第67話 堕天の真相
茜たち三人は話し合いをするために用意した部屋とは別に作られた部屋に来ていた。
部屋の中には特にこれと言うものは置かれていなくて、部屋全体の色も白一色と言う普通の部屋だった。
「マスター、一度に全ての情報を伝えて、その後で俺の言葉で説明する。それでいいか?」
「うん。構わないよ。」
ベリアルが床に魔方陣を描いて、その中心に茜が立った。
ベリアルは茜の前に回り込み膝ま付き、茜の左手を取った。
そして、しばらく見ていたかと思うと、ベリアルは茜の手の甲に1つ口づけを落とした。
ベリアルが顔を上げた時に見えた茜の表情は困惑だった。
「マスターはもっと人の好意を素直に受け取るべきだ。いつも無茶するから心配だし目が離せない。それにもっと周りを頼れ。皆、マスターのことが好きなんだから。俺の気持ちだって嘘じゃない。それぐらい賢いマスターなら分かるだろ?」
後ろからの殺気もすべて無視して言い切った。
手の甲へのキスは忠誠の証、それがベリアルの偽りのない気持ちだった。
茜が苦しそうに顔をゆがめている。
「マスターがそこの餓鬼の心を護ろうとしているのは分かる。だがな、マスターが傷つくことで傷つく奴もいる。それを隠したって気づく奴は気づく。」
ベリアルの言葉に茜の顔が泣きだしそうにゆがむ。
「・・・蒼。」
蒼は何処からか取り出した剣をベリアルの首に突き付けていた。
それもただの剣ではなく、悪魔の弱点である聖剣をだ。
「ごめんね、お姉ちゃん。僕はそれが正しいことであってもお姉ちゃんを気付つける奴は赦さない。・・・それに僕が傍でしっかり見ていれば済む話だから。」
蒼はベリアルに突き付けていた剣をそっとおろした。
剣が首元から離れるのと同時に殺気も消え、ベリアルは息を吐き出した。
「・・・シスコン。」
嫌味を込めたベリアルの言葉にも蒼の表情は変わらなかった。
「そうだけど、何か問題ある?あなただってロリコンでしょ。」
蒼の言葉にベリアルは視線を逸らした。
コホンっと1つ咳払いして話し始めた。
天界にいたころはルシファーは全ての天使のあこがれの存在だった。
それはミカエルも然りで、ルシファーとミカエルは仲のいい兄弟だった。
そんな平穏が当たり前だったある日、ルシファーは神の意思に反し、人間に光(知恵)を与えた。
そして、それが神の反感を買い神はルシファーを堕天させた。
その際にルシファーを信じていた3分の1の天使は一緒に堕天した。
神にとってもこれは大きな誤算だった。
ルシファー1人を堕天させるつもりだったのに力のあるもの、ルシファーと親しかったものが次々に堕天使となってしまった。
神は他の天使がこれ以上堕天するのを防ぐために、嘘の情報を流した。
『我はルシファーにアダムに礼拝せよと命じた。だがルシフェルはその命を拒み、自ら堕天した。ルシフェルは神の敵対者となった。』
そして、これを聞いたミカエルはルシファーを憎み、殺すことを決めた。
天使にとって神は主であり、どんな命令でも従わなければいけない存在だ。
それを破ったルシファーにミカエルは激怒した。
「ということだ。これが俺の知っている全てだ。あの二人は仲が良かっただけに一度生まれた溝は深かったという訳だ。」
「どうして誰もそれを話さないの?」
今のベリアルの話を聞けばミカエルが真実を知れば問題が解決するようにも思える。
なぜ今までこの問題が解決していないのか疑問に思うほどだ。
だが、それに対して返ってきた答えは納得できるものであった。
「天界には知っている奴はいないだろうし、神が真実を話すはずがないしな。そ
れにあいつは悪魔のいうことを聞かないだろ。」
それほどミカエルの悪魔嫌いは激しかった。
神である茜をも悪魔の血を引いていると言って殺そうとしたのだから悪魔の言葉に耳を傾けるわけがなかった。
「なら僕が話すよ。多分それで解決する。」
蒼なら悪魔でもないし、神と言うこともあって話をすることは可能だろう。
それに加えこの笑顔の時は必ずと言ってもいいほどやることがあった。
「・・・蒼、騙すの?」
蒼は答えなかったが、笑っていた。
「まぁ、任せてよ、お姉ちゃん。」
笑みを深め、蒼は部屋から出ていった。
「ねぇ、ミカエル。神は正しい?」
蒼がミカエルを呼び出して最初に言った言葉がそれだった。
ミカエル自身も何故呼び出されたか分かっていない、それ故に何を問われているのかも理解できていない。
「神はね、絶対的な正義じゃないよ。超越的な存在だから何をしても止められる人はいない、だからそれが正しいと思わされる。」
何事も正しいことをするから神なのではなく、何者にも止められない存在だから神なのである、蒼はそう考えていた。
神が人に与えるのは奇跡と呼ばれるが、その中には福だけでなく禍も含まれている。
だからこそ、嘘をつく神もいる。
そのうえで天使が神の嘘さえも真とするならば、その意識を打ち壊さなければならい。
「・・・何が言いたい。」
「一つ言えるのは神は天使に対して嘘をついているということ。」
「・・・それは私とあいつのことを言っているのか?あいつが神を裏切ったそれは真実だ。」
これだけの情報でそこまでたどり着けるのは流石と言える。
「じゃあ、何が理由でルシファーは裏切ったの?」
「それは・・・・」
分からない、何故あいつが裏切ったのか。
あの時はあんなにも怒りを感じたというのに。
「・・・・神のアダムに礼拝せよという命令を逆らったからだよね。」
答えられないミカエルに変わって蒼が答えを示す。
ミカエルが答えられないのは分かっていた。
何故なら神はミカエルには嘘の理由さえも教えず、ただルシファーが裏切ったとだけ伝えたからだ。
「でもそれが嘘なんだよ。ルシファーは人間に希望すらも感じるほど人類を愛していた。」
「嘘だ!!」
ミカエルは座っていた椅子から勢いよく立ち上がった。
そんなミカエルを見ても蒼は表情一つ変えずに話を続ける。
「ほら、僕の言葉が嘘だということはあの時の神の命令も嘘かもしれないよ。同じ神なんだから。」
「・・・・・・」
「それに、ぼくは全てを知るゼウスの孫だよ。」
全知全能の神ゼウス、彼は全てを知っていて出来ないことは何もない。
それはミカエル自身がよく知っていること。
そしてミカエルに蒼が真実を知っているということを思い込ますことが目的だった。
「ルシファーが神を裏切ったんじゃなくて、ルシファーの力を恐れた神がルシファーを天から落としたんだよ。」
ミカエルももう嘘だとは言わなかった。
神も嘘をつくということが証明されたが、それでも神に従う心は変わらない。
けれどもあの時の神のいうことが真実ではなくあの人を今までのように憎む必要もないと知り、安堵している自分がいることも事実であった。




