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二十話・追放と決意

 フラウが目を覚ましたのは、白い大理石に囲われた教会の一室。そこには魔法戦士の少年も、武闘家と盗賊の少女もいた。


 ──良かった。皆、無事だった。


 フラウはそう安堵するも、彼らが放つ重苦しい雰囲気に気づく。


 魔法剣士の少年は、固い表情で口を引き結んでいた。武闘家の少女は、怯えているような眼差しをこちらに向けている。盗賊の少女は、軽蔑するようにフラウを睨み付けていた。


 ──時に人間が、己の理解を超える強大な力を目の当たりにしたならば、他の何を差し置いても心の内に浮上する一つの感情が存在する。恐怖、という感情が。武闘家は、自分を助けてくれた目の前の少女に対して、どうしようもない恐怖の思いを抱えていた。


 あるいは自分とは次元の違うものが、さも同格の仲間であるかのような様相であれば。時にそれは、騙されていたと感じ、内心で見下して馬鹿にしていたのだと思い至る。盗賊がフラウに対して見出だす感情は、そのようなものだった。


 そうして、魔法剣士の少年は、その重く閉ざされた口を無理矢理に開く。


「……すまない。三人で話し合って、決めた。君をこのパーティーから……追放する」


「そう、ですか……」


 フラウはその言葉を、驚くことなく受け入れた。それは彼女にとって、当たり前のことだった。元より自分が誰かに認め求められることなど、あるはずもないのだから。


「これは、手切れ金だ」


 少年が、小さいながらも貨幣の詰まった布袋を差し出した。


「……大丈夫です。そんなものは受け取れません」


 全ては自分が悪いのだとフラウは思う。だというのにこれ以上、彼らから何かを与えられたくはなかった。


「受け取ってくれ。……でなきゃ、俺の気が済まない」


 少年は、絞り出すようにそう言った。彼の瞳に映るのは、怯えや軽蔑の色ではなかった。そこにはフラウ自身がよく知る、罪悪の念が込められている。


 彼だけは、フラウを否認していなかったのだ。しかしそうであっても、仲間の気持ちを蔑ろにする者が、どうしてパーティーをまとめられるだろう。彼は苦渋の思いでフラウの追放を決断した。だからこそ、彼女に詫びを示さなければ気が済まないのだ。


 ──受け取ったとしても、きっとこの人の心が晴れるわけじゃない。


 フラウはそう思った。それでもこれは、パーティーに誘った者として、彼が最大限出来うる責任の果たし方なのだろう、とも。




・




 再び独りとなったフラウは、とにもかくにも自分の魔力をどうにかしようと決意した。少年の手切れ金を使って魔導書を買い、魔法使いの訓練所に赴いた。


 だが魔導書を読み込んでも、どうにも自分の魔力の扱い方が分からなかった。そして訓練所の指導を受けてもそれは変わらず、しまいには魔力が暴走して施設の一棟を破壊してしまうことにもなり、手に負えないと投げ出された。僅かに残った金銭は麗しき『牛丼』の二文字の前につゆだく、もとい露となって消えた。


 ──とにかく日銭を稼がなきゃ。


 そう決めて、フラウは街の近くの森へ足を踏み入れた。歩きながらフラッシュバックを起こし、家族と村を見捨てたこと、そして芋づる式に少年の一団や訓練所の者への罪悪感が引きずり出され、精神の苦痛を堪えながら彼女は歩き続けた。従って、周囲に目を向けるような余裕はなかった。


 何かを踏んだことに、フラウは気付く。それは柔らかくて、そして濡れていた。液体の塊のようなそれは──スライムだった。


「わ、あああ!? ごめんなさい!?」


 反射的に謝るフラウに構うことなく、身の危険を感じたスライムはその身体を大きく広げ、飲み込もうと襲い来る。


 ──炎は、駄目。だったら……!


《攻撃力低下(パワーブレイク)》


 フラウがその膨大な魔力を込めて放った攻撃力低下(パワーブレイク)は、スライムの力の全てを奪った。……その結果として。


 ぷに。ぷに。ぷにぷにぷに。


 スライムは、フラウを飲み込むことが叶わない。どころか、自身の身体を当てる度に、何やらひょうきんな音が鳴るばかり。


 ──な、なんかかわいい……!


 このスライムに目と口が付いていれば、一体どんな表情を見せていただろうと、フラウは突拍子もなくそんなことを考えた。ぷにぷにとした弾力はいっそ気持ちよく、あと、良い感じにひんやりしていて気持ちよさがあった。


 とはいえ、どうやら何かがおかしいと察知したのだろう。スライムは逃げ出した。


「……うん。助かった……」


 もはや名残惜しさすら感じていたが、ともあれ危機(?)は去ったのだと思うもつかの間。


 ぐぎゅるるぅ~~~~~~!


 盛大に鳴る腹の音。次いで訪れるは、急激な空腹感。……否、それは彼女にとってもはや慣れきったとすらいえる空腹や飢餓感のそれではなかった。


(力が、入らない……目眩が……する……頭が、痛い……お腹、空い、た…………)


 フラウは歩くこともままならず、膝を突き、その場に倒れ伏した。能動的な魔法の使用による副作用が与えたカロリーの喪失は、それまでどんな飢えに陥っても最低限の生命力を保っていた、彼女の自動的な魔力の保護を突き破った。


それはまもなく彼女の命を終わらせる、飢餓の底だった。


 暗く沈んでいく、彼女の意識。しかしそれは食の匂いを感じ取ることで、明るさを取り戻し、浮上していく。


 そうして顔を上げたフラウの目の前には、暖かな湯気を揺蕩わせるスープがあった。




・




「……行くのね。私なら、すぐにミルのところまで連れていけるわ」


「……はい! アリアさん、お願いします……!」


 ──シンイチさん。貴方は私を命の恩人だと言って頂きました。それはおあいこだと私は言いましたが……本当は、私にとって一番大きな恩は、あの死にそうな時に食べたスープなんです。あんなに美味しいものは、今まで食べたことはありませんでした。


 ですから、もし無事に帰ってこれたなら……また二人で、美味しいご飯を食べましょう。




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