第69話 新たな世界
力を使い果たした茜と蒼はゼウスの力によって宮殿内に戻ってきていた。
「よく、やってくれた。茜、蒼。」
ゼウスは労わるように二人の頭を撫でた。
普段弱さを見せない二人が他人がいる前で疲労をあらわにしていた。
「ゼウス・・・」
茜の目には周りのことは一切映っていない。
ゼウスを見る目には不安と焦燥だけが残っていた。
役目を終えた達成感や安堵感よりも蒼がこのまま起きないのではないかと言う不安の方が勝っていた。
ゼウスは茜を安心させるように出来る限り優しい声音で話しかける。
「大丈夫だ。力はいずれ戻るし、蒼はすぐに目が覚める。ただ、力が戻るまでは無理に力を使うな。天使や悪魔の力や茜のもう一つの神の力なら使っても問題はないが、造物主の力だけは使うな。」
ゼウスの言葉に茜は頷き、蒼をゼウスが用意したソファーの上に横にならせた。
蒼は倒れてもなお茜の手を離さなかった。
そして茜も力を使い果たしていたため安心した今、眠りに落ちていた。
今まではもう一つの神の力があったため倒れずにすんでいたのだ。
「ゼウス様、どうなったのですか?」
それまで黙って様子を見ていたミカエルがゼウスに話しかけた。
「それは、こいつらのことか?それとも世界のことか?」
「・・・世界です。」
ゼウスの試すような問いにミカエルは一度だけ蒼を見たが、すぐに視線をゼウスに戻し答えた。
息子より世界かと、少しだけでも期待していたゼウスは小さく息を吐き出した。
「それなら帰ってみれば分かる。お前以外の者はすでに返してある。この宮殿から外に出れば戻れる。」
ゼウスの言葉通りいつの間にか床に倒れていたラファエルもいなくなっていた。
それを確認したミカエルは頭を下げ、宮殿から出た。
残っているのは茜たちを覗けばゼウスとルシファーだけだ。
「もう少し父親としての役目を果たしてくれればいいのだが・・・」
ゼウスの漏らした呟きにルシファーは苦笑を漏らした。
「あいつもどう接すればいいのか分からないいだけです。こういうところに関しては不器用だから・・・」
天使全体が進む道は見えているくせに自分のこととなると迷ってしっまってからっきしダメになる。
魔界と戦っていた時だって昔のことを忘れてしまえばいいのにいつもどこかためらいが残っていた。
「そうだな。・・・お前も今日の所は帰れ。こいつらが目を覚ましたらお前とベリアルの所に行かせる。」
「・・ベリアル?」
何のことか分からないと、ルシファーは聞き返した。
その問いにゼウスはまた溜息を吐いた。
「あぁ、茜が対価を払う約束をしたからな。約束は必ず果たす、それが2人の決まりごとのようだ。」
「そう、ですか。」
ルシファーは眠ってしまった茜のもとに近づいた。
手はいまだに繋がれており頭を蒼が眠るソファーに預けている。
ルシファーは近くにあったブランケットを茜に掛けた。
「すまなかったな、茜。・・・ありがとう。」
ベリアルとの間でどんな取引があったかは分からないが、それでも自分やミカエルの為に何かを犠牲にしたことは分かる。
ルシファーが髪を梳くと身じろぎをしたが起きる気配はなかった。
「・・・ゼウス様、茜をお願いします。」
ルシファーはそれだけ言うと宮殿から出ていった。
部屋には三人が残っている。
茜と蒼は寝てしまいゼウスだけが起きていた。
ゼウスは身近にあった椅子に腰を下ろした。
そこから見える茜と蒼の寝顔は穏やかだった。
世界を救うという大義名分のもと幸せを奪われた姉弟。
それを奪ったのも与えなかったのもゼウス、ゼウスが与えた物は力と呪いと絶望だけだった。
それに加え2人はこれから世界に縛られてしまうだろう。
永遠の王として、世界が再び終焉を迎えないように見張り続けなければいけない。
ゼウスが2人にしてあげられることは限られていた。
「幸せになれ、茜、蒼。」
お前たちにはその権利がある、と言ってゼウスは立ち上がった。
ゼウスにも神としての仕事がある。
神々をまとめこれからこの新しい世界に適応させていかなければならない。
だが、まず優先事項が高いのは継承式のことだ。
時間があるとはいえ神相手の交渉だ、上手く事は運べないだろう。
ゼウスは近くにあった別の部屋へと消えていった。




