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30. 魔法の力と精霊の加護

「理由ですか?」


「そう、理由だ。何か聞いているか?」


「父は、……よくわからないと。私は、……フリオニール様がそうなるように魔法をかけているのかと思ってました」


「……」


 ギードの森を管理する一族は、入れることが当たり前すぎて深く考えていないようだ。この王国では、いや近隣の国でも、ギードの森の不思議な力は有名だ。国境に接しているため、森の存在に関わる事情はとても重要視されている。


 この広い世界で、アルディ家直系の血を引く、たった3人にしか許されていない結界を破る力。凄く貴重な権利ではなかっただろうか……。


 フリオニールが驚いて……いや、呆れている様子を感じたのか、フィオナは少し頬を赤らめながら口を開いた。


「えっ。皆さん、……ご存知なんですか?」


「……いや知らない。知らなくて当然のことなんだが、アルディ家の者には伝えられているのかと考えただけだ」




 ギードの森にかけられた結界の魔法は、とても簡単な仕組みで編まれている。人と危険な動物の侵入を制限するといったものだ。複雑な条件ではないため、効果も抜群だし効力も長く続く。その条件の中に、アルディ家の者の侵入を許可する類いのものはない。なのに入れる。


 ギードの森に結界を張った自分は、自身の魔法で編まれている結界に(はじ)かれることはないのだが……。



 ウォルスが消えたことで、図らずもギードの森の番人であるアルディ家と関わるようになり、ついでに森の不思議な力について解明したくなった。そんな時、目にしたのがフィオナの真の姿だ。


 魔が宿る赤と金色の瞳が、フリオニールに意図せず見せた、フィオナの姿を思い浮かべる。


 鮮やかな黄色と淡い黄色の花弁の中心に紫色の斑が浮かぶ蝶のような形をした花。その花びらをドレスのように身に(まと)い、花に守られているような姿で微笑んでいるフィオナ。


 魔の目が今まで見せてきた真の姿は、醜い人間の姿だけだ。優しげ気な顔の上に、本心を(あらわ)にした欲望が丸見えの顔が重なって見える。

 貴族社会では必要なことだし理解しているが、媚びを売るような、敵対心を(あらわ)にした顔は見ていて気分が悪くなる。なので、瞳に魔力を送ることはしていなかったのだが……。


 自分と話しているフィオナが見せた表情や仕草に、つい目を奪われた時に魔力が送られてしまった。


 綺麗すぎて、最初は自分の目が悪くなったのかと疑った。しかし、その後も確認したフィオナの姿は、花の精のように美しかった。


 そこでフリオニールは、ある考えに思い至った。


 ギードの森に侵入できる理由、それは、

 精霊の加護があるからではないか、と……。


 フィオナを加護しているのは花の精霊だ。

 種類は詳しくないのでわからない……。


 ギードの森を構成する自然物の加護なら、森に呼ばれるのも頷ける。人の魔力を上回る精霊の力だ。森への侵入は可能だろう。



 フリオニールは伯爵の姿を確認しなかったことを悔いたが、フィオナの兄のウィルフレッドで試してみることに決めた。


(ウィルフレッドにも精霊の加護があるなら、仮説が成り立つ……)




「フリオニール様、申し訳ありません。お力になれなくて。今度、兄にも聞いてみます」


「あぁ、……そうしてくれ」


 魔の目の力を使えばすぐにわかることだが、ウィルフレッドの返事をフィオナが自ら教えてくれるという。会う約束をしたも同然の言葉に、素直に同意する。

 ウィルフレッドが知っているなら、レオンハルトも当然知っているだろうと思う。ギードの森に歓迎されるアルディ家の理由を……。


「戻るか? 王宮に」

「ええ。……お願いします」


 フリオニールと抱き合うことを思い出したのか、頬を赤らめたフィオナが頷く。


 転移するのに密着する必要はあるが、抱き合う必要はない。手を繋ぐだけでもいいのだ。離れてしまうと大変なので、フリオニールはフィオナを抱きしめているのだが……。最初は、不馴れなフィオナが驚いて手を離してしまうことを心配していたためだった。


(他のやつと転移させないようにしないとな……)



「いいか?」


 そう短く声をかけたフリオニールは、フィオナを引き寄せ腕の中に納めた。自分の体と密着している柔らかい体の温もりを感じると、フィオナが生きていることを実感できる。


 王宮に戻れば、今回の襲撃の犯人探しを含め、忙しい毎日が待っている。ウォルスとストラスには見えている、未来の災いについても詳しくわからない状況だ。待ち受ける出来事を乗り切っていくしかない。


(守りきってみせる。いつか俺の腕の中で笑ってみせてくれ)


 フリオニールは、緊張気味のフィオナの体にしっかりと腕を回すと、転移の魔法を唱えた。

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