33. 意外な付き添い
「こんな時に、どなたでしょうか?」
「少しだけなら大丈夫でしょう。話が長くなりそうなら事情を話せばいいのだし……」
身支度を終えフィオナが王妃の間へ向かおうとしていた時、部屋の扉がノックされたのだ。フィオナに促されたクルルが急いで応対に出る。
「……! アッ、アルスカイザー様?!」
「えっ!」
ウォルスを部屋に連れてきた時と同じように、クルルの奇妙な声が上がる。その声が知らせた客人の名前にフィオナも驚いた。
「少し、いいだろうか?」
驚きで固まっているクルルの返事を待たずに、フリオニールが部屋に入ってくる。動揺を見せる侍女には慣れているのか全く気にしていない。
「先触れも出さず、突然すまない」
「いえ、構いません。……それより、どうされたのですか?」
フリオニールの突然の訪問に驚きはしたが、フィオナは無難に対応できたことにホッとする。クルルに比べて、フリオニールに対する免疫ができていたらしい。ウォルスやストラスもフリオニールを出迎える。
(……恥ずかしい気がするのは何故なのかしら)
自室で男性を迎える気分というのは、心の中に入り込んでくるような感じで……。二人きりというわけではないのに意識してしまう。
それに、クルルが動けないのも、また言葉を失うのも無理はない。私的な空間でみるフリオニールの姿は、いつにも増して大層美しかったのだ。
普段身につけている黒いローブよりも光沢のある生地に、所々施された刺繍が光を照り返している。ローブの中から覗く服装も黒色を基調にしたコート。実用一辺倒な普段の格好よりも華やかな格好だ。同じ黒色でも生地が光沢を持つだけで違って見える。金や銀色、黒色の刺繍が素晴らしい。
(装飾が少し増えただけなのに……美形って凄い。華やかな衣装がよくお似合いになるから、さらに美しく感じるのね)
こうも変わるのかと美形の凄さを実感していたフィオナだったが、続いたフリオニールの言葉から、華やかな衣装の訳にも納得した。
「王妃の間まで一緒に行く。私も呼ばれているのだ」
「一緒に、ですか?」
「あぁ」
「……」
「……何か不都合があるか?」
大ありだろう……。
一緒に行けることは素直に嬉しい。しかし、フリオニールにとって、また自分にとっても不都合がある状況ではないだろうか。
王妃の間に向かう途中、王宮名物と言われるフリオニールと令嬢たちを常に目にしていた。今日もどこかで令嬢たちは待っているに違いない。ほんの一時でもフリオニールと会話できる機会を求めて。
フリオニールの倍増しの美しさに、今朝も引き寄せられる令嬢たちが沢山いるのでは、と心配になる。
(令嬢たちに囲まれて大変なのは自覚していらっしゃるのに……本気で言っているのかしら。確かに、私と一緒ならウォルスさんも連れていけるけど……)
「……あの、それは命令ですか? それとも王妃様の命令があったとか?」
「いや、命令などではない」
「……嫌なのか」と問いかけるように、王国最強の魔導士が美しい瞳を不安気に揺らす。自分の言葉を神妙に待っているフリオニールを見てしまっては断れるはずもない。……迎えにも来てくれたのだ。
「……。では、お、お願いします」
あっさり同意してしまった。
でも、これだけは確かめておかないと……。
「……いいのでしょうか。令嬢の皆様がアルスカイザー様を待ってらっしゃるのでは。私は邪魔ではありませんか?」
「あぁ、そうか。それを気にしていたのか」
フリオニールは納得がいったとばかりに頷いた。クルルがいる扉の方をチラリと見ると、声を落として説明する。
「ウォルスとストラスの力をかりるので問題ない」
人気のない場所を選んで王妃の間に向かうつもりらしい。たまに二人で会っていた時を思い出す。タイミングを考えると、悪魔の力をかりているのだろうと想像していたが……やはりそうだった。
(悪魔の力って便利なのね……)
悪魔のイメージを払拭してしまいそうになるほど、ウォルスとストラスは親切だ。魂と引き換えに契約を結んでいるとは到底思えない。
側にいるウォルスとストラスを見ると、目で了承を伝えてくる。
「ありがとう。力になってくれて」
「わふっ!」
「すぴすぴ?」
鼻をヒクヒクさせて返事を返したストラスは、照れくさそうにしている。もしかしたら、うさぎの鳴き声が分からなかったのかもしれない……。頼もしくて愛嬌のある悪魔たちに助けられるなんて、ファブール王国は平和だなと思う。
「行こう。王妃様を待たせてしまう」
「そうですね」
フリオニールの言葉に従い、ウォルスとストラスが扉に向かって歩き出した。フィオナとフリオニールもその後をついていく。
「ウォルスとストラスが力を合わせれば人を避けることなど容易い。いつもこうだったら楽なのに……」
フリオニールの皮肉が込められたつぶやきに、フィオナは笑顔で返す。
「いつか協力してくれますよ。だって楽しそうですもの」
部屋を後にしたフィオナとフリオニールの様子を目で追っていたクルルは、ようやく平常心を取り戻し慌ててついていく。楽しげに会話する二人の邪魔をしないよう、距離を取って付き添った。




