39. 幼なじみの4人
「精霊の加護って……」
不思議そうにディーンが呟いた。
ファブール王国建国にまつわる真実の歴史を学んでいる4人の青年は、ほとんどの貴族が知らない事実を胸に秘め生きている。それはある意味、権力を持つことを許された家柄に生まれ、己の使命感を満たすものでもある。それが欠けていることを知らされ、ひどく口惜しい思いでいるのかもしれない。
「我がレアン公爵家にも知らされていないとは……。しかも! お前が知っていて私が知らないというのが気に入らない。ずっと隠していたのか? 幼なじみの私たちにも」
「フィリップ・アルディ伯は、ケルガー王の侍従だった人だ。ケルガー王にだけ教えるのは筋だと思うよ、ジーク。……とにかく! アルディ家直系の者は精霊に護られ、その精霊の力によりギードの森の結界にも侵入できるんだ。これでお前たちに隠している秘密は全くない! 誓ってない!」
何もないぞ! とばかりに両腕を広げたレオンハルトが、幼なじみたちに向かって主張する。
「……それで納得しろと」
ジークフリートが不機嫌に応える。
「適当すぎないか?」
ディーンも理解不能という表情をしている。
「もういいだろう……昔の話だ。詳しい経緯まで説明するのは無理だろう。当事者のウィルフレッドでもレオンハルトの説明と大差ない」
話の筋を引き取るようにフリオニールが話す。程度の差はあれ、どの家にも秘密はあるものだ。フィオナのことがなかったら、ウィルフレッドも絶対に明かしてはくれなかっただろう。
アルディ伯爵家の秘密は、黄金の指輪や悪魔契約に匹敵するほど重要なものだ。
平和な世であるからこそ見落とされがちだが、国境に接し、防衛という重要な役割を果たしているギードの森に出入りできるアルディ家が、ファブールを手に入れようとする国に寝返ることでもあれば、ファブール王国は乱される。
そうならないのは一重に、アルディ家の者の実直な性格に依る。この性格がギードの森に愛される所以らしい。また、命を脅かされるような危機に巻き込まれても、精霊の力で救われるため寝返る心配は薄いし、安心感もある。
(有能だと評判のウィルフレッドが素直すぎるのは、危機感が薄いせいだな……)
フリオニールは心の中で呟いた。
「……いいだろう。知らないことも少しはないと、つまらんからな」
ジークフリートが普段の冷静な態度を取り戻し、レオンハルトに詰め寄ることを止めたが、ディーンがもう少しだけと言って、フリオニールに聞いてきた。
「フリオニールには視えてるのか……加護している精霊の姿が? ウィルフレッドは何に護られてるんだ」
「…………。分からない」
「「「変な間がある。ということは! ……視えるんだな!」」」
3人が同時に声をあげる。幼い頃から一緒に育った時間の長さは伊達ではない。それなりに気心が知れている。フリオニールの嘘はすぐにばれた。
「……言っておくが、アルディ家を継ぐ者は精霊に護られていることは知っているが、何の精霊かは分からないらしい。ウィルフレッドも知らなかったし、アルディ伯も知らないそうだ」
「で、何だったんだ? ウィルフレッドの精霊は」
興味津々といった様子で、ディーンがせっつく。教えるまで諦めるつもりはないらしい。フリオニールは深く息を吐くと話し始めた。
「……岩だ」
「……いわ? 硬い、あの?」
「あぁ、灰茶色のゴツゴツした岩石だ」
フリオニール以外の青年たちが、眉間に皺を寄せて考え込むように口を閉じた。
みんなが考えていることが手に取るように分かる。優し気な見た目に反し、男らしく潔いウィルフレッドを知っているフリオニールは続けて言った。
「岩石と一体化した姿で睨みを効かせる威圧感が凄い。あいつが治める将来のアルディ領は無敵だな」
「えっ、恐怖政治ってこと?」
「違うぞ、ディーン! なんでそうなる? 安泰って意味だ。……お前が治める将来のクーザー領が心配だぞ」
ウィルフレッドと仕事上よく顔を合わせるジークフリートが訂正する。ジークフリートもウィルフレッドの能力を認めているのだろう。
ほとんど付き合いのないディーンだけが、精霊のイメージに大きく惑わされている。
「へぇ~、ウィルフレッドは岩なんだ。興味深いな。……そうなると、フィオナが何なのか知りたくなるよね。知ってる? フリオニール」
「あぁ、花だ。黄色い。だが、フィオナ本人は、アルディ家に精霊の加護があることを教えられていなかった。ギードの森に入れるのも魔法のせいだと」
「へぇ~、黄色の花か。フィオナにピッタリだ。教えられていないのは、いずれ他家に嫁いじゃうからかな」
フリオニールは、笑みを浮かべながらも探るようなレオンハルトの視線を受け流し、執務室内にいる青年たちに念を押した。
「アルディ伯爵家を継ぐ者のみに真実が伝えられるそうだ。だから、ここでの話は他言するなよ」
「「「あぁ、分かってる」」」
「それからレオン。……フィオナは信用できる。秘密をもらす心配はない」
もう本性を探る必要はないとばかりに釘を差すフリオニールに、レオンハルトは肯定の意を示して頷く。
「初めて会ったときから気付いているよ。あんなに綺麗なアメジストの瞳をしてる娘に裏の顔なんてあるはずない。これからは普通に接することにするよ。それでいいかな、フリオニール」
「そうだよ! いいよな~、レオンハルトとフリオニールは」
「「何がだ?」」
フィオナのことを話した途端に、ディーンが羨ましそうに言う。その意味を図りかねるレオンハルトとフリオニールが怪訝そうに問い返した。
「俺なんか、仕事中はいつもゴツくて暑苦しい野郎に囲まれてばかりでさ、華やかさの欠片もないんだ。フリオニールみたいに魔法が使えたら、魔導具を作って女性にプレゼントっていう仕事もできたのに……残念だよ」
「お前は……。王太子である私の護衛という名誉な職を何だと思っている! 先日も放棄して逃げたし」
「数が少ないだけで女騎士だっているじゃないか。何が不満なんだ。老練な大臣相手に仕事している私やレオンハルトの方が大変だぞ」
自分の職や環境に不満をもらすディーンに、レオンハルトやジークフリートが反論する。しかし、さりげなく不満が込められているのは否めない。
永代に渡り、国王や宰相、将軍といった王国の中枢に立てる地位を約束されている青年たちにも不満はあるようだ。
輝かしい未来に向けて、青年たちは日々精進していくのは間違いない。何事も苦しさがあってこそ強くなるのだから……。




