↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『身代わりに嫁いだ氷の辺境伯様、私への激甘な心の声が魔導具でダダ漏れです〜専用工房で溺愛されてます〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/50

EP 13

 魔物の大侵攻と、夫婦の初陣

 お互いの心を確かめ合い、甘く熱い抱擁を交わしたクラウスとリゼット。

 長かったすれ違いが終わり、ようやく本物の夫婦になれた幸福感に浸っていたその時――。

 ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 辺境伯邸、ひいては領地全体に、けたたましい警鐘の音が鳴り響いた。

 それは、最上級の非常事態を告げる合図だ。

「な、何事だ!?」

 クラウスがハッとリゼットから身を離し、窓の外を睨みつける。

 バンッ! と応接間の扉が開き、血相を変えた副団長が飛び込んできた。

「閣下! 魔物の大群(スタンピード)です! 南の国境地帯から、数万を優に超える魔物が、我が辺境領地へ向けて雪崩れ込んできています!」

「南だと? 北の雪山からではなく、王都の方角からか!?」

「はい! 斥候の報告によれば……どうやら、王都の防衛結界が完全に消失した模様! 結界の光を失った王都から溢れ出した魔物たちが、新たな魔力の源――我が辺境の『新結界』の光に引き寄せられ、一斉に進路を変えて押し寄せているようです!」

 その報告を聞き、リゼットは息を呑んだ。

(王都の結界が、消失……!?)

 王城の空調魔導具だけでなく、都市全体を守る結界魔導具までもが、メンテナンス切れで完全にショートしてしまったのだ。

 有能なリゼットを追放し、無能な義妹と魔導士たちに管理を丸投げした結果がこれだ。まさに、王都の自業自得による大崩壊である。

「チッ……あの愚か者どもめ。自分の首を絞めるだけならともかく、俺の領地にまで尻拭いをさせようとはな」

 クラウスは舌打ちをすると、瞬時に『氷の辺境伯』の冷徹な顔へと切り替わった。

「全軍に出撃準備を命じろ。結界の内部に一匹たりとも魔物を入れるな。国境線で完膚なきまでに叩き潰す!」

「はっ!」

 副団長が駆け出していく。

 クラウスはリゼットを振り返り、その両肩を力強く掴んだ。

「リゼット。お前は邸の奥の、最も安全なシェルターに避難して――」

「私も行きます!」

 リゼットは、クラウスの言葉を遮って真っ直ぐに彼の黄金の瞳を見つめ返した。

「なっ……馬鹿を言うな! 戦場は遊びではない! 万が一お前に何かあれば……!」

「私は辺境伯の妻であり、この領地の専属魔導具師です!」

 リゼットは一歩も引かなかった。

「私が張り直した結界の様子も見たいですし、何より……」

 彼女は、クラウスの胸元を指差した。

 そこには、王都の使者が来る直前、彼に渡すつもりでエプロンのポケットに入れていたあの『ループタイ』――紫電の角と永久氷晶で作った専用魔導具があった。

「旦那様のために作ったその防護魔導具が、ちゃんと旦那様をお守りできるか、私の目で見届けさせてください。……それに、私が行けば、絶対に皆様の力になれます」

 凛とした彼女の宣言に、クラウスは息を呑んだ。

『(あああああああああ!!!! なんて気高くて、強くて、美しい人なんだ!! 俺の妻は最高だ!! 俺のために戦場にまで来てくれるというのか!? だが危険だ! 危ない! しかしこの真っ直ぐな瞳を拒絶することなど俺にはできない!!)』

 翻訳魔導具からは、相変わらずの限界突破した心の声がダダ漏れになっている。

 激しい葛藤の末、クラウスは深く息を吐き出し、負けましたとばかりに小さく笑みをこぼした。

「……わかった。だが、絶対に俺の傍から離れるな。お前のことは、俺の命に代えても守り抜く」

「はいっ!」

 二人は頷き合うと、共に決戦の地となる国境の防衛線へと向かった。

   ***

 辺境領地の南部に広がる平原。

 そこは今、地獄絵図と化していた。

「押し返せ!! 一歩も引くな!!」

 怒号が飛び交う中、帝国最強を誇る竜騎士団が、黒い津波のように押し寄せる魔物の大群と激突していた。

 オーク、大毒蜘蛛、岩トカゲ、さらには空を覆い尽くすほどの凶鳥の群れ。王都周辺の森に生息していたあらゆる魔物が、狂乱状態となって辺境の結界へと群がっているのだ。

「ギャオォォォォッ!!」

 魔物の咆哮を切り裂くように、一際巨大な闘気の刃が閃いた。

「――遅い。失せろ」

 最前線で大剣を振るうのは、漆黒の甲冑を纏ったクラウスだ。

 彼の剣が閃くたび、十匹、二十匹という魔物がまとめて吹き飛び、消し炭に変わっていく。

 さらに、魔物が背後からクラウスに不意打ちを仕掛けようとした瞬間、彼の胸元の『紫電のループタイ』から強烈な雷撃が自動的に放たれ、魔物を黒焦げにして弾き飛ばした。

「すごい……! 完璧に稼働してる!」

 後方の安全な高台――結界の内側から身を乗り出して戦況を見守っていたリゼットは、自作の魔導具の働きにガッツポーズを決めた。

 しかし、戦況は決して楽観視できるものではなかった。

 クラウス一人は無双しているものの、敵の数が異常すぎるのだ。数万という魔物の波状攻撃を受け、他の竜騎士たちは徐々に疲労の色を濃くしていた。

「くそっ、キリがねぇぞ!」

「剣の刃がこぼれてきた! リゼット様に直していただいたばかりだっていうのに、いくらなんでも数が多すぎる!」

 強力な付与を施した武具であっても、休む間もなく何千回と硬い魔物の甲殻を叩き斬り続ければ、いずれ限界が来る。

 陣形の端から少しずつ押し込まれ、騎士たちの間に焦りが広がり始めていた。

(このままじゃ、押し切られちゃう……!)

