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神々の箱庭  作者: 星奈
第四章 新たな世界へ
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第64話 宮殿への招集

 影が膨張し、次の瞬間には今まで見ていた景色とは違う景色が目の前に出来上がった。

 目の前にあるのは初めて見た時と同じ球体の中の世界。

 映し出されたのは茜たちが住んでいた村に似た光景。

 建物や人がなくなり、ただ自然だけが残っている場所。


 「どうだ、オレ様特製のこの世界は?」


 自信満々に誇らしげに胸を張るクロアを睨みつけた。


 「・・・ねぇ、クロア。何故この偽りの世界を創ったの?」


 この世界は間違っていると訴えかける。

 在るべきものが存在していなかった。


 「キハハ!!流石、茜。オレ様が見込んだだけのことはある。その通り、これは

偽りの世界。やる気がなさそうだから焚き付けようと思ってな!!!」


 パチン、と言う音と共に世界の一部が変わった。

 何もなかった場所に一つだけ建物が見えた。

 茜と蒼が人間界で住んでいた家だ。


 「おい、さっさと始めようぜ。」


 ウリエルが痺れを切らしていた。

 言葉と共に剣を鞘から抜き、一気に駆け出した。

 炎を纏わせた剣を茜に向かって振り下ろす。

 茜はそれを少し動いただけで躱し、距離を取る。

 ウリエルは茜を追いかけ、更に容赦なく剣を振り追い詰める。

 だが、茜はそれら全てを最小限の動きだけで危なげなく躱し、再び距離を取る。

 その茜の行動にウリエルは苛立ちを浮かべていた。


 (なぜ、本気を出さない。仮にもあいつの姉だ、戦えないという訳でもないし、遊んでいるというようにも感じない。)


