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23. アリシア王妃のご乱心

「どうしました? ため息ばかりついて……」


 アリシア王妃に問われ、フィオナは我に返った。

「すいません。……家のことを……思い出してしまって」


「そう……。そろそろ一月が経つかしら。アルディ領から出たのは初めてと言ってましたね。ホームシックかしら」


 美しい顔に憂いをのせて自分を心配してくれる王妃に、フィオナは心の中で謝った。


(ごめんなさい……王妃様。本当は違うんです。半分は合ってますけど……)


 いつものように、王妃の間で行儀見習いとしての時間を過ごしていた時のこと。見かねたアリシア王妃が気遣ってくれたのだ。



 行儀見習いとして、アリシア王妃と一緒に過ごす時間は楽しい。家庭教師から習う勉強といった感じではなく、おしゃべりをしながら、淑女の代表である王妃の仕草や考え方を見て学ぶ。


 社交界の中心である王妃は、きっと色んな面を持っている賢い人だ。社交界に疎く、辺境伯の娘であるフィオナが話し相手では物足りないと思うのだが、そんな素振りを全く見せず朗らかに接してくれる。

 「私の娘になってくれればいいのに」と言ってくれる分には、良い関係を築けている。


 最近元気がないフィオナを気遣うのも当然だろう。




 人生で一番落ち込んでいるといっていいフィオナは、明らかに覇気がない。いつも前を向いていたアメジストの瞳は伏し目がちになり、口数も少ない。


「正直に言いますが、私はあなたのそういうところ、好きですわ。感情に素直で嘘がつけない純粋さも。……でも、淑女としては失格です。社交界では生きていけませんわよ」


 王妃の指摘をフィオナは肯定するしかない。今の自分は情けない姿をさらしている。王妃の言う通りだ。


「はい、その通りです……。アリシア様」


「よろしい。では、レオンハルトの所に行きましょうか」


「……はい?」

 どうしてそうなるのか。分からない。


 惚れ惚れするような優雅な微笑みを浮かべると、王妃は颯爽と立ち上がりフィオナの手をとって部屋を出ていく。


「私は王妃で大抵のことは押し通せ……。ゴホン、叶います。そして、叶えてあげることもできるのですよ。魔法のようにとはいかないのが、悔しいのだけれど」


「それと、王太子様とどう関係があるのですか?」


「王国の力を使えば、あっという間に解決できるということです。あなたの元気な姿を早く見せてちょうだいな」


 アリシア王妃の言葉に驚きを隠せない。私のために王国の力を使うとは……レオンハルトも迷惑だろう。考えられない。


「私はただの貴族令嬢に過ぎません。お忙しいのに、お手を煩わせるなんてとんでもない。やめましょう!」


「良いのです。女官や侍女だって休みを取る権利があるのです。あなたにも必要なことだわ。入るわよ! レオン」


 そう言って、レオンハルト専用の執務室の扉を衛兵に開けさせると、強引に部屋に入っていく。




 執務室には4人の優美な男性たちがいた。


 王太子のレオンハルトに、魔導士のフリオニール、近衛騎士のディーン、そして宰相補佐のジークフリート。


 王国の未来を担う青年が勢揃いしている。皆、建国以前から続く家柄の後継者たちで、美しさのタイプは違うが美貌の青年たちである。

 貴族令嬢、理想の結婚相手ランキングの1位から4位を占める青年たちのキラキラした光景にめまいがしそうだ。


 執務の途中であるらしい机の上には、文字や数字が並んだ書類や地図、ペンなどが散らばっている。


 明らかに「仕事中」といった様子にフィオナは動揺するが、アリシア王妃は気にしない。「お邪魔するわね」と4人に声をかけると、優雅にソファーに腰掛ける。もちろん、隣にフィオナを座らせることも忘れない。




「……母上、どうしましたか? ご覧の通り、少々立て込んでいるのですが……」


 レオンハルトが聞いてくる。3人の側近たちも乱入してきた王妃とフィオナを見ているが、妙に落ち着いた様子から、王妃の乱入騒ぎはよくあることなのかもしれない……。


 でも、自分のこととなると話は別だ。

(ごめんなさい、レオンハルト様……)


 恥ずかしくて顔が上げられない。フリオニールに見られていると思うとますます緊張する。フィオナは縮こまった。


「レオン、お願いがあるの。フリオニールをかしてちょうだい」


「「……は?」」


 王妃の突飛な発言に、レオンハルトとフリオニールの声が重なる。


 フリオニールの名前を聞いたフィオナの胸が「ドクン」と大きく跳ねる。王国の力をかりると言っていた王妃の言葉を思い出す。何を言い出すつもりなのか。


「ホームシックでフィオナの元気がないのよ。馬車を使うと時間がかかって大変でしょう。だから、……フリオニールの転移魔法で、フィオナをアルディに連れて行ってほしいの。フィオナにも休暇は必要よ。駄目かしら?」


「っ!」


 何てことを言い出すのだろう……。フィオナは顔を上げて王妃の言葉を否定しようした。しかし、そんなことをしては不敬に当たる。二人きりならまだしも、ここには王太子や側近たちがいるのだ。王妃とレオンハルトの顔を見比べながら、この事態を収める案がないか考えるが思いつくはずもない。


(どうしたらいいの?……)


 王妃がここに来た理由を聞いたレオンハルトは、フィオナに視線を移すと、しばらくして口を開いた。


「ホームシックか……、確かに元気がなさそうだ。いいだろう。フリオニール、連れて行ってやれ」


 フリオニールにそう命じると、続けてフィオナにも告げる。


「2日位なら問題ないよ。王家の神殿にも行きたいだろう。明日の夜には戻っておいで」


 自分の意思とは関係なく決められていく。お願いされたフリオニールも迷惑だろうに、断る隙さえ与えられていない。


「フリオ、今から行ってくれ。午後の執務に間に合うように戻って来てくれればいい。これで問題ないですか? 母上」


「もちろんよ。ありがとう、レオン。では……ごきげんよう、みなさん」


 アリシア王妃は来た時と同様に優雅に部屋を出ていく。違うのは、フィオナを伴っていないことだ。残されたフィオナは居たたまれない。4人の青年から注目されることが、こんなに恥ずかしいなんて……。


 フリオニールに恥ずかしいドレス姿をさらした時といい勝負だ。


「フリオ、フィオナを頼んだぞ」


 レオンハルトの命令には従わざるをえない。フリオニールは微かに頷くと、フィオナの側に寄り「行くぞ」と声をかけてくれる。


 戸惑う気持ちはもちろんある。でもアルディ領に帰れるのだ。ここは、アリシア王妃やレオンハルト、フリオニールの好意に甘えることにしよう。




 王宮でも自分を気遣ってくれる人がいる。その人たちの存在を忘れては申し訳ない。フィオナは、目の前の霧が晴れていくような気がしていた。

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