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神々の箱庭  作者: 星奈
第四章 新たな世界へ
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第72話 見守る者


 「お前たちはその力を悪用するつもりなのか?」


 今まで一言もしゃべらなかった男が突然茜たちに問いかけた。

 名前は聞いていないがここにいるからには相当身分の高い神なのだろう。

 もしかしたら茜たちの用のあるもう一人の神かもしれない。


 「悪用?そんなことするつもりはないよ。僕が力を使うのは基本、役目の時とお姉ちゃんを護るときだけだよ。」


 「私は蒼を護るためとゼウスの願いを叶えるため。」


 茜と蒼の答え、それはどちらも同じことを指している。

 茜たちはゼウスの願いによって生を受けた。

 だからこそ、ゼウスの願いを叶えることは役目でもあった。


 「そんなことより、まだ僕の質問に答えて貰ってないよ。」


 男が襲い掛かってきたためそのままになっていた蒼の質問。

 

 何故、僕たちを呼んだのか。


 「あぁ、そうだった。二人とも、こちらに来るつもりはないか?」


 今思い出したとばかりに頷くアマテラス。

 アマテラスの答えは二人が想像していた通りの物であった。


 「それは、日本の神が治める領域に来ないかと言う意味だよね。答えは否だよ。」


 答えは最初から決まっていると言わんばかりの即答にアマテラスは不思議なものを見るような目で蒼を見た。


 「何故?お前たちはどこかの神という訳ではないだろ?」


 「そうだよ。そもそも国境とは人間が決めたものだ。神がそれに縛られるのは人間の信仰に依存しているからだよね。僕たちは神、ゼウスの信仰(ねがい)によって生まれたんだからそれに縛られるわけがないよ。・・・逆に聞くけど何故、僕たちを欲しがるの?」


