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48. 伝わる想い

「あの、フリオニール様。……大丈夫ですよね、あの方たち」



 落ち着きを取り戻したフィオナが立ち上がり、問いかけてくる。自分のせいで、令嬢たちに何らかの罪が課せられるのを心配しているのだろう。


「あぁ、……解放するつもりだが、話だけは聞いておきたい。しかし、本当にいいのか? 罪に問わなくて」


「……いいのです。本当に良かった。ありがとうございます」 フィオナは安心したようにホッと息をついた。



「俺のせいでもあるからな、こういう事態を招いたのは……。適当に相槌をうって勘違いさせた」


「……でも、仕方がなかったんですよね」


「適度に接していれば、印象は悪くならないし、令嬢たちから逃げるのも簡単だ。だが、俺はアルスカイザー家の人間で、役目に伴う代償もある。次代のための相手が、そんなものに紛れているなんて……そもそも考えが甘かった。反省しないとな」


 フリオニールは瞳を伏せ、苦々しい表情を見せた。



 アルスカイザー家を継ぐ者は、悪魔と契約し寿命を削ることで、王国の平和を保とうとしている。

 家柄や容姿に惹かれ、フリオニールに近づく女性は数多(あまた)いれど、アルスカイザー家当主に相応しい相手となれば稀有な存在だ。


 社交界で華やかに君臨することよりも、国のために尽くせる女性……。


 そんな女性が、男性に群がり美しさをアピールするだけの令嬢たちの中にいるわけがない。……探すだけ無駄だった。



「それは……王国の秘密ですし、知らなくて当然です。フリオニール様をすごく好きな方や支えたいと思う純粋な気持ちの方だっていたはずです」


「そうかもしれんが、俺には、全員同じ顔に見える。名前も覚えられない。……俺やレオンハルトの側にいるからといって、お前を傷つける人間には正直、呆れる」


 もともと他人に愛想がいい性分ではない。王国での立場を(かんが)みても、信頼できる人間には十分恵まれている。




「それに、俺はもう見つけた」

 フリオニールはフィオナの頬に片手を添え、視線を合わせる。


「えっ……、フリオニール様?」


「無事で良かった……」


 フリオニールはフィオナを見つめながら、表情を柔らかいものに変化させた。



 急に態度を軟化させたフリオニールに戸惑いの表情を浮かべているフィオナだが、手を添えた頬が微かに上気している。

 意図することに気がついているのかもしれない。いつもはぐらかされていたが、今回は伝わりそうだ。期待を込めて続ける。



「俺に、顔も名前も一度で覚えさせた女がいる……」

「それは……」


「俺の前から凄い速さで逃げ出したり……」

「……はい」


「動物や自然が大好きで、悪魔に気に入られてる」

「……」


「王国の秘密を知っている女だ。……誰だか、分かるか」

「……は、い」


 頬を手で押さえられているせいで、顔を逸らせないフィオナは口ごもった。瞳の縁がうっすらと赤く色付き、アメジストの瞳が躊躇いをみせて揺れている。


 そんなフィオナの様子に目をすがめながら、フリオニールはフィオナが口を開くのを待った。



「……出会い方が最悪で」

「うん」


「同様の秘密を抱えていますし……」

「それで……」


「……お友達がいないという残念な境遇の女性なので、……気になってしまう、だけ……とか」


 フィオナが顔を赤くしながら、懸命に言い繕っている。フリオニールの言いたいことを理解しているのに、明確な答えを避けているような……。



 フリオニールは悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「そうだな。気づいたら、お前のことをいつも考えている。……知りたくないか? その意味を」


「……」


「お前の身に危険が迫る時、俺が呼ばれるということは、……お前も俺と同じ気持ちだと思えるんだが……」


「そっ、それは」


「逃げるなよ……」


 フリオニールは、フィオナの耳元に口を寄せると囁いた。



「お前が好きだ。……俺のものになれ」

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