 リゼットは高台の縁に立ち、眼下の戦場を見下ろした。

 血を流し、息を切らしながらも、この美しくて温かい領地を守るために必死に戦う騎士たち。

 そして、先頭に立って剣を振るう、愛する旦那様。

(私も、戦う。私のやり方で!)

 リゼットはボストンバッグから、急遽アトリエから持ち出してきた「巨大な魔力増幅器(メガホン型の魔導具)」を取り出した。

「騎士の皆様! 武器を、防具を、私に向けて掲げてください!!」

 リゼットが魔力増幅器を通じて叫ぶと、その澄んだ声は激しい戦場の騒音を切り裂き、全騎士の耳に届いた。

「奥様の声だ!」

「指示に従え! 武器を掲げろ!!」

 クラウスの部下たちは、彼女への絶対的な信頼から、魔物の攻撃を躱しながら一斉に剣や槍を天へと掲げた。

 その瞬間、リゼットは胸の前で両手を組み、自身の全魔力を解放した。

「私のアトリエから生まれた愛しき武具たちよ! 今こそその真価を解放しなさい!!」

 リゼットの足元から、莫大な翠緑の魔力光が竜巻のように立ち昇る。

 それは、ただの魔力供給ではない。世界を書き換える神業――広域への『概念付与』だ。

「――『絶対非破壊』!!」

「――『威力百倍』!!」

「――『超速疲労回復』!!」

 バァァァァンッッ!!

 リゼットの宣言と共に、高台から放たれた無数の光の粒子が、戦場にいるすべての竜騎士たちの武器と鎧へ、まるで流星雨のように降り注いだ。

 光を吸い込んだ武具たちは、一斉に太陽のような眩い輝きを放ち始めた。

「な、なんだこれ!? 体が……羽みたいに軽いぞ!?」

「さっきまで刃こぼれしてた剣が、元通りに……いや、光り輝いてる!」

 一人の騎士が、試しに目の前に迫ってきた巨大オークに向けて、軽く剣を振り下ろした。

 ――ドゴォォォォンッ!!

 剣から放たれた斬撃が、巨大な光の刃となって地を走り、オークどころかその後方にいた数十匹の魔物を一直線に消し飛ばし、大地に深いクレバスを刻み込んだ。

「は……? ええええええっ!?」

 剣を振った本人が一番驚愕し、目をひん剥いている。

「す、すげえええっ!! なんだこの力は!!」

「疲れも完全に吹き飛んだ! 力が無限に湧いてくるぞ!!」

「これが奥様の魔法か!! うおおおおおっ! 俺たちは無敵だ!!」

 リゼットの広域付与によって、ただでさえ精強な竜騎士団の数百名が、一人残らず「一騎当千の超人」へと物理的にクラスチェンジを果たしてしまったのだ。

「反撃開始だ!! リゼット様に、我らの勝利を捧げよ!!」

 副団長の号令と共に、光輝く武装を纏った騎士たちが、圧倒的なスピードと破壊力で魔物の大群を蹂躙し始めた。

 剣を振れば大地が割れ、盾で殴れば魔物が空の彼方へ吹き飛ぶ。もはや戦闘というよりも、一方的な大掃除であった。

 そんな中、最前線にいたクラウスは、後方の高台で息を弾ませているリゼットを見上げ、その黄金の瞳を熱く揺らしていた。

『(あああああああああああああああああああああああ!!!!!!)』

 リゼットの耳の翻訳魔導具から、今日一番の、宇宙の果てまで届きそうな特大の歓喜の絶叫が響き渡った。

『(俺の妻が!! 凄すぎる!! 全軍に特級魔法の概念付与を同時に展開するだと!? 伝説の大魔導師でも不可能だぞ!? なんて美しくて、凛々しくて、頼もしいお姿だ!! 愛している!! 愛している!! 今すぐ駆け寄って抱きしめたいが、まずはこのゴミ共を片付けるのが先だ!!)』

「ふふっ……」

 大音量の愛の告白に、リゼットは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに微笑んだ。

 戦況は完全に逆転した。

 無敵のバフを得た辺境軍の前に、数万の魔物たちはもはや恐れるに足らない。

 だが、その圧倒的な勝利の空気を切り裂くように――。

 ズズンッ……!

 突如、戦場の奥深くから、大地を揺るがす巨大な足音が響き渡った。

 王都の方角から立ち上る土煙を割って姿を現したのは、小山ほどもある漆黒の巨体。全身を分厚い岩の装甲で覆い、六つの赤い目を持つ、超巨大なボス魔獣――『災厄の岩石竜(ベヒーモス)』だった。

「ギャルルォォォォォォッッ!!」

 その咆哮だけで、周囲の空気がビリビリと震え、並の騎士なら鼓膜が破れそうになる。

 王都の結界を破り、魔物の群れを率いてきた真の元凶が、ついにその姿を現したのだ。

「……大物が残っていたか」

 クラウスが愛剣を構え直し、静かに闘気を練り上げる。

 夫婦の初陣のクライマックスは、いよいよ最大の山場を迎えようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。