第65話 空中宮殿
―――――空中宮殿―――――
ルシファーたち3人はそこに来ていた。
茜が言ったように中にはゼウスが待っていた。
「久しいな、古き友よ。お前が堕天して以来だな。」
「お久しぶりです、ゼウス様。」
ルシファーは挨拶をし、後ろの二人も続けて頭を下げた。
「相変わらずのようだな3人とも、ルシフェル——――――」
「ゼウス様、それはすでに捨てた名です。」
ゼウスが言い終わる前にルシファーが言葉を重ねた。
これ以上その名を呼ぶな、というようにルシファーの雰囲気が変わった。
「・・・・すまなかった。あの時、お前たち兄弟の仲を取り持ってやれなくて・・・」
「それは俺らの問題です。ゼウス様が気を病まれる必要はありません。」
明らかな拒絶にゼウスはただ「そうか。」とだけ返した。
重い沈黙が広がる。
過去に何があったのか、それを正しく知るものはほんの一握りだ。
だが、この場所でそれを知らないものはベルゼブルだけだった。
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ベルゼブルとルシファーが出会ったのは、ルシファーが堕天し魔界の王となった後だった。
ベルゼブルが神堕ちし、自棄になって人間の魂を食い荒らしていた、そんな時だった。
突然の出会いは嵐の中、襲い掛かった。
「お前がベルゼブルか?」
突然、そんな声が聞こえてきた。
誰も近づかない嵐の中、その男は平然と立ち、ベルゼブルを見下ろしていた。
「・・・誰だ、お前」
警戒しながらも男に声をかけた。
男は何が面白いのか笑みを浮かべている。
「俺はルシファー。お前と同じ堕ちた者だ。」
堕ちた、その言葉にベルゼブルの肩がビクッと跳ね上がった。
ベルゼブルは、もともとという嵐と慈雨、豊穣の神だった。
だがイスラエルの地に入植してきたヘブライ人たちにより邪教神とされ神堕ちした。
そのことを思い出したベルゼブルは再び人間への憎悪が湧き上がってくるように感じた。
目の前のこの男の魂も喰ってしまおうかと思いだすぐらいに・・・
「人間が憎いか、だが生憎俺は人間が好きだからな、お前が人間の魂を食らい尽くすのを黙ってみていることは出来ないようだ。」
「なら、どうするっていうんだ?大天使長ルシフェル」
「その名前は捨てた。次にその名前を呼べば殺すぞ。」
飄々としていて何処か捉えどころのなかったルシファーの雰囲気が一瞬で変わり、ベルゼブルの背中に冷汗が流れた。
(・・・勝てる気がしない。)
初めてだった。
そんなふうに誰かに対して思うのも、強敵を目の前にして足が竦むのも。
だが、そんなベルゼブルの思いを知ってか知らずか、ルシファーの放つ威圧感はすぐになくなり、元の雰囲気に戻った。
「なぁ、ベルゼブル。俺たちと一緒に来ないか?」
「は!?」
何を言っているのか分からないとルシファーの顔を見れば、ルシファーの後ろにいくつかの人影が見えた。
「俺は、魔界を変える。その為に力を貸してほしい。」
拒否することさえも思いつかず、気づいた時には頷いてしまっていた。
けれどもそれより自分の心の中で目の前の男に興味を抱き始めていることに驚いた。
その後も度々いろんなことに巻き込まれ、気づいた時には魔界でも上位の存在となっていた。
ルシファーに忠誠を誓ったあの日が遠く懐かしい、だけれども、真実を知らないことが淋しいとも思うこの胸の内に心の中で苦笑しつつも、今までのことを思い出していた。
「どうしたベルゼブル?」
思考に耽っていたベルゼブルにルシファーが声をかけた。
ベルゼブルは思考を一旦中断させ頭の片隅に追いやった。
「いや、何でもない。ただ・・・・」
寂しくて、とは続かず言葉を切った。
ルシファーもベリアルもベルゼブルがこれ以上話す様子がないのを見て話を切り上げた。
ルシファーもゼウスと話したいことは山ほどあった。
昔のこととは関係なく、茜のことについて話したいと思っていた。
「・・・ゼウス様——————」
「貴様が容易くそのお方の名前を呼ぶな!!」
突然の言葉と共にルシファー目掛けて剣が襲い掛かってきた。
ルシファーはそれを片手で受け止め相手の顔を見る。
そこにいたのはルシファーにとって会いたくて会いたくなかった人だった。
「・・・ミカエル・・・」
ミカエルは普段は滅多なことでは抜かない剣を抜き放ち、ルシファーを睨んでいた。
「・・・ミカエル、弟(お前)が兄(俺)に勝てると思うのか?」
「っ!!」
ミカエルの剣を持つ手に力が入る。
ミカエルはルシファーとの力の差を理解していた。
まだルシファーがルシフェルとして天界にいたころミカエルはルシファーに憧れていた。
誰よりも美しく、賢明で、強いルシファーに。
だが、あの日ミカエルはルシファーに裏切られたと感じた。
それまであった憧憬や羨望は全て憎しみへと変わった。
「ミカエル、ゼウス様の御前ですよ。」
そんなミカエルを止めるようにラファエルがミカエルの肩に手を置いた。
「・・・っ、分かっている。申し訳ありません。お見苦しいところをお見せしてしまい・・・」
ゼウスの前に出て、ミカエルとラファエルは膝をつき頭を下げた。
「構わん。それにこれは私が実行したものではない。私はただの保護者だ。分かっているのだろ?」
「・・・はい。」
ミカエルは頷き、ゼウスは2人が帰ってきたことに気づいた。
「茜、蒼。」
ゼウスの呼びかけに茜と蒼は同時に答えた。
「行ってきます。」と言って神界を出てから茜はまだ一度も帰っていなかった。
だから、今一番相応しい言葉を発した。
「ただいま、ゼウス。」
2人の言葉にゼウスも覚えていたのか、何処か表情が柔らかかった。
しかし次の瞬間にはいつもの顔に戻っていた。
「あぁ、・・・さっそく始めるか。」
ゼウスは手に持っている杖で床を叩いた。




