第63話 過去の謝罪
蒼にはラファエルかジブリールの所に行けと言われていたけれど、茜はミカエルの前に降り立った。
目の前に現れた少女にミカエルは怒りを隠そうともしなかった。
「・・・何のようだ。」
その声は怒りと憎しみで塗りつぶされていた。
けれども茜がそれに怯むことは無かった。
「今からあそこで魔界と天界、神界の代表者でこれからについて話し合います。代表者は3名までです。・・・・それと、・・・・」
「それと?」
言いよどむ茜にミカエルは先を促した。
茜は大きく息を吸い、吐き出した。
「それと、あの時は御免なさい。」
幸いにも茜は頭を下げていたため気づくことは無かったが、ミカエルは戸惑いを隠しきれなかった。
「・・・なぜ、謝る。」
「自分勝手な理由で力を暴走させて、それでミカエル様を傷つけたから・・」
ごめんなさい、と頭を下げている茜にミカエルは眉を顰めた。
自分が最も憎む男の娘がいま、自分の目の前で無防備に頭を下げている。
けれども何故かこの娘を殺そうと思うことが出来なかった。
(何故だ・・・こいつは彼奴の血を引いているのに・・どうしてあの時みたいに・・・)
ミカエルは結論が出せずに戸惑っていた。
この少女の言う〝あの時〟が何時を指しているのかは理解している。
蒼とミカエルが初めて会った時に蒼が突きつけてきたことはほとんどが事実だがそれが全てではない。
だが、それでもミカエルが茜を殺そうとしたことは事実であり恨まれこそして謝られるとは思っていなかった。
ミカエルはそっと自分の羽を見た。
あの日失った一対の白い翼。
誰にも見せることのなかった八枚目の翼があった場所を。
「あの時、私はあの中で蒼に出会った・・・」
世界から拒絶されたように感じ、あの日茜は力を暴走させた。
世界を滅ぼしかねないほどの力の渦の中で茜は自分を包む暖かさを感じた。
そしてまだ生まれてもない蒼の姿が茜の脳裏をよぎった。
その蒼の姿を見た茜はただ一つのことを思った—————この子に会いたい—————と。
その瞬間今までコントロール出来なかった力の渦が収まり始めた。
「だから、私は蒼を傷つけるものを許さない。例え、それが私であっても・・・」
「・・・・・」
哀しい顔の中にも強い意志を込めた瞳、ミカエルを見据えるその瞳にミカエルは理解した。
何故、自分がこの少女を殺したくないと感じたのか。
(似ている。・・あの娘に。どこか儚く、それでいて強さを内に秘めたあの娘に。初めて護りたいと思ったあの娘に。)
あの男を彷彿させる金色の髪に赤い瞳。
だけれど、今まで見てきたこの少女の言動の端々に彼女を感じることが出来た。
「・・あぁ、そうか・・・」
思わず漏れた呟きは誰にも聞こえることは無かったが、自然と顔が緩んでいたのだろう、自分を見る少女の顔にも笑みが浮かんでいた。
「あ~あ、ミカエルまで・・・本当に蒼に殺されるよ。まぁ、それも面白そうだけど・・・」
後ろでジブリールが物騒なことをぼそぼそと呟いていた。
ミカエルも茜もジブリールの言葉の意味を理解できていなかった。
殺される、その意味が今までとは違っていたことに気づいていなかった。
「おい、娘。俺と一勝負しろ。」
背後から声をかけられた。
見たことのない顔だったが、誰かは予想がついた。
今、目の前にいる人をのけてここにいる三人は全員四大天使と呼ばれていた。
その為この人も四大天使の一人だと分かった。
「貴方は・・・ウリエル様?」
男が頷くのと同時に笑いをこらえようとする声が聞こえてきた。
振り向くと、ジブリールが肩を震わせていて、ラファエルが呆れたような顔をしていた。
「ウリエル。戦闘は禁止されてるよ。それに君の悪い癖も出てきてる。」
やはりラファエルの口調はどこか呆れがまじっていたが、ラファエルの言葉を否定する声が上がった。
「別にいいよ。ミカエル様が禁止したのは悪魔との戦いだけだから。でも私には戦う理由がないよ。」
「まぁ、確かにそうなんだが。・・・じゃあ、賭けをしよう。お前が勝ったら何でも一つ言うことを聞く。俺が勝てば———————」
「何でも一つ知りたいことを教える。」
ウリエルの言葉を先回りして茜が答えた。
レヴィアタンの時と同じ流れだが彼と違い賭けているものは対等ではあった。
「流石はあいつの姉ということか。」
驚きに目を見開きながらもウリエルの目は茜を観察していた。
「クロア!!」
茜の声が響き、その声に反応するように影が揺らめいた。
そして茜の目の前の影がひときわ大きく動き平面的な影絵が出来上がった。
その影は口角を上げて笑っていた。
「キハハハ。何だ小娘、ようやくオレ様の物になる決意でもしたのか?だったらオレ様ハッスルしちゃうぜ!!!」
「・・・クロア、異界を造って。」
今の言葉を聞かなかったことにして話を進めようとしたが、
「オレ様を無視するんじゃねぇ!!」
上手くいかなかった。
クロアが声を荒げ、それに対して茜は少しだけ怒りを込めて言う。
「煩い、駄神。仕事をきちんとして。」
力を押さえていた茜の目が紅から金へと変わり茜の纏う雰囲気が変わった。
「キハハハハ!!初めて見るな、その目。オーケー、茜。一丁ド派手にやるかッ———————————!!!」
影が膨張し、ここに居る者全員を飲み込んだ。




