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17. フリオニールの自覚

 王太子の執務室に向かっている途中、いつものように令嬢たちに囲まれる。いつもと違うのは、自分を囲む令嬢たちの向こうにフィオナがいることだ。


 目の前の令嬢たちの群れに紛れることなく、一人、侍女を従えてこちらを見ているだけのフィオナに、なぜかフリオニールはもどかしさを感じた。


 令嬢たちの群れに、フィオナが気後れしたせいもあるだろうが、フィオナは身動きせずただ佇んでいるだけだった。侍女に何かを伝えることもなく、ただ静かに受け止めているように見える。


 令嬢の相手をしながら、フィオナの方へ顔を向けると目が合ったが、積極的な令嬢に腕を取られて視線を逸らす羽目になる。


 そして、フィオナが立ち去っていくのが見えた。


(追いかけたい……)


 しかし、それをすれば令嬢たちの目の敵にされてしまうのは明白だ。王妃付きの行儀見習いとして王宮に呼ばれたフィオナは、ただでさえ注目を浴びている。


 今日の午後の執務前に、王太子の執務室に来るよう伝えている。話ならその時にできるだろう。それに、アリシア王妃との時間さえ終わらせれば、フィオナには自由時間が与えられている。時間はあるはずだ……。


 ウォルスや悪魔ストラスのことがなければ、自分と関わりを持つことなく、辺境のアルディで静かに過ごせただろう彼女に、迷惑をかけている自負はある。だが、それだけではない何かが自分の感情を乱し始めている。


 去っていくフィオナの後ろ姿を見ながら、フリオニールは自分の想いを自覚していた。


(俺は、フィオナに惹かれているのか……)



         …☆…☆…☆…



 王太子の執務室で、レオンハルトとともにフィオナを迎えたフリオニールは、自分の想いを自覚したせいかフィオナにかける言葉が見つからなかった。


 無言でフィオナを出迎えてしまったフリオニールは、部屋の主である王太子のペースに乗せられ、フィオナに話しかける機会を失ってしまっている。


 気落ちしたようなフィオナの表情には気付いている。本来の笑顔が出しきれていないフィオナに「どうしたのか?」と声をかけてやりたいのに、それさえも……できないのだ。


 フリオニールは苦々しく主を見つめた。

(レオン……。策略は他で使え)



         …☆…☆…☆…



 フィオナは悲しい気持ちを振り払うように努めた。落ち込んでいては王太子に失礼だ。フリオニールに会いに来たわけではないのだから……。



「初めまして、私がレオンハルトだ。フリオニールと会うのは2度目かな?」


「はい、そうです」


「王宮に呼ばれた理由は気付いている?」


「はい……」


 自分から話していいものなのだろか……。フィオナは思わず視線をさ迷わせると、フィオナを見ていたらしいフリオニールと目が合った。


「……殿下、すでに報告済みでしょう。令嬢が戸惑っておられます。率直に聞いてみたらどうですか」


 黙りこんでしまったフィオナに、フリオニールが助け船を出してくれた。王宮に来てから初めて聞く記憶の中の声が、沈んだフィオナの気分を少しだけ良くしてくれる。


「ごめん、ごめん。つい癖で。話しづらいよね」

 レオンハルトが笑いながら謝罪する。


「予想してたより綺麗だったから…つい。ウォルスが言っていた通りだった」


「……?」


「君は、ウォルスが悪魔だと知ってて毛を撫でてあげたの? 怖くなかった? 私には到底、君の真似はできないね」


「えっ! 殿下は触れないのですか? ……冗談、ですよね」


「本当だよ。撫でさせてもらったことなんて一度もない」レオンハルトは、ウォルスに向かって確認をとる。


「あぁ、俺の許可を得ずに触れてくるやつは噛んでやるからな……」

 凄みを効かせたウォルスに、フィオナが戸惑いながら問いかける。


「ウォルスさん、……本当なの?」


「フィオナは別だ!」

 焦った様子でウォルスがフィオナに寄ってくる。少し潤んだようにも見える赤い瞳が懇願を伝えてくるようにも見えて、フィオナは安心させるように、ウォルスの頭を撫でてやった。


「ふーん……。フィオナにはこうなんだ。何でなんだろう? フリオは知っているのか?」


「……知りません」


 悪魔を怖がらないフィオナとフィオナに懐く悪魔たちの様子に、さすがのレオンハルトも困惑を隠せていない。


 王太子とフリオニールが首を傾げる側で、ウォルスとストラスがフィオナの膝を取り合っている。とりあえず、ストラスが場所を譲り、ウォルスも頭を乗せることで落ち着いたようだ。




「こほん。……改めて言おう。君が神殿の地下で見聞きしたことは国の秘密だ。ギードの森の秘密よりも知っている人は限られている。アルディ伯爵も知らないことだ。君は秘密を抱えて生きていくことになる。その覚悟はできているかい?」


 執務室らしい雰囲気に変化した空気に呑まれそうになりながら、フィオナは自分の思いを告げた。


「……覚悟はまだ、できていません。私が秘密を守り続けることができるのは、隠された神殿が侵されてはならないものだと理解できているからです」


 少し間を置いて、フィオナは続けた。


「国の守り神が悪魔であることは知っています。王家の神殿に、ストラスさんが現れたことで予想はできているのですが……」


 レオンハルトとフリオニールは予め打ち合わせていたのだろう。ウォルスがフィオナに見せる態度も決め手となったようだ。

 二人は顔を見合せて頷き合うと、フリオニールが説明を始めた。


「神殿の地下は魔界へ通じているのだ。数十年に一度、そこで悪魔を呼び出し契約を交わしている。悪魔の契約相手は、代々のアルスカイザー侯爵家の当主。他に聞きたいことはあるか?」


「……アルスカイザー様は、長く生きられないのですか?」ポツリとフィオナがつぶやく。


「えっ!」

「ぷっはっ!」

 フリオニールは戸惑い、レオンハルトが吹き出した。


「すいません……。命を2度削っているって聞いたものですから、つい……」


 教えてあげたらと勧めてくるレオンハルトと、フィオナの側にいるウォルスのからかいを含んだ視線を受けながら、フリオニールは気まずそうに答えた。


「人並みには生きる……」

「そうなのですね。良かった……」


 答えを聞いたフィオナが笑顔を見せる。


「納得した? さっきまで元気がなかったけど、フリオニールを心配してたんだ。……ところで、フィオナは何か聞いてる? ストラスのこと」


 レオンハルトから新たな疑問が飛び出した。

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