 「私たちが王だから?」


 茜の言葉にアマテラスは頷いた。

 二人の目が細められるがアマテラスは気づく素振りもなく言葉を続ける。


 「他の神群からも言われているだろう?」


 アマテラスも男も茜たちがギリシャ以外の他の所に行くことを望んでいるようだった。

 そしてそれが当然だとも思っている。


 「言われてないと思うよ。純粋な興味なんだけど、他の何処の神群がそんなふざけた事を言っていると思うの?」


 「ある程度力のあるところからは誘いが来ているだろう。北欧やエジプト、中国

などからも・・・」


 「それはないよ。中国は知らないけど、北欧は最高神であるオーディンをはじめロキやトールとは交流があるし、エジプトは同じ創造神でもあるトトと交流があるから。」


 少しでも茜たちと交流を持ったものは下手に刺激を与えるよりも手を組んだ方がお互いの為だと否が応でも理解する。

 目の前の神のように理解しない者もいるがその者たちと手を組もうとは思わないし、何よりも日本の神とは関わりたくもなかったというのが本音だ。


 「それにね、どこかに行くとしても日本にだけは絶対に行かないよ。」


 「理由を聞いてもいいかい?」


 「私たちはね人間から生まれた為か人間に近い感情を持ってるんだ。だからあの時一度も助けてくれなかったのに今更その日本の神の中に入ることなんて感情が許さないよ。」


 茜の言うあの時がいつのことかも理解していないのだろうと思う。


 「・・・そうか、残念だ。」


 男はパチッと指を鳴らした。

 すると周りの景色が崩れ落ちるかのように別の場所へと変わっていった。

 牢獄、そう表すのが適切だと思う。

 そして、腕にも枷のようなものがつけられた。


 「お前たちの為に作った特別製だ。そこでは神の力は一切使えまい。」


 その証拠と言うばかりに蒼の掛けていた幻術、が解け元の姿に戻っていた。


 「考えを改めるまでそこから出すつもりはない。他の神のもとに行かれては困るからな。・・・ツクヨミ、見張っておけ。余計なことはするな。」


 「・・・分かりました。」


 男はそれだけ伝えると去っていった。

 その場には茜と蒼とツクヨミだけが残された。

 茜と蒼は立っていても仕方がないと腰を下ろした。


 「これ、僕の神の力ぐらいしか封じてないよね。」


 「そうだね。私の力は使えるし。それでもこの牢事態を破ることは出来ないけど。」


 茜は手を前に持ってきてそれを確認した。

 捕まっているにもかかわらず普通の様子な2人にツクヨミは首を傾げた。


 「何故、そんな風にしていられるのですか?」


 「慌てても仕方がないからね。それにあの勘違いしている神はすぐに思い知るよ。何故、僕たちが王なのか。」


 蒼の言葉にさらに首を傾げるツクヨミに茜は笑って返した。


 「力があるから王なのではないということだよ、ツクヨミ。」


 それっきり2人は何もしゃべらなかった。

 ツクヨミも普段からあまりしゃべらないためこの場所には沈黙が広がった。






 それからかなりの時間が立ち再び男が入ってきた。


 「どうだ、考えは変わったか?」


 「絶対にいや。」


 茜の答えを聞いた男はパチンっと指を鳴らし、茜の身体を鎌鼬が襲った。

 鎌鼬は服を切り裂き肉をも絶った。

 そして茜の母の形見であるリボンをも切り裂いた。

 茜の身体に着いた傷はすぐに塞がり、なくなった。


 「っ……!!」


 「俺は気が短い。答えを改めないようならすぐにでも強硬手段に出る。肉体は傷つかないようだから精神的にな。」


 先ほどの鎌鼬はそれを調べたようだ。

 それだけ言い置くとクックっと喉で笑いながら男は部屋から出ていった。


 「大丈夫?お姉ちゃん。」


 「うん、大丈夫。でも、リボンが・・・」


 自分が傷つけられたことよりも形見であるリボンが切り刻まれたことに茜はショックを受けていた。

 服もこのままではいけないと茜が羽を広げると、今まで来ていた服とは違う黒いドレスのような服に変わった。

 リボンがなくなり髪は腰のあたりまで落ち広がっている。


 「大丈夫、ルシファーならきっと治せるよ。神の力を浴びても形を保っているんだから何かしらの加護がついてたんでしょ?」


 「・・・うん、そうだね。」


 茜が笑って見せると蒼も安心したように笑った。


 「蒼、そろそろ寝た方がいいよ。多分明日が正念場だから。」


 茜が自分の膝を叩きながら言うと、蒼は頷いて頭をそこに乗せ丸まった。

 茜は猫みたいだな、と思いながら蒼の頭を撫でた。

 次第に蒼の身体から力が抜けていき、寝息が聞こえ始めた。


 「貴方は寝ないのですか?」


 「うん、少し話があるんだけどいいかな?」


 「えぇ、自分でよければ。」


 「ツクヨミは13年ぐらい前に日本を中心に世界が滅びようとしたことを知っている?」


 「・・・いえ、知りません。」


 一瞬目を彷徨わせたツクヨミに嘘をつくのが下手だなと思いながら話を続けた。

 いつもなら蒼がいる所でこの日の話はしないけれど久しぶりにこの服を身に着けている為か、あの男の心を見てしまった為か嫌な予感がした。


 遠くないうちにあの子の存在が蒼にばれてしまう、そんな予感。


 だからこそ誰かに話しの一部を知っていてもらいたいと思ってしまったのかもしれない。


 「あの頃はね、私は自分が神だということは知らなくて、ただ悪魔と人間の間に生まれた子という理由で蔑まれてたんだ。そんなある日、一人の天使が私を殺そうとして、その時に私は人間からも神からも世界からも見放された存在なんだと思い、世界に、全てに絶望してこの世界を終わらそうとした。……力を暴走させた私を救ってくれたのは神でもなく、まだ生まれてもいない蒼だった。」


 蒼を撫でていた手が止まった。


 「もしあの時、神が私の前に一掬いの希望でも与えてくれていたならこんなことにはならなかったんだろうなって思うんだ。もう、過去の話だけどね。」


 もし、と言うのは仮定の話であって実際には起こらない、だからこそ茜はすでに割り切っていた。


 「……どうして、自分に話したのですか?」


 「ツクヨミはいつも見守っていてくれたような気がしたからかな。」


 「っ……!!」


 人間界にいたころ月を見るのが好きだった。

 見ているだけでどこか安心できたから夜になると外に出て月を見ていた。

 その安堵感を先日初めてツクヨミに会った時にも感じたのだった。


 『王よ、いつまでここにいるつもりだ?』


 不意に優しい声が耳に届いた。

 小さいころから聞いてきたどこか安心できる声。

 今と違いあの頃は姿が見えなかったけれどそれでも一番近くで見守ってくれた存在であることは変わりようがない。


 「明日には出るよ。心配してくれてありがとう、ノーム。……それより、ウンディーネが暴れてるんじゃ?」


 『あぁ、今はサラマンダーが抑えてる。……何かできることはあるか?』


 「……じゃあ、ゼウスにお母さんの墓を護るように伝えて。あと、ウンディーネとサラマンダーに明日火が上がった場所に来るように……」


 『了解した。……無茶はしてくれるなよ。』


 ノームは姿を消した。

 もともと別の次元にいるのに自分たちより高い次元に来るのは力を使うのだろう。


 「誰と、話していたのですか?」


 ツクヨミには相手の姿も見えていないし、声も聞こえていない。

 それでもそこに誰かがいたと確信している。

 そんなツクヨミの反応に茜はクスクスと笑って答えた。


 「ツクヨミと同じで昔から見守ってくれていた人だよ。」


 それだけ言うと、茜も眠りについた。




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