第74話 悪魔の力
「何故、ここが、狙われた・・・」
「知っているはずが、ないだろ・・・」
ルシファーとミカエルは大きめの樹に背中を預け、肩で息をしていた。
昨日の夜遅くに理由も説明されず、菫の墓を護れとゼウスに呼び出されたのだ。
急いできてみると墓に向かって無数の光が落ちていたのだから驚いた。
一撃でも神の力は凄まじいというのにそれがあとからあとからどんどん来るのだ。
相手がそこにいない以上、誰かもわからず攻撃を防ぐしか方法はなかった。
何十本と防いだところで漸く光は止まったがほとんど力は使い果たしていた。
「ルシファー、ミカエル様。」
聞きなれた声が二人のもとに届いた。
声のした方を見上げるとその声の持ち主である茜と蒼が飛んできていた。
二人はルシファーたちの前に降りた。
「二人ともお母さんの墓を護ってくれてありがとう。」
頭を下げてお礼を言う茜にルシファーもミカエルも二人が何かを知っていることに気づいた。
ゼウスから理由は後で説明すると言われていたが、それよりも目の前にいる茜たちの方が詳しいだろうと推測した。
「いったい何があったんだ?」
「ゼウスの頼みで日本の神のもとに行ってたんだけど天之御中主神に捕らえられてたんだよ。自分が王になりたかったのか、僕たちの王の力が欲しかったのか。それで脅しの材料としてここを狙ったんだよ。」
「だけど、その前に私がゼウスに墓を護るように頼んでいたから。」
ルシファーの問いに蒼が何があったかを、茜がルシファーたちがここに呼ばれた理由を説明した。
「……そうか、所でいつもの服とリボンはどうした?」
今の茜は黒いドレスに髪を下ろしていた。
リボンをいつもつけているのを知っている者ならばルシファーでなくとも気が付くことである。
「あ、・・え~と・・・」
茜が言いにくそうに詰まらせていると蒼が溜息を吐いた。
「リボンは服と一緒に天之御中主神に切り刻まれたよ。」
「ねぇ、ルシファー。……これ直せる?」
茜が申し訳なさそうにリボンをルシファーの前に出した。
ルシファーはしばらくの間それを見ていた。
「……あぁ、直せる。暫く時間がかかるから預かっておこう。」
「ありがとう。……騒がしくしてしまったからお墓参りに行ってくるね。」
茜はくるっと向きを変えると墓の方に走っていった。
茜がいなくなったのを確認したルシファーは蒼に声をかけた。
「おい、あの服は何だ?」
「ドレス?」
蒼がルシファーの質問の裏にある隠れた問いには気づかない振りをして表面上だけの問いに答えた。
けれども、そんな答えで騙されてくれる相手でもなかった。
「そうではなくて、あれは魔力そのものを纏っているようにも見える。普通あんな使い方はしない。」
通常、魔力は何かしらの形にしてその瞬間ごとに体から出すものだ。
ベリアルにしても言葉として力をだし、真偽を支配している。
「……まぁ、多分想像している通りだと思うよ。〝あいつ〟が言うには完全に悪魔化した際の姿だと思う。あの日以来封印されたって言っていたからミカエルは見たことがあるんじゃない?」
蒼とルシファーの視線がミカエルに向いた。
ミカエルはその視線から逃げることはせず、二人に答えた。
「……あぁ、私があいつを殺そうとしたときにあの姿になっていた。」
「殺そうとした?」
その話は知らなかったのか、ルシファーの表情が一瞬陰ったが、その話はミカエルと茜の中では決着がついているので蒼は先に進めることを優先した。
「本当のことだけど、今はそのことは置いといて……あんな形になっているのは多分お姉ちゃんの悪魔としての固有能力がそう言うものだからだよ。」
「茜の固有能力?」
力が強い者ならば天使だろうと悪魔だろうと何かしらの能力を備えていることが多い。
そして、今更ながらルシファーは茜が一度もその能力を自分たちの前で使っていないことに気づいた。
「……〝浸蝕〟それが私の力だよ。」
3人の話の途中で茜が帰ってきた。
蒼は茜が帰ってくる前に終わらそうとしていたが間に合わなかった。
「劣化とか風化のようにも見えるけど、〝あの子〟自身が浸蝕だと言っていたから間違いないよ。」
蒼の言う〝あいつ〟や茜の言う〝あの子〟は茜の中で抑えられている悪魔が人格化した存在。
以前茜とベリアルが戦った後にベリアルが言っていた人格の豹変は茜が無意識のうちにその存在から人格を借りていたからでもあった。
「それでこれからどうするんだ?」
茜の気持ちを組んでかルシファーは話を変えた。
それに対して、誰も何も言うことは無くそのまま話を合わせた。
「もう一か所、ゾロアスターのアンラ・マンユに会いに行く予定だよ。」
「……そうか、なら俺も一緒に行こう。ミカエル、お前はどうする?」
「どうせ、連れて行く気なのだろ。あれを攻略するには頭数がいるからな。……恩を返すのだと思えばそれぐらいは構わない。」
ミカエルは茜の左目を見た。
自分たちの仲を取り戻すためにベリアルに対価として捧げた左目。
蒼が創った新しい左目は神の目ではなくなっていた。
「ありがとう、ミカエル様。ルシファーも。」
けれども茜はそんなことは気にしていない。
それだけのことで目の前にいる2人の兄弟の仲が以前のようにはいかなくても戻ってきたのだから。
「じゃあ、行こう。」
蒼の声と共に4人は空へと飛びあがった。




