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27. 諦めきれない想い

 風に混じる土煙と火の粉の匂いを感じながら、フリオニールは気を失ったフィオナの体を草の上に横たえた。


 肩からの出血がひどい。愛らしい頬にも切り傷を負っている。落馬で強打した全身にも傷を負っているだろう。

 フリオニールは唇を噛みしめながらフィオナの痛々しい姿を確認すると、治癒の魔法を施し始めた。


 戦闘時の回復用に編み出された治癒の魔法は、あくまでも動ける程度に治癒するだけ。痛みや傷のない元通りの体に戻るまでには時間がかかる。アルディ家に運べる状態になるまでが目標だ。




 しばらくすると、フィオナの乱れていた呼吸が落ち着いてきた。蒼白だった顔色には血の気が戻ってきている。


 フリオニールは一息つくと、フィオナの頬に微かに残る傷に触れる。フリオニールの指先が淡く光り、指が触れた所から傷が消えていく。そのまま指を滑らせ、躊躇いながらフィオナの唇に触れた。


「触れても……いいか?」

「……」


 柔らかい唇をなぞりながら問いかける。当たり前だが、フィオナからの返事はない。フリオニールは苦笑を浮かべ、片腕を地面につけると、フィオナの顔に自身の顔を寄せようとした。



「アルスカイザー様。襲撃者の一団をすべて拘束しました。ご指示願います。それから、フィオナ様は……」


 護衛の中で上官らしき者が指示を仰いでくる。


「……」


 現実の世界に戻されたフリオニールは、邪魔されたことを悔しく思いながらもすぐに立ち上がり、護衛に向き直った。


「……襲撃した者たちは、明日、王都に移送。それまではアルディ家の預かりとする。……おい……聞いているか?」


「…………はっ! はいっ! 聞こえております」


 王国最強と(うた)われる魔導士が放つ、凄絶な魔法の威力を目の当たりにした直後だ。その噂に違わぬ強さを見た後に、さらに王国で讃えられる美貌を目の当たりにした護衛が呆けるのは当然と言えた。


 アルディ家の使用人たちの大袈裟な賛辞を証明する美しさに、十分納得した護衛は慌てて返事を返し、表情を引き締め内容を復唱する。

 フリオニールの言葉を正確に復唱できた護衛に満足気に頷くと、次の指示を出した。


「令嬢は重傷だが問題ない。私がアルディ家に運ぶ。お前たちは、襲撃した男たちを連れてアルディ家に戻れ。逃げ出さないよう魔法をかけておいてやる」


「はっ! 承知しました。……それに今回のこと。アルスカイザー様がいなければ、私たちだけでなくお嬢様まで……。本当に、ありがとうございました……」


 そう言って深々と頭を下げた護衛は、指示を伝えるため足早に丘を下っていく。


 その後に続くように、フィオナを横抱きにしたフリオニールも丘を下り始めた。

 残り少ない魔力の使い道は決まっている。ここは自分の力で歩くしかない。ここまで魔力を消費したのは何時(いつ)ぶりだろうか……。少し疲れを感じるが、フィオナに比べたら大したことない。


(間に合ってよかった……)



 自分がいれば守りきれる。

 ひとまず安堵するフリオニールだった。

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