11. 王宮にて:変わらない日常
「きゃーっ、フリオニール様よ! いつお会いしてもとても素敵……」
「本当に……。美しい黒髪に赤と金の瞳。まるで神様が作られた芸術品のようだわ」
「憂いを帯びたお顔も素敵なの。どことなく陰があって……癒してさしあげたくなるのよね」
「あんなにお美しくて家柄も素晴らしいなんて……」
「国一番の魔導士で王太子様の側近。これほどの殿方はそうそういませんわっ!」
「顔と名前を覚えてもらわないと!」
「お待ちなさいっ! 抜け駆けは許しませんわよ!」
「きゃーっ! フリオニールさま~」
王宮の門をくぐると表玄関である逢美宮を避け、夕暮れ時の人気のない回廊を選びつつ、フリオニールが目指す宮まで近づいた時だった。いつものように歓声が聞こえてきた。
(何も変わってない……)
ここは王宮の一角。宮仕えの魔導士が集う夢幻宮へと続く回廊である。
この場所に限らず、同じような光景がそこかしこで繰り広げられるようになって久しい。貴族や警備にあたる衛兵や近衛兵、女官や下働きの者に至るまで、王宮にいる全ての人々が見慣れた光景となっている。
黄色い歓声をあげ、我先にと名乗りをあげる令嬢たちに囲まれることとなったフリオニールは、不機嫌な顔を隠しもせず、いつものように令嬢たちを捌いていく。
「いつ舞踏会にいらっしゃいますの?」
「……わからん」
「薔薇の花が見頃を迎えてますの。ぜひわが屋敷にいらっしゃって」
「……断る」
「あちらの東屋でお話でも……」
「……」
魔法を使ったとはいえ、遠方から帰ってきたばかりなのだ。召喚の儀式もこなしている。群れをなす令嬢たちの相手をする気分には到底なれない。
後ろにいるウォルスに目配せすると、フリオニールの前に進み出てきたウォルスが微かなうなり声をあげ、令嬢たちを牽制する。
「「「「……!」」」」
大きな獣を苦手とする令嬢たちが怯んで道を空ける。大部分が遠巻きになり歩きやすくなった。堂々とした体躯の狼、ウォルスが威嚇すれば、さすがに恐ろしい。
それでも寄ってくる令嬢は絶えない。
青年のうんざりした様子から、群れをなしてアピールすることは逆効果だと、令嬢たちも分かっていると思う。なのに、群れをなさずにいられないのは悪魔のせいなのか……。
フリオニールの脳裏に、蜂蜜色の髪とアメジストの瞳をした娘が浮かぶ。
フィオナと過ごした優しい時間を思い出すと、令嬢たちの相手をしてもいいように思えてくるのだが……。
(このなかに、フィオナのような娘がいるのか?)
フリオニールは歩みを進めながら、鮮やかに残る記憶の中の娘に思いを馳せた。