 そう、茜は戦い始めてから一度も攻撃を仕掛けていなかった。

 そもそもウリエルの炎は掠っただけでも全てを焼き尽くす神の炎だ。

 それに剣を主とする戦い方の為、剣の腕はかなりのものだ。

 それを全て躱せるものが戦えないはずがなかった。

 見かねたクロアは一度溜め息を吐き茜に声をかけた。


 「茜!!一ついいことを教えてやる。そいつは蒼に剣を向けたぞ。」


 クロアは戦いが膠着状態に陥った理由に気づいていた。

 茜は勝負を引き受けたが、茜自身に戦う理由が無かった為、やる気も出ていなかったのだ。


 「・・・そっか。それなら闘う理由には十分だ。」


 一度目を瞑り、次に開いた茜の目の色は金色に変わっていた。

 〝神〟特有の瞳の色。〝神〟である証。


 「行くよ、ウリエル様。」


 ウリエルは今までと雰囲気の変わった茜に背筋が凍るように感じた。

 蒼を相手にした時には感じなかった威圧感。

 蒼が神の力を解放したときにだけ感じた重圧感。

 背中に冷汗が流れる。

 ウリエルは近づき剣で攻撃することを止め、剣を振り炎で攻撃する。

 炎は茜に向かって一直線に走り、茜のいる所で大きく燃え上がった。

 勝ったと、安堵の溜め息を漏らした直後、予想外の後ろからの衝撃に襲われ膝をついた。


 「なっ!?」


 ウリエルは衝撃が来た方向を見た。

 そこには神の炎によって燃えているはずの茜が立っていた。

 ウリエルは慌てて自分が放った炎を見たが、その直後大きな風が吹いたように炎が靡き消えた。


 「・・・何をした。」


 意識して問いかけたわけではない。

 あまりの驚きに無意識のうちに口から言葉が漏れてしまっていたのだ。

 茜は一息ついて、ウリエルに答えを示した。


 「ん、感じ取れないほどのスピードで動いただけだよ。」


 単純かつ明快、けれども本当にそれだけのことだった。

 蒼と茜を知っているものからすれば、こういうところに二人の違いが表れているように感じるだろう。

 喉を震わせて笑い出したウリエルに茜は首を傾げた。 


 「いや、わりぃ。お前だからあいつと対等でいられるんだなと思って。」


 謝りながらも、ウリエルは笑い続けている。

 真反対と言ってもいいほどに性格は違うのに、どこか似ている二人。

 ウリエルは蒼ほど傲慢で純粋な神らしい神はいないだろうと考えていた。

 そんな蒼の瞳が見つめる唯一の存在、茜を今日初めて見て、戦って納得した。

 こいつならと———————


 「勝負ありだね。ウリエル、君の負けだよ。」


 ラファエルが優しそうな笑顔で告げる。


 「ねぇ、ウリエル様。何が聞きたかったの?」


 瞳の色を戻した茜は問いかける。


 「・・・俺は負けたぞ。」


 「でも、命令することなんてないし、それに負けられなかっただけだから。」


 「負けられなかった?」


 「うん、もし私が負けたら、ウリエル様が死ぬかもしれないし、私たちは死ねない存在だから。」


 魔界の君主たちにまで茜に手を出したら殺すと脅しをかけるほどだ、もし茜が負けでもしたら本当に相手を殺しかねない。

 茜も出来るならそんなことは防ぎたい。


 「だから、ウリエル様の質問に一つだけ答えてあげる。」


 納得いかなそうな顔をしながらも、ウリエルは諦めたのか、一つ息を吐き出し質問を口にした。


 「・・・なら、何故お前たちは世界を救おうとする。神界に居ればお前たちは助かるのに。」


 それがウリエルの抱えていた疑問。

 最初は純粋な好意か、神の気まぐれぐらいに思っていたが、蒼がそんなことを思っているようには見えなかった。

 それぐらい蒼は茜のことしか考えていなかった。

 茜はウリエルの質問の意図を理解し、自分が思っているままに答えた。


 「それが私たちが生まれた理由だから。ゼウスの世界を救いたいという私たちを

生み出した。それにゼウスは初めて私たちに居場所を与えてくれた。だから、ゼウスの願いを叶えたいと思った。それだけだよ。」


 迷わず答えた茜に、そうか、と頷き返す。

 納得できたウリエルの顔には安堵が浮かんでいた。

 ふ、と茜は近づいてきている気配に気づいた。

 本来なら外の世界のことは分からないがこの気配だけは間違えるわけがなかった

。


 「ゼウスも待ってるから、そろそろ行こう。天界からは誰が出席する?」


 それまで黙って見ていたミカエルに向かって問いかける。


 「・・私が行こう。」


 ミカエルはもともと決めていたらしくすぐに答えた。

 けれどもそれをよしとする者はいなかった。


 「ミカエル、私も行くよ。」


 「・・・分かった。」


 ミカエルも自分一人で行くのは認められないと分かっていたのか少し間をあけてラファエルの同行を認めた。


 「それじゃあ、ミカエル様とラファエル様が行くの?」


 「・・・あぁ。」


 知性のミカエルと理性のラファエル、この二人が行くのに否定するものはいなかった。


 「分かった。クロア、ありがとう、もういいよ。」


 影がわらったのと共に茜たちは元の世界に戻り、影も消えた。


 「あそこでやるから先に行ってて。もうすぐ蒼が来るから私は待ってる。」


 茜は2人に先に行くように促し、自分は後から行くことを伝えた。


 「分かった。」


 ミカエルとラファエルは茜の指す宮殿に向かって飛び立った。

 二人を見送ってしばらくして蒼が茜のもとに到着した。


 「お姉ちゃん、手は?」


 らしくないほどに慌てた蒼に少し驚きながらも蒼が言おうとしていることを考えた。


 「手?・・・何ともないよ。」


 「嘘。」


 蒼が茜の言葉を信じなかった。

 茜は驚きながらもここまで蒼が断言しているものに思い至った。


 「本当だよ。ベリアルが治してくれたから。・・・怒られたけど。」


 言葉で言っても信じない蒼に茜は両手を見せた。

 それを見て、やっと安心したのか、その場に座り込んだ。


 「良かった。」


 茜も蒼の前に座り、蒼の頭を撫でた。


 「大丈夫。私は何処にもいかないよ。ずっと一緒にいるから。」


 「うん。」


 「よし、じゃあみんなの所に行こうか。」


 茜と蒼は手を繋いでゼウスたちが待つ空中宮殿に向かって飛び立った。

 そしてその場にはウリエルとジブリールだけが残った。


 「あ~あ、茜だけだよな。蒼にあんな顔させられるの。」


 ジブリ―ルが拗ねたように言うのをウリエルは茜たちを見ながら聞いていた。

 今思えばジブリールの蒼に対する興味はいつもより行き過ぎていた。


 「妬いてるのか?」


 面白いことや楽しいことを好む性格ではあったが、その反面、飽き易い性格でもあった。

 そんなジブリールがこんなにも長く一人について回るということ自体が珍しいことでもあったのだ。


 「・・・・・・」


 ジブリールはウリエルの言葉に何も返さなかった。

 それこそが肯定の証でもあった。




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