第78話 魂の融合
よく知る浮遊感に襲われ、目を開いた。
(……また、あの夢……。)
あたりは暗く、何も見えないが不安感はない。眠るたびに見る夢、私の記憶であり罪。
そして、目の前に光が現れ近づいてくる。
あまりの眩しさに目を細め、光が通り過ぎるのを待つ。
光が通り過ぎ見えてきたのはお母さんのお墓がある場所、そこにいるのは幼い自分と自分に抱き付いているお母さん。
「お、お母さん、は、離れて……死んじゃう、よ……」
私は黒いドレスを身に纏い、それ以外は何も纏っていなかった。
精一杯抵抗する私。けれどもお母さんは腕の力を緩めてはくれない。
「ごめんね、茜、わがまま言って。だけど、許して。お母さんの命はもう長くはないの。だからね、せめて最期は、茜の手で終わらせて。」
お母さんの身体は光っている。
傷ついたところから修復しそしてまた傷ついて、それの繰り返しだ。
けれども、その光はだんだんと薄くなっていっている。
「……いや、だよ。……お母さんが、いなくなるなんて。」
「押し付けて、ごめんね。……見守って…あげられなくて……ごめん。……蒼
を…お願い……」
光は消えてしまい、お母さんの身体は再生することもなく崩れていっている。
「……茜、……元気でね。世界を……うら、まない、で……。」
私の身体を抱きしめていた手が消え、体にかかるお母さんの体重も消えていく。
最後、消え去る瞬間、お母さんは笑っていた。
「―――――――――!!」
頭の中が真っ白になり、次の瞬間には茜の魔力が世界に満ち、消えた。
そして、世界の記憶からこの時間の記憶が消え去った。
再び目の前は真っ暗になり闇に包まれる。
(私は、何も恨まない……それが、お母さんの最後の願いだから。)
何かを恨んでしまえばお母さんの願いが、お母さんが消えてしまう、そんな思いが心のどこかにあった。
お母さんを殺した罪悪感から目を逸らし、〝私〟を心の奥底に閉じ込めた。
誰かを傷つけて、あの時のことを思い出すのが嫌で〝あの子〟の声を無視し続けた。
『闇が怖い?』
聞こえてくるのは自分の声、自分と同じ〝あの子〟の声。
その声が問うのは、いつの日か蒼に問われたのと同じ問い、あの時は答えられなかった私の核心を突く問い。
今ならば答えられる。
(……蒼が傍にいてくれるならどんな闇だって怖くはない。)
『……そう、だったら向き合おう。光があるから闇があるように、蒼がいるから〝私〟がいる。だから……』
(……もう、逃げないよ。私は貴方で貴方は私だから。)
茜の決意と共にあたりの闇は薄くなっていく。
もう、声は聞こえなかった。
(さようなら、今まで辛いことを押し付けてごめんね……護ってくれてありがとう。)
茜が消える瞬間、微かに聞こえた気がした。
『〝私〟が……幸せであることを……願っているよ。』
「む、気配が変わったか。いや、最初の気配に戻ったようだ。」
戦っていた少女は足を止め、目を閉じている。
アジ・ダハーカは戦い始めて早々に少女に近づくことを止め魔法による攻撃に切り替えていた。
物理的な攻撃はすべて体に届く前にバラバラになり、体に直接かけた魔法も意味をなさなかった。
だが、アジ・ダハーカが近づかないことで茜の攻撃手段もなくなっていた。
「どうした?もう終わりか?」
アジ・ダハーカの声に応じるように茜の目が開かれる。
その目は金色と赤色のオッドアイだった。
アジ・ダハーカは今まで戦ってきた中で目の違いによって戦い方を分けていることに気づいた。
「……フン、造物主、今度はあいつと同じ力か。」
呆れたような声で言うアジ・ダハーカ。
それに対して茜は微笑んで返した。
「……初めまして、アジ・ダハーカ。私の名前は茜、まだ、自己紹介して無かったよね。」
初めまして、その言葉に違和感を覚えたアジ・ダハーカは自分の記憶をたどった。
「……おまえはあいつの言っていた起きた状態か。」
「違うよ。私は〝あの子ら〟が二つに分かれる前の存在だよ。」
誰かが傷つくことを嫌った茜(自分)と悪を望んだ茜(自分)。その二人の変化が本来の茜を起こした。
傷つくことを嫌った茜はもう一人の自分から強さを学び、悪を望んだ茜はもう一人の自分から優しさを学んだ。
そしてその二つの人格が一つの魂に結び付いた。
「まだ、終わりじゃない。私は闇にとらわれているからこそ光を望む。光(蒼)が消えない限り、私は終わらない。」
茜は言い終わるのと同時に駈け出す。
「また、同じ手!!」
同じことの繰り返しだと読んだアジ・ダハーカの声に茜は最後の手札を切る。
「ウリエル様。」
アジ・ダハーカの後ろには翼を広げたウリエル。
茜とウリエルがアジ・ダハーカを挟むように位置取りをしている。
ウリエルは茜の呼びかけに応じるように茜から手渡された黒い剣をアジ・ダハーカに向けて投げる。
アジ・ダハーカの左の頭はしっかりとそれを捉えている。
「甘いわ!!」
翼を嵐のように激しく暴れさせる。そしてそこから生まれた暴風は迫ってきている剣を吹き飛ばし、剣は、ウリエルの方へとさらにスピードを上げ迫っていく。
「っ……!!」
誰もがその暴威に息を飲む。
誰が予想しただろうか。神速にも匹敵する速さで投げられたものがただの羽の一振りで返されるなど。
もし、これを最初から予測しているものがいるのならば、
「……貴方ならそうすると思っていたよ。」
それは、悪と言う立場を理解している者以外にはありえなかった。




