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神々の箱庭  作者: 星奈
第四章 新たな世界へ
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第66話 兄弟

 ゼウスが杖で床を一度突くと部屋の中に音が広がっていった。

 そして、それまで何もなかった場所に一つの机と8人分の椅子が用意された。

 まず、ゼウスが座り、その反対側に茜と蒼が座る。

 横側にはミカエル、ラファエル、それと向き合うようにルシファー、ベルゼブル、ベリアルの順に座った。

 話し合いを始めようとしたが、茜や蒼の席から離れた席で向き合う二人が睨み合っていた。

 正確にはミカエルがルシファーを睨み、ルシファーは目を瞑り気にしないようにしていた。

 ゼウスもそれに対して何か言える立場ではなく、見ているしかなかった。

 しかし、そんな険悪な雰囲気も長くは続かなかった。


 「なんであの兄弟はあんなに仲が悪いんだろうね?」


 この空気を壊すべくまず蒼が動いた。

 直接的に言うのではなくあくまでも間接的にだったが効果は覿面だった。


 「そうだね。兄弟なんだから少しくらい仲良くすればいいのに。」


 茜と蒼が普通の声で話していると、それまで目を瞑っていたルシファーがこちらを見た。


 「茜、聞こえてるぞ。」


 ずっと、敵意を向けられているためか、いつも茜に対して向ける表情とは違い厳しい表情になっていた。


 「聞こえるように言ってるから、大丈夫。」


 「・・・そうか。」


 そんなルシファーに対して茜はいつも通りに返した。

 ルシファーが口を挟んだのと同時にミカエルもこちらを睨んでいたが、無視した。

 ルシファーもまだ何か言いたそうにしていたが諦めたようだった。


 「ねぇ、ベリアル。ベリアルは何があったか全て把握しているの?」


 「そりゃあ、まあ。俺は対価さえもらえば全ての真実を相手に教えることが出来るからな。」


 ベリアルの記述は様々なものが存在しているが、その中に『召喚者が生贄を捧げないと要求に対して真実を答えようとしない』というものがある。

 それはつまり、それ相応の知識を持っているということに等しい。

 それに彼は当事者の一人だ。

 彼以上に真実を知っている者もそうはいないだろう。


 「対価って何を出せばいいの?あげられるようなものが余りないけど・・・」


 「普通なら生贄とかだけどね。」


 けれども、茜も蒼も死ぬことは出来ない。

 それは自身を生贄として捧げることは出来ないという意味でもあった。


 「私の命はあげられないし、何を対価にしたら教えてくれる?」


 本当に何を差し出せばいいのか分からなくなった茜はベリアル自身に問いかけたが、それに対してベリアルは笑うだけだった。


 「そこで、他人の命を出すという選択肢はマスターにはないんだな。」


 「うん。」


 当然、とばかりに頷く茜に蒼もベリアルも苦笑いを返す。

 その時、茜が不意に何かを思いついたような表情をした。

 それを見たベリアルは嫌な予感しかしなかった。


 「私の片目を捧げる、それでどうかな?」


 「は!?」


 突然の茜の言葉にベリアルは耳を疑った。

 ベリアルは嫌な予感はよく当たるなと半ば現実逃避をしていた。

 蒼も勢いよく立ち上がっていた。

 椅子がガタッと揺れたが倒れることは無かった。


 「どうしたの?」


 いきなり立ち上がった蒼に驚いて不思議そうに蒼を見た。


 「何を言ってるか分かってるの?お姉ちゃんがあいつらの為にそこまでする必要

はないよ。」


 「分かってる。過去を知ったとしても私に何かが出来るとは限らない。それでも、私がしたいんだ。兄弟が仲違いしているのは悲しいから。」


 その言葉に蒼は何も言えなくなる。

 蒼自身兄弟が仲違いしているのはいいとは思わないし、どうにかしたいとも思う。

 茜も蒼もお互いがたった一人の姉弟(かぞく)だ。

 だからこそ、蒼は茜に何も言えなくなった。

 けれども、ここで説得を止めるわけにはいかない。

 説得を止めてしまえば茜が傷つくことになる。


 「・・・お姉ちゃん、それならラプラスの悪魔にでも聞けばいいんじゃ?」


 苦肉の策、この案が通るとは蒼も思っていないが、それでも茜が傷つく以外の方法があるのならばその方法を使ってほしい。

 だが、茜の答えはやはり否、だった。


 「人の過去の痛みを知るのに何の代償も払わないんじゃ、あの人たちを侮辱する

だけだよ。知られたくない過去を視るんだからそれぐらいの代償じゃ軽いよ。」


 自分自身に蒼に知られたくない過去の傷があるからこそ茜はそう思っていた。


 「だが、マスター。目を失うということは霊格を削ることだ。それでも、マス

ターは知りたいのか?」


 目は神の霊格(そんざい)そのものだ。

 目に力が宿るわけではないが、神の証であり象徴でもある。


 「うん。私に何かが出来るとは思わないけどほっとけないから。それに、例え霊格が削られたとしても、蒼がいてくれるから大丈夫だよ。・・・ただ、私の役目が終わるまで対価を払うのを待ってほしい。」


 蒼とベリアル、2人の説得も茜は聞かなかった。


 「ったく、誰に似たんだ?この頑固さは。」


 「そんなの、あいつに決まっている。」


 悪態づくベリアルに蒼が苛立たしげに返した。

 蒼は反対側の席でミカエルに睨まれているルシファーを睨んだ。

 ルシファーがそれに反応して蒼を見るが、ルシファーが見た時にはすでに蒼は茜に視線を戻していた。


 「本気なんだな、マスター?」


 茜は何も言わず、頷く。

 茜が椅子から降りて、近くにある部屋に向かって歩き出し、その後ろに蒼とベリアルが続いた。

 近くにあった扉を開け、別の部屋へと入った。

 ゼウスを除く他の4人は3人がいなくなったことに気づかなかった。








 「・・・・・・」

 

 唯一、茜たちが席を離れたことに気づいたゼウスは罪悪感を感じていた。

 本来自分が片をつけなければいけないことを茜に押し付けてしまったからだ。

 茜はゼウスが関わっていること自体知らないのだから押し付けられたなどと思わないのだが、ただでさえ大役を押し付けてしまっているゼウスの罪悪感が完全になくなることは無かった。


 『いいのか、ゼウス卿。あの者らがしようとしていることは分かってるんだろ?』


 ゼウスの足もとから声が届いた。

 普通に聞こえるような声だが他の者に聞こえた様子は全くない。

 そして、ゼウスにもその姿は見えなかった。

 けれども、聞きなれていたゼウスにはその声が誰のものかは分かった。


 「・・・茜が決めたことを止められるはずがない。それに茜にはきちんと継承

されている。」


 『まぁ、貴方がそういうのならいいが。・・・次に会うのは継承式の時だな。今

まで世話になった、我らが王よ。』 


 そう言ったきり、男の声は聞こえなくなった。 


 (お前らしい別れだな。・・・ノーム、お前は今まであいつを見てきたのだろ?)


 ゼウスは茜たちが出ていった扉を見た。




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