42. 魔導具を試してみる
「よし。次は、ウォルスを持ち上げてみろ」
「わっ、分かったわ」
(なにっ!)
整備され、居心地のいい空間となった薬草園の片隅で、関係ないとばかりに休憩していたウォルスはギョッとする。
フリオニールの無茶な指示に対し、フィオナが微塵も疑わずに返事をしている。素直な性格はフィオナの長所でもあるのだが、いきなり標的に指定された自分はいい迷惑だ。慌てて懇願するような目をフィオナに向けると、それを肯定と解釈したフィオナが、任せてとばかりに頷いた。
(ちっ、違っがーう! 止めろ、という意味だ!)
「いくわよ。ウォルスさん!」
(おいおい。本当にやる気か……。仕方ない……)
アルディ家のために、いや、フィオナのためなら何でもしてやる。魔界の平和に尽力してくれる(そんな意図は皆無だろうが)人間に、悪魔であっても恩はきっちりと返す。
フィオナに甘いというわけではない……。
断じて、ない。
俺は制止するのを早々に諦め、練習相手になる覚悟を決めた。暴れると不安定になるため、身動きしないように努める。浮かせやすくするためでも、自分の身を守るためでもある。
(フィオナだけだぞ。俺を練習相手にできるのは……おおっと)
…☆…☆…☆…
フィオナは、オーウェンにもらった指輪の効果を試していた。薬草園には、引き抜かれた雑草や剪定された枝など、練習に適した軽いものがたくさんあるので、気兼ねなく練習ができる。
手始めに選んだのは適度に硬さがある枝だ。
オーウェンに教えられた通り移動させたい物に意識を集中させる。すると、ピクピクと動くのだが、なかなか浮かばない。手伝うつもりがあるフリオニールも実力を確認するためか、まずは、フィオナの自由にさせていた。しばし苦戦を続けるフィオナを眺めた後、助言を始めた。
「魔法は想像する力が大切だ。枝を浮かせたいのなら、浮かんだ枝を想像しろ。浮かせようと力むことはない」
「はい!」(浮かんだ枝を想像する……)
「目を閉じるな! 標的を見続けろ」
フィオナはフリオニールの助言に従い、枝を見ながら想像力を働かせる。すると、ピクピク動くだけだった枝がスーッと浮かび上がった。
「いいぞ……。あとは、こうやって動かせばいい」
「はいっ」
「視線を落とせば、地面に落ちる」
フィオナの背後に立ったフリオニールが、フィオナの腕を取り動かすと、面白いように枝が操られる。また、フリオニールが言うように視線を地面に向ければ、枝が推進力を失ったようにポトンと地面に落ちる。
「!」
「よし、このまま続けるぞ」
フリオニールが徐々に重量を重くした標的を選び、それをフィオナが移動させる。最終的にフリオニールが選んだ標的がウォルスだった。
生き物なので、体が柔らかく扱いが難しい。その上、かなりの重量がある。無難に着地させられたのは、ウォルスの努力の賜物でもある。暴れていれば怪我をするのは目に見えているのだが、生き物を移動させることは想定していないので大丈夫だろう。
フリオニールが指定した標的の全てを移動させることに成功したフィオナは、フリオニールから「十分に使いこなせるな」の言葉と共に合格点を貰うことができた。
フリオニールも口には出さなかったが、フィオナの集中力の強さに感心していた。これだけの集中力を発揮できるならば、魔力持ちとなってもおかしくないだろうに……。魔力は簡単に言えば、一定のレベルを超えた心の強さ、思いの強さだ。フィオナに魔力がないことを不思議に思う。
(素直で真面目な性格とも言えるのか……)
フィオナはホッと息を吐くと、フリオニールに向き直り興奮気味に話し始めた。今までの神妙な態度から一変し、話したくてたまらない様子だ。
「……凄い。凄いですっ! フリオニール様」
「お前が指輪の力を使ったんだ。凄いのはお前だろ」
「魔導士様の凄さを改めて感じたのです。魔道具を使いこなすだけでも大変なんですもの」
「そうか?」
「魔法が使えたり、魔法が込められた道具が作れるところは勿論ですが、想像力がとても豊かなんですね。魔法を使うのにも必要だし、あと魔導士様のお部屋にも。必要な才能なんだと納得しました」
「……そこか。まぁ、個性もあると思うがな」
それにしてもと、フリオニールは薬草園を見渡すように首を巡らすと話題を変えた。
「薬草園らしくなったな。よく来てるのか?」
「私は3日に1度位ですけど……ストラスさんは毎日通って、まめに作業しているようです」
フィオナの返事にフリオニールは苦笑する。今もストラスは自分よりも丈のある薬草の中を動き回っている。薬草が揺れることで、ストラスの居場所を伝えてくるのだ。
「ここで何をしてるんだフィオナは?」
「……主に雑草とりと薬草を乾燥させるお手伝いを。ストラスさんのように詳しくないので」
視線をさ迷わせながら答えていると、下の方からストラスの声が聞こえた。
「これからはお前にも頑張ってもらわねば。薬草は摘み続けるが、そろそろ次の段階に移ろうと思っている」
何時の間にかウォルスの頭の上に鎮座したストラスが、フィオナに声をかけてきた。




