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19. 触れあえる距離

 王宮の庭園は専門の庭師による手入れが行き届き、芸術品のように美しい。四季折々に咲く花々をあしらった趣ある庭園や、凝った造形を主とした個性的な庭園など、王宮の広大な敷地に彩りを添えている。


 ゆっくり観賞したいけど、今は仕方ないわね……。




「ストラスさ~ん、出てきてくださ~い」


 生け垣の奥を覗くフィオナは令嬢としては残念な姿だ。両手、両膝を地面につけ、王宮で用意された上質なドレスが少々汚れてしまっている。この姿を誰にも見られないようにしなければ。フィオナは目立たないようにひっそりと声を出していた。

 半時前から探している子うさぎのストラスは小ささが売りだ。目撃例から、ここにいる可能性が高いと考えたのだが違ったのだろうか?


(もう……帰ろうかしら……)



 フィオナが半ば諦めかけて立ち上がろうとした時、艶のある低音の声が耳許で聞こえた。


「見つかったか」

「!」



 フィオナの低い姿勢に合わせるように、片膝をつき身を屈めたフリオニールが聞いてきた。フィオナの背後から寄せられたフリオニールの顔が近い。フィオナの鼓動が跳ね上がる。


(隠れている私に合わせてくれなくても。……心臓に悪いです)



 夕暮れ時の空のお陰で助かった。

 頬の赤さが目立たなくてすむ。



「アッ、アルスカイザー様。近いです」

「そうか? 私は気にしないが」


 そう言って、立ち上がるフリオニールがフィオナの手を取って一緒に立たせてくれる。


 目の前にいるフリオニールと目が合った。赤色と金色の美しい瞳がフィオナにまっすぐ向けられている。こんなに間近に見られるのは久しぶりだ。


「……どうしてここに?」


「お前の部屋を訪ねたら、ストラスを探して出かけていると。あとは衛兵たちから聞いた。お前を探すのは、なかなか楽しかったぞ」


 アルディ領で会ったフリオニールを彷彿とさせる。王宮で何度か見かけた読めない表情とは違い、青年らしく率直な気持ちが伝わってくることもまた、嬉しかった。


 フリオニールの顔に浮かぶ微かな笑顔がフィオナに期待させるのだ。会いたかった……と。


 自分の都合のいいように考えては駄目だと分かっている。でも……私と同じ気持ちであればいいのに。そう願ってしまうのは仕方がない。





「心配するな。ストラスはウォルスに探させる。……ウォルス、みつけたら部屋に届けてやれ。いいな」


 ストラスを物のように表現するフリオニールの命令に従って、銀狼のウォルスが何も言わずに走り去る。ここにはいなかったようだ……。


「あいつに任せておけば問題ない。そんな不安そうな顔をするな、フィオナ」


 フィオナの不安そうな表情はフリオニールのせいだ。ストラスのせいではない。しかし、この状況ではそう思うのが自然だろう。


「ウォルスさんなら、すぐに見つけてくれそうですね。ありがとうございます。では私も部屋に……」



 ……思い出した。フリオニールが部屋を訪ねたと言ってたことを。


「あっ、何か用件があったのでしたね。時間を取らせてしまって申し訳ありません」


 頭を下げたフィオナの肩に優しく触れ、フリオニールは顔を上げさせた。


「謝らなくていい。探すのは楽しかったと言っただろう」


「……でも」


「それに、謝るのは俺のほうだ。王宮に知り合いが少ないお前に寂しい思いをさせたんじゃないかと……。だから、早く伝えねばと焦って、先触れも出さず部屋を訪ねてしまった。……令嬢たちの前で声をかけないのは、お前のためだ。無視している訳じゃない。すまない、今頃になって……」


「…………」



 宮廷魔導士として、また王太子の側近として、フリオニールは仕事をするために王宮に出仕している。

 王宮で令嬢たちに囲まれているフリオニールを見かけることがあっても、それは執務の合間であって遊んでいるわけではない。

 それなのに、このことを伝えるために、フリオニールは時間を作って自分の部屋を訪ねてくれたのか。




「フィオナ、聞いているか?」


「ええ……」


(優しいひと……)

 フィオナのアメジストのような瞳が夕日に照らされキラキラと光った瞬間、涙が一筋頬を伝った。


「なぜ……、泣くのだ」

 フィオナの頬を伝う涙を指で拭いながら不思議そうに聞いてくる。

 今日のフリオニールはおかしい。フィオナをこんなに甘やかしていいのだろうか? そんなことをされると勘違いしてしまう……。



「……嬉しくて。声をかけられなくても当然だって分かってたのに。皆さんと仲良くなりすぎて浮かれていたんですね、きっと」


 フリオニールは黙って聞いている。フィオナを見つめる美しい双眸が穏やかに光を反射する。


「でも、アルスカイザー様は、そんな私の気持ちにも気づいてくれた。ちゃんと言葉にして伝えてくれました。嬉しいに決まっています」


「……そうか。やはり伝えることは大事なんだな。これからは気をつけることにしよう」

 フリオニールも気になっていたのだろうか。安心したように微笑む。


「それから、私のことは名前で呼べ。二人きりの時は畏まらなくてもいい。私も、……レオンハルトもフィオナと呼び捨てにしていただろう? 秘密を共有する仲間だ。遠慮するな」


「はい」


「部屋まで送っていこう。ストラスも見つかっている頃だ。ウォルスを少しだけ撫でてやってくれると助かる」



 先を行くフリオニールの背中を見ながら、フィオナは自分の想いが形になりつつあるのを感じていた。


 このまま自分の想いを認めてもいいのだろうか?

 でも受け入れてくれなかったら……。このまま自分の胸に封印しておく方がいい。


 初めての恋は実らないって聞くもの……。

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