないフィオナに業を煮やしてか、フリオニールが苦笑しながら話し始めた。


「今すぐにという訳じゃない。ただ、俺がお前をそういう目で見ているということは知っておいてくれ」



 心はざわざわとして落ち着かなかったが、フリオニールの申し訳なさそうな声に促され、ゆっくりと顔を上げる。すると、赤と金の美しい双眸に真摯な光が宿されていることに気付いた。


 告白したフリオニールが不安でないはずはない。射るような眼差しが、拒ばないでくれとフィオナに訴えかけてくるようだ。



 心の底には確かに、フリオニールに憧れる想いが眠っている。噂で聞くような人間離れしたフリオニールではなく、年相応の青年らしい感情を持つフリオニールに、出会った頃から抱いていたそれ……。

 その想いは、王宮で同じ時を過ごすうちに憧れとは呼べないところまできている。


(フリオニール様のことは好きよ。だけど……)



 王国屈指の家柄と王国最強の肩書を持つ魔導士で、神とも精霊とも讃えられる麗しい美貌の持ち主であるフリオニール。彼に向けられる性別を問わない熱い視線は相当なものだ。ただ、それらの視線には、権力や見栄といった人の欲にまみれた醜い感情も多く混じっている。

 フリオニールがそれを嫌悪しているから、向けられる感情のすべてに本気で向き合っていなかった。


 それらの権力や見栄といった醜い感情の中に、フリオニールを慕う純粋な気持ちもきっと紛れていたはずで……。自分と同じ立場の令嬢が他にいたなら、自分は選ばれただろうか。もしも、を考えると自信がない。


(でも、私のこと……好きって言ってくれた……)



 フィオナは、フリオニールの誠意に応えようと心を奮い立たせ、たどたどしくも懸命に言葉を発した。


「……好きって、私を。本当、に?」


「ずっと前からアピールしてたぞ……。気づかなかったのか」


「……お兄様ともお知り合いですし、親切にしてくれてるだけかと。それに、みっともない姿ばかりお見せしていて……」


 残念な想い出ばかりが脳裏をよぎる……。



「そこは愛嬌だろう。不快な気持ちになったことはない。むしろ、興味がわいた」


 フィオナの姿を思い出しているのか、フリオニールは笑顔だ。

 忘れてほしい出来事だらけなのに、フリオニールの興味を引いたのなら忘れないでほしいと思う。……乙女としては判断に苦しむところだ。好きな人の記憶には、美しい姿だけを残しておきたい。



「お前はみっともない姿というが、暗闇でも怯えずに行動できて、颯爽と馬を乗りこなす令嬢は、そうそういない。その行動力は誇っていい」


「でも、……令嬢らしくないでしょう。王宮でお見かけする方たちは、儚げで守ってあげたくなるような女性ばかりです」


「外見的にはそうだな、否定はしない。だが、俺が興味を持った女は、お前が初めてだ」



 気持ちを打ち明けたせいか、清々しい笑顔で真っ直ぐな言葉をぶつけてくるフリオニールは思い切りがいい。恥ずかしい言葉の数々に、フィオナの上気した頬の熱は下がる気配を全く見せてくれない。



「好きでないと、優しくしたり抱きしめたりしない。気に入ったから、触れたいと思うんじゃないのか?」


「……えっ! だっ、抱きしめられたのは、アルディに行く時だけですよね。もしかして、あれは……」


「分かったなら、はやく俺を好きになれ……」



 耳に届いたフリオニールの掠れた声は、男性の色気を感じさせるものだ。覆い被さるようにしてフリオニールが見下ろしてくる。フリオニールが腕を伸ばせば、簡単に抱きしめられてしまう距離……。


「逃げないんだな。……いいのか?」


「っ……」



(……いいも、何も。どうしていいのか……)

 しなやかな獣のようだと評されるフリオニールから逃げられる気がしなくて、フィオナはギュッと目を瞑った。

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